第99話 依頼受注とカタリーナの衝撃
四人で冒険者ギルドの中に入り、さっそく受付に向かった。
提示されていた報酬がそこまで高くなかったため、ルッツは不安げに三人へと視線を向けたが、フランツは何の躊躇いもなくそのまま受注を決める。
もちろん常識的にあり得ない報酬で受注することはないが、常識の範囲内ならば下限だとしても、フランツはあまり気にしないのだ。
金銭的に余裕があるからこそ、できることだとも言える。
「受注手続きは完了しました。依頼の詳細は依頼主から聞くということで問題ありませんか?」
冒険者ギルドの受付に問いかけられ、フランツはルッツを示しながら頷いた。
「ああ、ルッツに聞くので問題ない」
「かしこまりました。では依頼の遂行、よろしくお願いいたします」
そうして冒険者ギルドでの手続きが完了したところで、四人はすぐにギルドを後にした。さっそく工房に向かおうとルッツの案内で街中を歩きながら、マリーアが口を開く。
「さっきギルドで思ったんだけど、ルプタント商会に雇われてホーンデットブルを狩ってる人たちと、今までホーンデットブルを討伐してた冒険者間で揉めたりしないの?」
最もなその疑問に、ルッツは険しい表情で唇を尖らせた。
「それは、ほとんどないらしいぜ。冒険者側から何か仕掛けたら、冒険者が悪者になるだろ? かと言ってルプタント商会側が他の冒険者の討伐の邪魔をするとか、そういうことはないらしい。だから揉めようがないんだろーな」
「そういうものなのね」
本当は冒険者たちも不満を募らせていて、ルプタント商会をよく思っていないのだ。
しかしルッツの言う通りどうにもならないことだし、この街では大きな力を持つルプタント商会を敵に回すのは得策ではないため、冒険者たちから反発が起きる可能性はかなり低い。
冒険者はホーンデットブルがいなくとも、ほかの魔物を狩ったり、素材採取で稼ぐことができるというのも大きいだろう。
「ルプタント商会側が完全な悪と言い切れる状況ではないため、冒険者も動くに動けないのだな」
フランツはそう呟くと、眉間に皺を寄せた。
(これは冒険者にどうにかできる問題ではない。どちらかというと、トレンメル公爵家が対応すべき案件ではないか?)
そう考えたフランツは、ルッツに公爵家介入の有無を問いかける。するとルッツは首を傾げながら否定の言葉を口にした。
「貴族様の介入……は聞いたことないな。これってそんなに大事なのか?」
「私はそう考える。公爵はこの街にいないのだろうか」
「あっ、そういえば一ヶ月か二ヶ月ぐらい前に、公爵様と公爵夫人が帝都に行くって話を聞いたな。皆が街を出ていく馬車を見送ったって。確か今この街にいるのは、ハイディ様だって聞いたような……」
ハイディ、その名前を聞いた反応は三者三様だった。その名前を初めて聞いたマリーアに大きな反応はなく、フランツは眉間に皺を寄せた。そしてカタリーナは、愕然とするように瞳を見開き固まっている。
(ハイディか……もし今この街にハイディ以外の公爵家の人間がいないとなれば、ルプタント商会に関わる問題が起きていても、放置されている理由が分かる)
そう考えたフランツは、小さく溜息を吐いた。
ハイディとはフランツの同級生で、帝立学園時代の友人だ。フランツはハイディのことを嫌っているということはなく、むしろ人並み以上に仲が良かったのだが……ハイディのある一面だけは、何度も直すようにと伝えていた。
それは、ハイディののめり込み癖だ。
魔道具研究に人生を捧げていると言っても過言ではないハイディは、研究にのめり込むと他のことが一切見えなくなる。
そんなハイディしかいないのなら、トレンメル公爵家がこの事態に気付いていない可能性が大いに高まるのだ。
「一度訪ねるべきか……」
フランツが小さくそう呟いている横で、カタリーナもブツブツと自分にしか聞こえない声音で声を発していた。
「私は馬鹿だわ。なぜ今まで気づかなかったのかしら。フランツ様と共に旅ができるからと浮かれすぎていたわ……ここトレンメル公国には、フランツ様の婚約者候補がいるじゃない。ハイディ・トレンメル。私が一番警戒すべき相手だわ……」
そう、ハイディとはフランツの婚約者候補として名前が上がっている三人のうちの一人なのだ。トレンメル公爵家の長女にしてフランツの同級生、そして帝立学園の同期、さらに魔道具研究では多数の実績を残す優秀な研究者。
カタリーナにとって、強く警戒するべき相手だった。
「どうしたんだ?」
突然黙ったフランツたちにルッツが声をかけると、フランツは意識を切り替えるようにして軽く頭を振った。
(とりあえずハイディのことは頭の片隅に置いておこう。今は依頼の遂行が優先事項だ)
「すまない。少し考えることがあったんだ。そろそろ工房に着くか?」
「おうっ、もうちょっとだぜ。あっちの階段を登った先だ」
少しだけ不思議そうに首を傾げたルッツだったが、自分には関係なさそうだと思ったのか、さっきまでの笑顔に戻って階段の上を指差す。
「意外と大通りから近いのだな」
「そうなんだ。結構いい立地だろ?」
そんな話をしながら、ルッツとフランツは階段に足をかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます