第103話 さっそく素材採取へ

 フランツ、マリーア、カタリーナの三人で宿を出て昨日決めた集合場所に向かうと、そこにはすでにグレータとルッツの二人がいた。


 二人は素材採取が楽しみなのかソワソワしている様子で、巨大なリュックサックを背負っている。


「おっ、来たな。こっちだ!」

「フランツ、マリーア、カタリーナ、おはよー!」


 二人に大きく手を振られ、三人は二人の下に向かう。まず声をかけたのは、少し顔を引き攣らせたマリーアだった。


「グレータ、ルッツ、おはよう。そのリュックサックは重くないの……?」

「今はまだ重くないな。ただ採取物を入れると少しずつ重量が増す」

「ちょっと大変だと思うけど、せっかくの機会だから、できるだけ多く持ち帰らないとな!」


 やる気十分の二人を見て苦笑を浮かべたフランツは、二人の足取りや姿勢にとりあえず問題がないことを確認してから、二人の意思を尊重することにした。


「分かった、そのリュックサックでも問題ないだろう。しかし途中で辛くなった場合はすぐに言って欲しい。私たちが代わりに持とう」

「ああ、無理はしないと約束する。……ただ三人は荷物が少なすぎないか?」


 フランツたちは大きな鞄を持っているわけではなく、いつも通りの動くのに支障がない程度の荷物のみだ。唯一マリーアが大きめな肩掛け鞄を持っているが、それも大容量というほどじゃない。


 しかし、これで問題ないのだ。食料はいくらでも現地調達が可能であるし、水は魔法で出せる。火おこしなども魔法があれば事足りるし、調理器具なども魔法を使えば即席で作れる。


 必要なのは寝袋ぐらいなので、小さく収納できる寝袋を購入すれば、荷物は嵩張らないのだ。


「私たちはこれで問題ない。荷物が多いと戦闘時に邪魔になるのだ」

「そういうことか。まあ、それなら任せるよ」


 そうしてお互いの荷物を確認したところで、さっそく街を出ることにした。集合場所であった街の外門前広場から、外門を通って外に出る。


 選んだ外門は山に面した場所なので、街を出て少し進めば、すぐ森に足を踏み入れることになった。


「そういえば、ルプタント商会に雇われた人たちはいるのかしら」


 周囲を見回しながらカタリーナが小さな声で告げると、ルッツが顔を顰めて頷く。


「もう山の中にいるはずだぜ」

「そう。……鉢合わせたらどうするのですか?」


 カタリーナはフランツに問いかけた。フランツはどう対処をするべきか悩んだが、少しして悔しく思いながら結論を出す。


「やはり現状では何もできないだろう。鉢合わせても、せいぜい注意をするぐらいだが、それによって相手の行動がより酷くなる可能性もある。今の最善手は、何もしないことかもしれないな」


 明確な罪を犯していない現状では、できることが圧倒的に少ないのだ。


(やはりこの状況を変えるには、トレンメル公爵家の介入が必要だろう。この依頼が終わり次第、訪ねてみるべきか……悩むところだな)


「まあ、今回のあたしたちはまっすぐ奥に行くんだし、会う可能性は低いだろう」

「確かにそうだな。今は採取に集中しよう」


 グレータの言葉でフランツたちは今回の依頼に集中することにして、最速で山奥に向かうために足を進めた。



 それから数時間、フランツたちは目的地であった素材豊富な山奥に到着していた。目印となっている大木群があり、現在はその根元で休息をとっているところだ。


「フランツたち、マジで、凄すぎないか?」


 疲れたように座り込みながら、ルッツがそう呟いた。それにグレータが何度も頷き、同意を示す。


「ああ、本当に驚いた。まさかこんなに早くこの場所に着くとは。オークを一撃で、あたしらがその存在に気づく前に倒したときには自分の目を疑ったよ」


 苦笑を浮かべてそう言ったグレータは、グイッと汗を拭うとその場に立ち上がった。


「でもそのおかげで、もう山奥だ。ルッツ……素材の宝庫だよ! 貴重な素材を採り放題だ!」


 大きく手を広げて胸いっぱいに空気を吸い込むグレータの頬は、興奮で赤く染まっている。そんなグレータに釣られてルッツも興奮の面持ちを浮かべると、疲れを感じさせない勢いで立ち上がった。


「そうですねっ。さっそく採取をしましょう……!」


 そうして二人は、意気揚々と素材採取を始めた。

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