第109話 昼食と思わぬ提案
野営は快適に終わり、無事に夜が明けて朝になった。フランツたちは寄り道することなくまっすぐトーレルの街に戻り、昼頃には街に着く。
「無事に戻ってこられたな」
「成果も凄いですよ! 早く工房に戻って素材処理をしないといけませんね」
「ああ、さっそく研究や魔道具作製もしなければ」
浮き足立った様子で会話をする二人に、フランツが声を掛けた。
「今回はありがとう。私たちも勉強になり、山中の探索を楽しめた」
「いや、それはこっちのセリフだよ。三人のおかげで最高の素材をたくさん採取できた。本当にありがとう。お礼に昼食は工房でご馳走させて欲しいんだが、時間はあるか?」
グレータのその提案に、フランツはすぐに頷く。元々グレータの才能を活かすべきだと考えていたのだ。ここで別れるのは本意ではなかった。
「ありがたくいただこう。二人も良いか?」
「わたしはいいわよ」
「私もです」
二人も了承したことで、さっそく五人は工房に向かうことになる。冒険者ギルドへの報告は後回しだ。
工房に着いたところでルッツが素材の保管を始め、その間にグレータが奥のキッチンで昼食を作ってくれることになった。
「ちょっと待っててくれ」
そう言って手際よく料理を始めるグレータに、フランツは感心の面持ちを浮かべる。
「グレータは料理が上手いのだな」
「正直に言うと、予想外ね」
「美味しそうだわ」
マリーアとカタリーナもフランツに続けて口を開き、三人の感想を聞いたグレータが口角を上げた。
「あたしは意外と生活力もあるんだ。普段が女らしくないから予想外みたいで、皆に驚かれるんだけどな」
その言葉に、フランツは首を横に振る。
「いや、グレータは素材に対してとても几帳面で丁寧だし、工房の中も綺麗に整えられている。生活力があるのは一目瞭然だろう」
本心からそう告げたフランツにグレータは瞳を見開いて少し固まり、くしゃっと幼いような笑みを見せた。
「ありがとう。フランツはいい男だなぁ〜。あたしと結婚するか?」
さらっと求婚したグレータにカタリーナが愕然としていると、全く動揺せずにフランツは断った。
「申し訳ないが、それは難しいのだ」
「ははっ、すぐ断るのがフランツらしいな。冗談だ冗談。フランツみたいな男と結婚したら、色んな女からの嫉妬が面倒くさそうだからな」
笑顔でそう言ったグレータは火にかけていたフライパンを下ろし、お皿に盛り付けていく。昼食は焼飯のようで、肉と野菜がたっぷりのそれは最高に美味しそうだ。
「じゃあ食べよう。ルッツもとりあえず昼飯にするぞ!」
「はーい。すぐ行きます!」
皆で一つのテーブルに向かい合いながら腰掛けて、さっそくお昼ご飯だ。フランツはスプーンを手に取り、まだ湯気を放っている熱々の焼飯を口に運んだ。
すると適度な香ばしさと塩味、甘み、そして旨みが口の中で絶妙に混ざり合って、最高に美味しい仕上がりとなっている。
野菜にはシャキシャキ感が残り、肉は噛めば噛むほどに旨味が出てきて、食べる場所によって違う食感を楽しめるのも美味しさに拍車をかけていた。
「とても美味しい。味のバランスが絶妙だ」
「本当ね……凄い」
「とても美味しくて洗練された味だわ。大雑把に見えて、全ての調味料や食材の量を細かく調節しているのかしら」
三人の絶賛に、グレータは苦笑を浮かべる。
「ありがとな。ただ味付けとかは本当に適当だから、今この時だけの奇跡の配合だ」
「いや、でもグレータさんの料理はそんなこと言って毎回美味しいです!」
ルッツが満面の笑みで褒めたことで、グレータの料理センスが凄いというところに話は落ち着いた。
冷めないうちに焼飯を堪能し皆が食べ終えたところで、フランツたちは食後のお茶、グレータとルッツは素材の保管など作業を進めることになる。
「フランツが見学したいなら別に構わないけど、面白いところなんてないからな?」
見学を願い出たフランツに対するグレータの言葉に、フランツはしっかりと頷いた。
「問題ないので見学させてもらう」
フランツの目的はグレータの技術力を見極めることなので、見学が面白いかどうかは関係ないのだ。
今まで見てきた通りグレータの技術力がフランツの基準に達していれば、グレータをハイディに紹介しようと思っている。
この街に蔓延る問題を解決するために、トレンメル公爵家の屋敷にいるハイディを一度訪ねるのは決定事項だが、フランツはグレータに揺るぎない後ろ盾があるべきだと考えていた。
後ろ盾がなく立場が弱い人間は、今の問題が解決しても次の問題に真っ先に巻き込まれるし、とにかく弱くてすぐ潰されてしまう。
フランツはグレータがそうなってしまうことは、魔道具研究全体への損失。つまり最終的には帝国の損失であると考えていた。
(今まで見てきた限りでは、グレータの技術はハイディに匹敵するものであると思うのだが、はたして……)
それからフランツは、グレータとルッツの作業を真剣に見学した。素材の処理や保管の手際は素晴らしいと言えるもので、途中でルッツが素材の処理は一人で担い、さっそくグレータは魔道具作製を始める。
その手際も思わず感嘆の声を漏らしてしまうような素晴らしいもので、フランツはグレータが一つの魔道具を素早く作り終えたところで席を立った。
そしてグレータの下に向かって告げる。
「グレータ、君の魔道具作製技術は本当に素晴らしいと思う。もし嫌でなければ、ハイディ・トレンメルを紹介したいと思うのだが、どうだろうか」
突然トレンメル公国を治める公爵家の長女を紹介すると言われても、大多数の者はすぐに理解はできないだろう。グレータも大多数に漏れず、理解できないというように首を傾げた。
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