第95話 少年との出会い

 イーゴ、カイの二人と別れたフランツたちは、結構な急坂である大通りを進みながら、街中の様子を見て回っていた。


 他の街と違うのは、やはり魔道具に関連する素材などを扱う店の多さだ。しかし他の街と同じように飲食店や武器屋、薬屋に道具屋など、冒険者に必要な店も揃っている。


「たくさん路地があるけど、入ったら迷って出てこられなくなりそうね」

「確かに高低差が加わることで、他の街よりも道に迷いそうだな」

「冒険者ギルドはどこにあるのでしょうか」

 

 三人がそんな会話をしながら、キョロキョロと視線を動かして歩いていると、一人の少年が近づいてきた。十五、六歳ほどに見える少年だ。


「お兄さんとお姉さんたち、もしかしてこの街に来たばかり? 俺案内するよ。一時間ぐらいで、お礼にちょっとお金をもらえれば」


 指でお金のマークを作りながらニッと口角を上げてそう言った少年に、フランツがマリーアとカタリーナに視線を向けた。


「どうする?」

「あんたの好きにしていいわよ」

「私もそれで良いですわ」


 二人の返答を聞いて、フランツが少年に向き直った。


「では、案内を頼もう。銀貨に昼食付きでどうだ?」


 少年のお腹が鳴っているのを聞き取っていたフランツがそう告げると、少年は無邪気な笑みを浮かべる。


「マジ? お兄さん太っ腹じゃん!」

「君は案内を仕事にしているのか? この街ではそういう者が多いのだろうか」

「俺の名前はルッツな。俺は魔道具工房で働いてるんだけどさ、今は仕事がなくて副業してるんだ。この街は作りが複雑だから、案内は結構仕事になるんだぜ」


 フランツから受け取った銀貨を親指で弾いてパシッと掴んだルッツは、楽しげな笑みを浮かべて言った。


「そうか。俺はフランツだ、よろしくな」

「わたしはマリーアよ」

「私はカタリーナ。ルッツ、よろしく頼むわね」

「フランツにマリーア、カタリーナだな。じゃあさっそく行こうか。どこ行きたい?」


 両手を広げて街全体を示すようにしたルッツに、フランツが伝える。


「美味しい食事ができる場所と、冒険者ギルドの場所を教えてもらいたい。まずは食事からだな」

「了解! 好きなものとか、食べたいものはある?」


 その問いかけにはまず、マリーアが答えた。


「さっきからスパイスみたいな匂いがしてるんだけど、この街の名物だったりするの? もし名物があるなら食べたいわね」

「確かに良い香りがしているな」

「この匂いはステーキだぜ。この街の周辺ってスパイスがたくさん取れるから、店独自の配合スパイスに漬け込まれたステーキが食べられるんだ」


 スパイスが豊富に取れることから、昔からこの地では肉の保存目的で肉をスパイス漬けにしていた。今では他の保存方法もあるので無理にスパイスを使わなくとも良いのだが、慣れ親しんだ料理として、今でもこの街では人気の料理となっている。


「美味しそうだわ。フランツ様、そのステーキを食べてみませんか?」

「そうだな。ではルッツ、ステーキが食べられるおすすめの店に案内して欲しい」

「よしきた! じゃあちょっと歩くけど、俺が一番好きな店に案内するな」


 それからルッツの案内によって急坂を登り、何度か脇道に入り、階段を登ったり下りたりを繰り返し……やっと目的の店に到着した。


「この街、本当に入り組んでるわね。もうちょっとシンプルな道にできなかったの?」


 マリーアがゲンナリとした表情で呟くと、ルッツが苦笑を浮かべる。


「それは俺も思ってる。計画性なく道を増やしていったから、こんなに入り組んだらしいぜ」

「こんなのすぐ迷子になるわよね。さっきの大通りにだって戻れないもの」

「迷子になった時には、近くにいる街のやつに声を掛ければ、俺みたいに案内してくれると思うぜ」


 お金マークを指で作って笑ったルッツに、マリーアは呆れた表情を浮かべた。


「商魂逞しいわね〜」

「ははっ、優しい人が多いってことだ。フランツたちも迷ったらいつでも声かけてくれよな」

「ありがとう。しかし案内してもらった場所はもう覚えたので、迷子になることはないだろう。見知らぬ道に入る時には、ルッツか別の者に声をかけよう」


 フランツのその言葉に、ルッツは瞳を見開く。


「え、もう覚えたってさっき通ってきた道を!?」


 頭脳という点でも天才と評するに相応しいフランツだ。フランツにとっては、一度案内してもらえればどんなに入り組んだ道でも覚えられるのが当たり前だった。


 そんなフランツの規格外さがまた露呈し、マリーアは遠い目をする。


「ルッツ、フランツはこういうやつなのよ……天才って、この世にいるのよ」

「フランツ様は凄い人なのよ」


 カタリーナが純粋にフランツのことを褒めたところで、ルッツはフランツを凝視した。


「マジか……本当にいるんだな」

「軽く流すのが正解よ。わたしも学んだの」


 マリーアのその言葉に頷いたルッツは、気を取り直すように笑みを浮かべると、改めて目の前にある建物を示す。


「それでおすすめの食堂だけど、ここの一階の店なんだ。さっそく入ろうぜ」


 ルッツが躊躇いなく扉を開き、皆で食堂へと足を踏み入れた。

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