第105話 圧倒的な戦い

 ブルーフロッグの群れに対しても動揺を見せないフランツに、グレータとルッツが口を閉じたところで、フランツは側にいるカタリーナに作戦を伝えた。


「私がブルーフロッグの舌を切る。カタリーナは毒を失ったブルーフロッグを倒してくれるか? できれば体、特に背中は傷つけないようにしよう。希少な素材だからな」

「かしこまりました。フランツ様は毒への対処のみに集中なさってください」

「ありがとう」


 カタリーナとの細かい打ち合わせが終わったら、グレータとルッツの護衛を頼んでいたマリーアにも声をかける。

 

「マリーアはカタリーナの援護と、そちらにブルーフロッグが近づかないよう対処、そして他の魔物への警戒を頼みたい」

「ええ、こっちは任せなさい」


 マリーアの返事が聞こえたところで、フランツは地面を軽く蹴った。


 トンっと先頭のブルーフロッグに近づくと、その瞬間に目にも止まらぬ速さで舌が突き出される。

 しかしフランツは首を少し横に傾げ、持ち前の動体視力と身体能力、そして経験と気配察知を駆使して毒を避けた。


 避けた瞬間に剣を振り、ブルーフロッグの舌を切る。


 ブルーフロッグが毒を持つのは舌先だけなので、そこさえ切り落としてしまえば、後は安全だ。


(久しぶりに戦ったが、やはり早いな)


 フランツは強敵を相手にし、僅かに口角を上げていた。次々と襲いかかってくるブルーフロッグを躱して受け流して、踊るように次々と舌を切り落としていく。


 毒針をなくしたブルーフロッグは、それでも持ち前の跳躍力と水魔法でフランツに一矢を報いようとするが、それは叶わなかった。


 なぜなら毒をなくした個体から、素早くカタリーナに頭を潰されるからだ。


「はっ!」


 カタリーナはフランツの役に立てている喜びからか、可愛らしい笑みを浮かべながら次々とブルーフロッグを地に沈めていく。


 棘がついた凶悪なナックルに顔を殴られたブルーフロッグは、ブチッ、ビチャッと少々グロい――最期の姿が容易に想像できる音を発しながら、数を減らしていった。


 その様子を目の当たりにして、グレータとルッツは顎が外れそうなほどに口を開く。


「な、つ、強すぎるだろう……さすがに」

「まじかよ、フランツたち、こんなに強かったのか。信じられないぜ……」

「冒険者、ではないのか?」


 困惑と驚愕に固まっている二人へと、マリーアが苦笑しつつ声をかけた。


「わたしたちは冒険者だけど、ちょっと普通とは違うのよ。他の冒険者にはこのレベルを求めないであげてね」


 その言葉に二人が何度も頷く中、フランツが最後のブルーフロッグの毒針を危なげなく切り落とし、カタリーナが頭を潰した。


 ものの数分で、戦闘は終了だ。


「ふぅ、終わったな」

「フランツ様、お怪我は?」

「大丈夫だ。カタリーナも問題ないか?」

「はい。フランツ様が毒針を全て切り落としてくださったので、そうなればもうただの蛙同然ですわ」


 フランツは生き残っているブルーフロッグがいないことを確認してから、マリーアたちがいる場所に視線を向けた。

 するとそこではグレータとルッツが呆然としていて、マリーアは苦笑を浮かべている。


「マリーア、そちらも問題はないか?」

「ええ、わたしは出番がなかったわよ。他の魔物の襲撃もなかったわ」

「分かった。ありがとう」


 そうして完全に戦闘が終わったところで、フランツはグレータとルッツに声をかけた。


「二人とも、もう安全だ。また採取を再開して構わない。ブルーフロッグの素材も確保するか?」


 その声かけで、まずはグレータがハッと動き出す。


「この数のブルーフロッグが、全部採取可能な素材、ってことだよな?」

「ああ、今回の私たちは二人の素材採取の護衛だ。そのため、素材は全てグレータたちが持っていってくれて構わない」


 フランツの言葉をゆっくりと咀嚼したグレータは、呆然としていた面持ちを、次第に歓喜へと変えていった。


「なんてことだっ、ブルーフロッグの素材がこんな大量に手に入るなんて! おいルッツ、ぼうっとしてないで早く採取をするぞっ。時間が経てば経つほどに素材が劣化するんだ!」


 グレータに肩を掴まれ、前後にガクガクと揺らされたルッツは、やっと瞳の焦点があって周囲に視線を向ける。


「グレータさん、これを全部採取したら、もう本当に凄いですよね……?」

「凄いなんてものじゃない! いくつもの研究が一気に進められるし、色々な魔道具の改良も試せる!」

「……で、ですよねっ。早く解体しましょう!」

「ああ、協力してやるぞっ」


 そうして二人は興奮の面持ちで拳をぶつけ合うと、一番近くに倒れていたブルーフロッグに近づいた。

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