第88話 冒険者への評価

 村長からの聞き取りも一段落したところで、フランツは何気なく広場の周囲に視線を向けた。

 そこにはいくつもの建物があるが、村の中の建物は盗賊が雑に扱ったり乗っ取った際の争いによって壊れてしまっているところもあり、活気があるとは言えない現状だ。


 そこでフランツはある決定を下し、村長に向けて提案する。


「警備隊が村に来るまで、早くても丸一日の時間がある。その時間を無駄に過ごすのももったいないため、村の修繕をしても良いだろうか」

「そ、そんなことまでしていただくわけには……!」


 村長が慌てて首を横に振ると、フランツは右手を前に出して村長の動きを止めた。


「いや、遠慮することはない。もちろん村の皆で修繕をしたいというのであれば尊重するが、遠慮しているだけならば手伝わせて欲しい。冒険者とは困っている者たちの助けになるのが仕事だからな」


 なんの躊躇いもなくそう告げたフランツに、村長の感動は増す。感動から瞳を潤ませた村長が、キラキラと輝く瞳でフランツを見つめた。


「冒険者とは、本当に素敵な職業なのですね……わしは誤解しておりました」


 そんな村長に対してフランツは悔しげな表情だ。


「この村でも誤解が広まっているのか? 冒険者とはとても素晴らしい者たちであるというのに、悲しいことだ」


 そう呟いたフランツは、さっそく冒険者の素晴らしさをこの村に伝えようと、必死に言葉を重ねた。


「冒険者とは自己研鑽を欠かさず、優しく勇気があり、他人のために動ける。そんな者たちばかりなのだ。もちろん実力という点においては、まだ伸び代が大きい者たちも多数いるが、その心意気という点では誰もが素晴らしいものを持っている。私が今まで出会ってきた冒険者は皆がそうであったので、これは真実に近いだろう」


 フランツの言葉に村長、そして商隊の皆も感動して何度も頷いているが、近くにいたイーゴとカイはいったい何の話をしているんだと言うように、眉間に皺を寄せていた。

 マリーアはすでに諦めたような苦笑を浮かべ、カタリーナは感動こそしていないが、フランツに同意するような表情を見せる。


「誤った情報を信じていた自分が恥ずかしいですな……フランツさん、村の修繕の手助け、お願いしてもいいでしょうか」


 そんな混沌の中で村長は遠くを見つめるように反省を呟いてから、フランツに深く頭を下げた。フランツはそれに爽やかに答え、誰もが好感を持つような笑みを浮かべる。


「もちろんだ。村が活気を取り戻せるよう、手助けをさせてほしい」

「ありがとうございます……!」


 そうしてフランツたちは、街から警備隊が来るまでの時間を使って村の修繕をすることになった。



 村の修繕にはロータルたち商隊のメンバーも加わることになったので、一気に人手が増した。ロータルがフランツたち冒険者の素晴らしさに感銘を受けたとのことで、自ら手伝いたいと申し出たのだ。


 盗賊の見張りにはマリーアとカイが残ることになり、フランツたちは村長の指示のもと、さっそく修繕開始だ。


 木材を運んでは切り出し、壊れた場所を直していく。フランツの魔法はもちろん大活躍だが、それ以上に活躍したのはカタリーナだった。


「お姉ちゃん凄いねっ」

「力持ち!」


 フランツたちが修繕を始めると少しずつ村人たちも集まり始め、今では健康な村人はほとんど全員が修繕に参加している。助けられた直後は泣いていた子供たちも、多くは元気を取り戻したらしく、笑顔で手伝いをしていた。


「あなたたち、女性に力持ちはダメよ? 可愛くて素敵だねって言わなければ」


 カタリーナは成人男性が二人がかりでやっと持ち上がるような木の板を軽々と持ち上げながら、子供たちに唇を尖らせて注意をした。


「え〜でもかっこいいだもん!」

「カッコいいって言われたら嬉しいだろ?」

「お姉さんは可愛いと言われる方が、もっと嬉しいわ」

「ぼ、僕はお姉ちゃん可愛いと思う……!」


 一人の純粋そうな男の子が顔を赤くしながらそう告げ、カタリーナはその子の頭を軽く撫でた。


「ありがとう。嬉しいわ」


 カタリーナの完璧な笑みを向けられた男の子は、頭から煙が出そうなほどに真っ赤だ。


 そうして純粋な男の子が不毛な恋に堕ちようとしているところに、風魔法でいくつもの資材を浮かべて運んできたフランツが現れた。


 フランツは軽々と木の板を持ち上げるカタリーナに、爽やかな笑顔で告げる。


「カタリーナは凄いな。それだけの力を得るには相当な鍛錬が必要だっただろう。天性の才だけではない努力が窺える」


 先ほどまで子供たちには注意していたような種類の褒め言葉だったが、カタリーナは嬉しそうに頬を緩ませた。


「フランツ様、ありがとうございます」


 そんなカタリーナに子供たちは不満げだ。


「なんで兄ちゃんはカッコいいって言っていいんだよ」

「なら俺たちもいいだろ〜?」

「あんたたち馬鹿じゃないの! これは、恋よ!」


 恋バナ好きな女の子が興奮の面持ちで断言すると、カタリーナは僅かに頬を赤く染めた。それを見て女の子たちが「きゃー!」と歓声をあげるなか、先ほどカタリーナに顔を真っ赤にしていた男の子が肩を落とす。


 そうして盛り上がっているフランツとカタリーナ、そして子供たちの下に、今度は村の男性たちがやってきた。


「釘を持ってきたぜ!」

「修繕まで手伝ってくれるなんて、本当にありがとな」

「俺は冒険者への印象が完全に変わったぜ」


 男性たちはフランツとカタリーナに尊敬の眼差しを向け、笑顔でそう告げた。フランツはそんな言葉に達成感を覚える。


「冒険者への誤解が解けたようで良かった」

「おうっ、もう完全に誤解はなくなったぜ。冒険者は尊敬できる仕事なんだな」

「もし村に力自慢の人がいるならば、冒険者をお勧めしてみてほしいわ」

 

 カタリーナが可愛らしい笑みを浮かべて上目遣いで、ダメ押しにウインクをしながらそう告げた。すると男性たちは一気に動揺を露わにし、任せとけと力瘤を作り出す。


「俺が冒険者になるのもありかもしれねぇな!」

「確かに農業には農閑期があるからなぁ。その時だけ冒険者をするのもありか?」

「戦闘能力が上がれば、村での暮らしももっと安全になるしな」


 前向きに考え始めた男性たちに、カタリーナはにっこりと笑顔で告げた。


「素晴らしい考えだわ。その時にはフランツ様のような素敵な冒険者になってね」

「お、おうっ、それはもちろんだぜ」

「皆の役に立てるような冒険者になってやる」


 男性たちがやる気を滾らせる中、子供たちも元気よく握り拳を持ち上げた。


「俺も大きくなったら冒険者になる!」

「俺もなるぜ!」

「ぼ、僕も……!」

「あら、素敵な夢ね」


 そうしてフランツたちが盛り上がりながら建物の修繕を進めていると、盗賊の見張りをしていたはずのカイがやってきた。






〜あとがき〜

先日発表されたのですが、本作が第9回カクヨムWeb小説コンテストの異世界ファンタジー部門にて、特別賞とComicWalker漫画賞を受賞しました!


とても嬉しいです。いつも読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます!


こちら特別賞は書籍化を目指すというようなものですので、書籍になります!と現段階で断言はできないのですが、これから朗報などがありましたら、すぐにお知らせさせていただきます。


フランツたちの冒険をもっとたくさんの人たちに楽しんでもらえるよう、これからも頑張ります!


引き続きWebの更新も続けていきますので、これからもよろしくお願いいたします!


蒼井美紗

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