第100話 工房に到着
フランツとルッツが会話をしながら階段を上っていく中、フランツたちから少し遅れた場所で、マリーアは未だに険しい表情をしているカタリーナに声をかけていた。
「カタリーナ、どうしたの?」
その問いかけに、ハイディがフランツの婚約者であるという事実を、カタリーナがポツポツと説明する。
マリーアはその説明を聞いて、苦笑を浮かべた。
「凄い偶然ね……」
「マリーアは偶然だと思うの? フランツ様がハイディ様にお会いしたいと思っているとか……」
「あのフランツが? それはないでしょ」
笑いながらカタリーナの不安を一蹴したマリーアに、カタリーナは僅かに表情の強張りを緩めた。
「そう、かしら」
「絶対にそうよ。あの堅物天然フランツはそんなことをしないだろうし、もし会いたいなら普通にそれを口にすると思うわよ」
もうフランツとの付き合いも長くなってきたマリーアの言葉には説得力があったのか、カタリーナはふぅと安堵の息を吐き出す。
「確かにそうだわ。動揺してないで、対策を考えなければ」
「わたしはカタリーナの応援をするわね」
「マリーア、ありがとう」
決意を込めて拳を握りしめていたカタリーナは、マリーアに感動の面持ちを向けた。
ルッツと話をしながら階段を上り終えたフランツは、まだ階段の下で立ち止まっている二人に声をかけた。
「マリーア、カタリーナ、何かあったのか?」
その声に従って二人はすぐに顔を上げ、いつも通りの様子ですぐに上ってきた。
「なんでもないわ。ちょっと話すことがあったのよ。そんなことより、もしかしてここが工房なの?」
階段を上ってすぐの場所にあるこぢんまりとした建物を見上げ、マリーアが問いかける。
「そうだぜ」
ルッツが笑顔で頷くと、カタリーナが感心の面持ちを浮かべた。
「工房という割には、とても綺麗な建物なのね」
「へへっ、そうだろ? グレータさんって女の人なのに男みたいな喋り方するから、ガサツに見られるんだけどさ、これが意外に几帳面なんだよな。この工房もグレータさんが趣味で綺麗にしたり、改装したりしてる」
「とても器用なのだな。魔道具師としての腕も良さそうだ」
工房の外観を見てそう言ったフランツに、ルッツは嬉しそうに笑う。
「ああ、グレータさんは天才だぜ! じゃあさっそく紹介するな」
ルッツは笑顔のまま工房の入り口をおざなりにノックすると、すぐにガチャっと開いた。鍵はかかっていないようだ。
「グレータさん、ただいま戻りました〜!」
工房の奥に向かって声をかけると、よく通る声で反応があった。
「ルッツ、お前やっと帰ってきたか! 早くこっちに来い、いい研究結果が出てるぞ!!」
「え、マジですか!?」
興奮気味の声にルッツはすぐ反応し、工房の奥に駆けていく。ちょうど壁があって入り口からでは見えない位置に向かう寸前で、ルッツはフランツたちを振り返った。
「皆はその辺で待っててくれるか? ちょっとだけ研究結果を見てくる!」
その言葉にフランツたちが返答する前に、ルッツは工房の奥に向かってしまう。そこでフランツたち三人は顔を見合わせ、入り口近くにあったテーブルセットに腰掛けた。
「少し休んで待とう」
「そうね」
「それにしても、色々な道具や素材がありますね……」
カタリーナが工房内を見回すのに合わせ、フランツとマリーアもぐるりと視線を動かす。工房内は外観と同じく、とても綺麗に整えられていた。
「懐かしい道具がたくさんあるな」
フランツは帝立学園で魔道具の基礎は学んでいたし、それだけでなくハイディによって研究の手伝いをさせられていたので、道具類には意外と詳しいのだ。
「あんたも魔道具を作れるの?」
「いや、私一人では無理だな。作れるとしても簡単なものだけだ。補助なら役立てるかもしれないが」
「そうなのね」
マリーアとフランツの会話を聞きながら、カタリーナは内心で歯噛みする。魔道具に関するフランツの記憶には、基本的にハイディがいることが分かっているのだろう。
「おおっっ……! グレータさん凄いですよ、これ!」
「そうだろうそうだろう? ははっ、さすがあたしだな」
「え、待って。こっちも切れてませんよ!?」
「そうなんだ! これには結構な負荷をかけたはずなのに、まだ元の性質を保ってる。これは凄い研究成果だと思わないか?」
「思います!」
内容はよく分からないが、とにかく興奮している声が工房の奥から聞こえてきた。三人がしばらくそんな声を聞いていると、十分ほどでやっと二人の興奮がおさまる。
ルッツがグレータにフランツたちのことを説明する様子が聞こえ、フランツたちが立ち上がったところで、グレータが工房の奥から顔を出した。
「待たせてすまないな。依頼を受けてくれたと聞いた。本当にありがとう」
フランツたちの前に姿を現したのは、三十歳ほどに見える背が高めの女性だった。
とにかく目立つのはその胸の大きさだ。下は緩い作業ズボンを履いているが、上はぴっちりとしたタンクトップ一枚なので、その大きさが強調されている。
そして長い青髪をポニーテイルにしていて、表情は親しみやすそうな笑顔だった。
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