第98話 浮かぶ疑問と今後について
カタリーナがホーンデットブルの討伐制限について問いかけると、ルッツは悔しそうに下唇を噛んでから口を開いた。
「決まりはないんだ。……今までずっと皆が必死に討伐したって、ホーンデットブルは数を減らすどころか増やす勢いだったんだぜ。なのにここ最近は、日帰りで行ける範囲にほとんど姿が見えないらしくて……マジでルプタント商会のやつら、大量の素材をどうしてるんだか」
「その商会が素材を独占していることは明白なのか?」
フランツはホーンデットブルが別の要因で姿を消したことを想定し、そう問いかける。しかしルッツはすぐ首を縦に振った。
「まず市場に出回ってた素材を買い占めたのは明白だ。討伐の方は、ホーンデットブルの姿が見えなくなった原因の全てがルプタント商会だと断言はできないらしいけど、あいつらが直接雇ったやつらが昼夜問わず山に入って、街の外にある小屋で解体して、素材を何度も街中に運び込んでるのは目撃されてる」
ルッツの説明に、フランツは少し引っ掛かりを覚えた。いくらルプタント商会が直接雇った人員が多くいたとしても、街から日帰りで向かえる範囲全てのホーンデットブルを討伐し、その解体をして素材採取をすることが可能なのかどうか。
フランツには、それがかなり難しいことに思えてならなかった。
(討伐するだけならまだしも、運んで解体するにはかなりの手間がかかるはずだ)
「ルッツ、ルプタント商会が運び込んでいる素材の量は、ホーンデットブルが姿を消すのが不自然じゃないほどのものなのか?」
「それは正直、分からないんだ。部外者は近寄らせてもらえないからな。ただ市場に出回る素材の買い占めと、討伐のための人員を何人も雇ってること、あとルプタント商会の後ろ盾がある工房だけがホーンデットブルの素材を使って魔道具を作成できてること、これは事実だぜ」
事実を見れば、ルプタント商会が悪なのは確実だろう。そしてフランツもその部分は疑っていなかった。しかし素材を全て独占している、という部分にはやはり引っ掛かりを覚えるのだ。
(ルッツに聞く限り、ホーンデットブルはかなり個体数が多いだろうし、その独占は容易ではないはずだ。一つの商会が使い切れるものでもないだろう。そうなると……ライバルを蹴落とすためだけに、素材を捨てている可能性もあるのではないか?)
フランツはそう考えたが、それを口にはしなかった。完全な推測であり、証拠もないからだ。
さらにたとえそれが真実であったとしても、帝国では魔物を討伐したことが罪になることはない。魔物討伐は、基本的に讃えられることなのだから。
個体数が少なく有用な魔物を保護する目的で、討伐制限がされることも稀にあるが、今回はそれもされていない。
(とにかくまずは、依頼を遂行しよう。その過程で見えてくるものがあるかもしれない。たとえ明確な罪を犯していなくとも、悪意を持って人々の生活を混乱させる輩を野放しにはしておかないし、何よりも困っている人々を助けるのが冒険者だ)
決意を固めたフランツは、真剣な表情で顔を上げた。
「今回の依頼は、ホーンデットブルが狩り尽くされていない奥まで向かい、素材採取をするということだな」
「おうっ、そういうことだ。他の人たちはルプタント商会のやつらが見逃した個体を探してるっぽいけど、あまりにも非効率だからな。俺たちは危険だけど、奥に向かうことを決めたんだ」
ルプタント商会もさすがに討ち漏らしはあり、街の近くでもホーンデットブルが見つかることはある。しかしそれは群れではなく一、二頭がほとんどで、遭遇率も低いので効率はかなり悪い。
「分かった。素材採取は私たちに任せておけ。他に必要なものもあるのか?」
「ああ、もちろんあるけど……って、そうか、これを言ってなかったな」
ハッと何かに思い至ったような表情のルッツは、フランツたち三人を見回して重要事項を口にした。
「素材採取には俺と工房長のグレータさんも行くからな。フランツたちには、護衛と魔物討伐の両方を頼みたい」
「わたしたちだけじゃダメなの?」
マリーアが怪訝な表情で問いかけると、ルッツは迷うことなく頷く。
「魔道具の素材にするには、討伐すぐの処理が大切だったりするんだ。専門知識がある冒険者が討伐に向かうならいいけど、三人はこの街に来たばかりだろ? だから俺たちも一緒に行くよ。それに少しでもたくさん持ち帰りたいから、荷物持ち要員としても付いていきたい」
「確かに……魔道具の素材とするための魔物討伐方法や処理方法は、さすがに知らないわ」
カタリーナの呟きに、フランツも頷く。魔道具についても一通りの勉強はしているフランツだが、さすがに無数にある素材全ての採取方法は熟知していない。
それにこういうものは、知識だけでなく経験も必要だろう。
「二人の護衛も承ろう」
「本当か! ありがとな」
そこまで話したところで冒険者ギルドが見えてきて、ルッツが前方を指さした。
「あれが冒険者ギルドだぜ。依頼の詳細は、とりあえず後でもいいか?」
「ああ、構わない。まずは依頼の受注をしてしまおう」
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