第104話 採取と魔物襲来

 グレータとルッツは、まず近くにある大木の根元付近をじっくりと観察して回った。そこにあるはずの希少な鉱石、スノウストーンを探しているのだ。


 二人が採取をしている間、基本的にフランツたちは周囲の警戒をしている。


「ねぇ、今って何を探してるんだっけ?」


 マリーアの問いかけには、フランツが答えた。


「スノウストーンだ」


 この大木群に巣を作る鳥型の魔物、ホワイトバードがグレーストーンと呼ばれる灰色の石を主食としていて、そのグレーストーンの中にスノウストーンがある。


 スノウストーンをホワイトバードは食べないため、こうしてホワイトバードの巣がある場所を探すと、スノウストーンがたくさん落ちているのだ。


「おっ、ここに何個もあるぞ!」


 探し始めてからすぐに、グレータが嬉しそうな声を上げた。


「本当ですか!」


 ルッツもすぐに駆け寄り、二人で採取のための専用器具を取り出す。

 スノウストーンは人肌で触れると劣化してしまうので、採取時はそれを防ぐことが重要だ。


「そういえば、そんな名前の石だったわね。あまりにもたくさんの採取対象があったから、覚えきれなかったのよ」


 マリーアはそう言って、首をすくめた。


「魔道具について学んだことがないマリーアは、仕方がないだろう」

「マリーア、私にとっても難しかったのだから仕方がないわ。……確かスノウストーンは、一定の冷たさを保つことができる素材でしたでしょうか」


 マリーアを軽く慰めてからフランツに問いかけたカタリーナに、フランツは近くに発見したスノウストーンを剣身に載せる形で持ち上げて説明をした。


「そうだ。魔道具作製の際には、特に温度を一定に保ちたい場合に使える。スノウストーンとは不思議な素材で、直接熱に触れなければ絶対に劣化せず、一定の冷たさを保つからな。扱いを間違えなければ優秀な素材だ」

「便利なのね〜。この場所でしか手に入らないの?」

「いや、他にも手に入れる方法はあるが、ホワイトバードの巣がここまで密集している場所は少ない。またスノウストーンを有するグレイストーン自体を採取できる場所もあるが、それをスノウストーンに加工するのはかなり難しいと聞いたことがある」


 人がグレイストーンからスノウストーンを取り出そうとすると、スノウストーンが割れてしまったり、劣化してしまったり、完璧な状態で取り出すのがとても難しいのだ。


 なぜホワイトバードはスノウストーンを綺麗な形で取り出せるのか、未だに解明されていない謎であり、その研究は細々と続けられている。


「じゃあ、ここは貴重なのね」

「そうだな」


 そうして会話をしながらフランツたちは周囲の警戒をして、さらにフランツはグレータたちの採取の手腕にも注目していた。


(スノウストーンの採取や保管については、帝立学園時代にハイディの手腕を何度も見てきたが、グレータはそれに勝るとも劣らないんじゃないか?)


 予想以上のグレータの技術に感心し、そんなグレータが素材不足で十分な研究ができないという現状に対し、フランツはもどかしく思う。


(やはりトーレルの現状は、どうにかして改善する必要があるな……)


 そんなことを考えていたら、グレータが大きく手を上げた。


「三人とも、少し場所を移動したい」

「分かった。今のところ周囲に魔物はいないため、移動しても構わない」

「分かった」


 フランツの返答にグレータは嬉しげな笑みを浮かべ、ルッツと共に場所を移動する。


 そうしてそれからも、鉱石の他に植物、木の実と順調に採取を進めていると、フランツは魔物が近づいてくる気配を感じた。


 気配がある方向に視線を向けると、少し遅れてカタリーナ、マリーアもそちらを睨む。


「フランツ様、魔物でしょうか」

「そうだろう。気配からしてかなり強いな。数も結構いる」

「倒すの? それとも逃げる?」

「いや、私たちなら十分に倒せるだろう。マリーア、二人を守りながら援護をしてくれ。カタリーナ、私と魔物を倒すぞ」

「かしこまりました」

「分かったわ。任せなさい」


 三人は軽く打ち合わせをすると、すぐにそれぞれの役割に従って動いた。


「グレータ、ルッツ、魔物が来る! マリーアの側にいてくれ」


 フランツの声掛けに二人は即座に動き、採取途中だった素材や器具などを仕舞う。そして二人がマリーアの側に寄ったところで、フランツは剣を抜いた。カタリーナもナックルを装着して、戦闘準備は万全だ。


 緊張感が漂う中、五人の前に姿を現したのは――


「ブルーフロッグだ!」


 空色の体をした巨大なカエル型の魔物だった。ブルーフロッグだと叫んだグレータは、興奮を隠しきれない様子で口を開く。


「まさか出会えるなんてっ、ブルーフロッグの素材は凄い希少なんだ! 強い魔物だけど、一匹ならなんとか……」


 グレータの言葉は、尻すぼみとなって消えた。なぜならブルーフロッグは、群れだったからだ。次々とフランツたちの前に姿を現し、その数は全部で二十を超える。


 そんなブルーフロッグを前にして、グレータに先ほどまでの興奮はなかった。ルッツも顔色を悪くして、わなわなと口を開く。


「あ、あんなにいるなんて……ブルーフロッグって、強いんですよね?」

「……ああ、強い。水魔法を使えて、跳躍力は魔物の中でもトップレベル、さらに高速で舌を使って攻撃してきて、その舌先には毒針が……」


 ブルーフロッグは群れと出会したら、生存を諦めろと言われるほどに厄介な魔物なのだ。

 それほどに舌を使った攻撃が素早く、舌は数メートル以上も伸びるため攻撃から逃げるのも難しく、さらに毒は一度刺されてしまえば、すぐに体の自由が奪われる。


 動けなくなったら最後、ブルーフロッグは生物の体液を吸うのだ。人間も同じように吸われ、干からびて命を落とすことになる。

 一つだけ救いがあるとすれば、毒によって体の自由が奪われ、すぐに意識も失うことだろう。


「ど、どうするんだ?」

「逃げるなら早くしないと……!」


 グレータとルッツが慌てる中、フランツがいつも通りの声音で告げた。


「倒せるので問題ない。二人はそこから動かぬように」

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