第92話 警備隊の到着

 次の日の昼間。昨日に引き続き建物の修繕を進めているところに、近くの街へ向かった村人たちが警備兵を連れて戻ってきた。


 フランツたちは報告を受けてすぐに建物の修繕を中断すると、盗賊がいる広場へ向かう。


 すると広場にいた警備兵は十人を超えていて、小さな村への派遣人数としてはかなり多かった。多数の盗賊に村を乗っ取られたという村人たちの言葉を、警備隊が信じたのだろう。


 フランツはその事実を見て、目の前にいる警備兵たちが信頼に値すると判断した。

 一平民からの言葉を全て鵜呑みにするべきというわけではなく、日々警備隊に持ち込まれるたくさんの情報を取捨選択し、適切に警備兵を割り振ることができる警備隊は、全体的に優秀である傾向が強いのだ。


「あっ、あの人がフランツさんだぜ」


 警備兵たちを呼びに向かっていた村民の一人が、フランツを指差した。すると一人の役職が上なのだろう壮年の警備兵が、フランツの下にやってくる。


「冒険者のフランツさんですね」

「そうだ」

「あなたが我々への報告を促してくださったとか。ありがとうございます」

「いや、こちらこそ早急な対応、感謝する。この人数を私たちだけで護送するのは無理があったからな」

「確かに……多いですね」


 力なく地面へと座り込む盗賊たちを見て、壮年の警備兵は眉間に皺を寄せた。しかしすぐに首を横に振って盗賊から目を逸らすと、フランツに真剣な眼差しを向ける。


「今回の事件の流れを教えていただけますか?」

「もちろん構わない。まず私たち冒険者は、そちらにいるロータルに雇われて商隊の護衛をしていた。冒険者は全部で五人だ。この村には一晩を明かすために宿泊していたのだが、夜中に盗賊によって村が乗っ取られてる事実が判明し、それがバレたからと私たちを殺しにきた盗賊たちを、全員捕縛した。さらに人質となっていた子供たちを助け出し、村人全員の無事も確認してある」


 フランツの過不足ない説明と行動に、壮年の警備兵は僅かに驚いたような表情を浮かべた。しかしフランツに妙な威厳があるからか、その立ち居振る舞いに納得感があるのか、すぐに頷いて話を先に進める。


「盗賊の乗っ取りに気づいた経緯を聞きたいです。それから、盗賊に村を乗っ取られていた過程もできれば」


 その言葉にフランツは、イーゴと村長を手のひらで示した。


「ならばあちらの二人に聞くと良い。右のイーゴは最初に盗賊の乗っ取りを暴いた冒険者だ。そして左にいるのがこの村の村長なので、私たちが村を訪れるまでの詳細を一番把握しているだろう」

「あちらの二人が……分かりました。ご協力ありがとうございます」


 軽く頭を下げた壮年の警備兵は、今度はフランツが名指しした二人の下へ向かった。


 突然話を振られたイーゴはギョッとしたように目を見開いていたが、フランツに推薦状をもらったからか、意を決した様子で警備兵の声掛けに答える。


「少し話を聞かせてもらえますか?」

「あ、ああ、もちろんだ」

「ではイーゴさんから、盗賊の乗っ取りに気付いた経緯を教えてください」

「分かった。この村に泊まった日の夜中に、トイレで目が覚めちまって――」


 それからイーゴ、村長と順にこれまでの経緯を説明し、壮年の警備兵はこの村で起きた事実をあらかた理解した。


 途中で作業を終えた他の警備兵たちも聞き取りに加わっており、話を全て聞き終えたところで、皆が苦々しげな表情を浮かべる。


「ずる賢いやつらだ」


 一人の警備兵が盗賊たちを睨みつけつつ、吐き捨てるようにそう言った。


「本当だな」

「間違いない」


 次々と賛同の声が上がる中、真面目そうな警備兵が壮年の警備兵に対して進言する。


「隊長、この件は上に報告するべきではないでしょうか。規模的に我々警備兵だけに留まらず、兵士団も絡む案件になるかと思います」


 その進言に壮年の警備兵は、理解を示すようにゆっくりと頷いた。


 帝国にはシュトール帝国騎士団がトップに存在していて、その他に帝都の治安維持を努める帝都警備隊、各公国で独自に持つ武力である兵士団、そして各公国内の街などで治安維持を努める警備隊がある。


 この場に来ている警備隊は各公国の街それぞれに存在している部隊で、その警備隊が属するのはその街を治める貴族家であるのが通常だ。


 したがって警備隊は大きな事件などは直属の貴族家に報告し、報告を受けた貴族家が今度は属している公国を治める公爵家に向けてさらに報告をして、その公爵家が兵士団に命じて問題解決に向けて動き出すという流れになる。


 問題が帝国全体に波及するようなものだった場合は、公爵家からさらに国へと報告が上がり、騎士団案件となるのだ。


「そうだな。帰ったらすぐに報告するぞ。盗賊の護送準備は済んでいるな?」

「はい。いつでも村を出られます」

「分かった。ではここからは二チームに分かれて動くことにしよう。盗賊たちの仲間が周囲にいないとも限らないので、この村に残ってしばらく周囲の見回りと村人たちからの聞き取りをする者が三名。それ以外はこの後すぐに街へ戻る組だ。今から名前を呼んだ三名はここへ残るように」

「はっ」


 それから壮年の警備兵が三人の名前を告げ、その三人以外で街への帰還準備が進められた。


 その間に壮年の警備兵は村長に向き直る。


「では村長、我々は盗賊を街へ護送します。こちらに三名残しますので、何かありましたら彼らに話をしてください」

「分かりました。ありがとうございます」

「今の段階で何か話しておきたいことなどはありますか?」


 その問いかけに村長が首を横に振ると、警備兵は頷いてから今度はフランツたちに視線を向けた。


「次に盗賊の捕縛をしてくださった冒険者の皆さんですが、今回の件については報酬が出ます。こちらは冒険者ギルドを通した受け渡しで良いでしょうか」


 その問いかけにフランツがマリーアとカタリーナに視線を向け、イーゴとカイも二人で話をする。


「問題ないか?」

「わたしはいいわよ」

「私も問題ありません」

「分かった。私たちはギルドを通してで構わない」


 フランツが警備兵にそう伝えると、すぐにイーゴも口を開いた。


「俺たちもだ」

「かしこまりました。ではそのように手続きをしておきます。改めましてこの度は盗賊捕縛へのご協力、感謝申し上げます」


 そう言って頭を下げた壮年の警備兵は、街への帰還準備を進める部下たちの下へ向かう。そしてすぐに準備が終わると、盗賊たちを連れて村を出ていった。


「これで今回の問題は、とりあえず解決だな」


 警備兵たちが見えなくなったところでフランツが呟くと、マリーアが大きく伸びをする。


「う〜ん、そうね。なんだか疲れたわ」

「容易に制圧できる相手だったとはいえ、護衛対象がたくさんいる中だったからな」

「私たちはどうするのでしょうか」


 カタリーナがそう言って近くにいたロータルに視線を向けると、話が聞こえていたらしいロータルが皆に聞こえる声で告げた。


「皆さん、私たちは明日の早朝に村を出ることにしたいです。それで問題はないでしょうか」


 その提案に誰からも反論は出ず、フランツたちの出発日が決まる。出発が明日ならば今日は暇な時間があるということで、フランツは建物の修繕をキリの良いところまで手伝おう決めた。


「カタリーナもまた修繕を手伝えるか?」

「もちろんですわ」

「あっ、フランツ。もう盗賊の見張りはいらないから、わたしも修繕をしてもいい?」


 マリーアの問いかけに、フランツはすぐに頷く。


「もちろんだ。では皆でもう少し手伝おう」


 そうしてその日は皆で建物の修繕を手伝いながら、村人たちと楽しく交流をして過ぎていった。

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