第86話 喜びと今後の話

 倉庫を出た子供たちは自らの親を見つけると、一直線に駆けていった。


「お母さん!!」

「パパ〜っっ」

「こ、怖かった……っ」


 親たちも自らの子供が無事なことを確認し、大粒の涙をこぼす。無事であることを確かめるように強く抱きしめ合い、その場には感動的な雰囲気が満ちた。


 そんな中でフランツは、皆に聞こえるよう声を張る。


「皆、もう少し協力して欲しい。これから村人全員で広場に集まってもらえるだろうか。そして行方不明となっている村人がいるかどうかを確認したい。さらに顔を知っている盗賊がいれば、その者が捕縛されているかどうかも確認を頼みたい」


 その言葉で村人たちはまだ全てが解決したわけではないと思い出したのか、表情を引き締めて頷いた。


「分かった」

「任せてくれ」

「協力します。うちの子を助けてくださり、本当にありがとうございました」

「本当に助かる……ありがとう」


 村人たちが次々と感謝を口にするのに対して、フランツは爽やかな笑みを浮かべる。


「当然のことだ。なぜなら私は冒険者だからな。冒険者とは困っている者たちを助けるのが仕事だろう?」


 当たり前のように告げたフランツは、さっそく踵を返して村の広場に足を向ける。そんなフランツの後ろ姿を、大多数は困惑しながら、しかし少なくない人数が尊敬や憧れの眼差しで見つめていた。



 それから少しして、村の広場にはロータルを筆頭に商隊のメンバーも集まり、盗賊と村人たちも含めて、村内にいる全ての人間が集まった。


「まさか村が盗賊に乗っ取られていたとは……フランツさん、今回は本当に助かりました。ありがとうございます」


 事の次第を聞いたロータルが深く頭を下げると、フランツは首を横に振ってイーゴを示す。


「真っ先に気づいたのはイーゴだ。礼ならイーゴにしてほしい。私は出遅れてしまったからな」

「そうでしたか。イーゴさん、あなたは命の恩人です。ありがとうございました。もちろんフランツさん、マリーアさん、カタリーナさん、カイさんも助かりました」


 ロータルのその言葉に、近くにいた本物の村長も深く深く頭を下げた。


「わしにも礼を言わせてください。我が村を助けてくださり、なんと感謝を伝えればいいか……本当に、本当にありがとうございましたっ! 子供たちは全員無事で、村人も全員が命あって、盗賊たちの支配から抜けることができました……っ」


 瞳から涙を溢しながら頭下げた村長に、村人たちも次々と感謝の言葉を口にした。そして広場には無事を喜び合う感動的な空気が流れ、しばらくしてフランツが口を開く。


「では村長、これからの話をしても良いだろうか」

「はい、もちろんでございます」

「ありがとう。まず盗賊たちの対処に関してだが、私たちが全員を街まで護送するのは難しい。そこで近くの街にいる警備隊を呼びに行ってもらいたいのだが、動ける村人はいるだろうか」


 その問いかけに村長が答える前に、何人かの村人が率先して手を挙げた。


「俺が行くぜ!」

「そいつらにやり返したくて、力は余ってんだ。街まで行くぐらいどうってことねぇ」


 手を挙げた村人たちの中から、やる気があって体力もありそうな男性が数名、村長によって指名される。


「この三人に任せようと思います」

「分かった。では三人には、早急に街へ向かってもらいたい。その間の村の守護と盗賊の見張りは私たちに任せてくれ」


 ロータルには、この問題が解決するまで村に滞在する許可をもらっていた。フランツは騎士団長ということは明かさないにしても、冒険者として最後まで責任を持って対処するつもりだ。


「分かったぜ」

「任せてください!」

「明日には帰ってくる」

「頼んだぞ」


 フランツが頷きながら声を掛けると、指名された三人はさっそく準備のために広場を離れた。それを見送ってから、フランツは広場全体に声を掛ける。


「では一度解散としよう。全員が無事であることが確認でき、盗賊も村にいた者は一人残らず捕えられたようだからな。私たちが盗賊は見張っているので、皆には体を休めてほしい。気が抜けない毎日で疲れが溜まっているだろう。ただ村長には少しだけ残ってもらい、今までの経緯を説明してもらっても良いだろうか」


 その言葉に村人たちがありがたいと頭を下げ、村長も頷いたところで、広場の外側にいた村人たちから家に帰り始めた。


 しばらくして広場にいるのは、フランツたち冒険者と商隊のメンバー、さらに村長とその付き添いの数人、そして盗賊だけになる。


 盗賊たちはフランツの強さを目の当たりにしたからか、誰も逃げようと画策したり、口を開いたりすることはなかった。項垂れて全てを諦めたような表情だ。


「ロータルたちも家に戻って良いが、どうする?」


 この場から動く気配のないロータルにフランツが声を掛けると、ロータルはにこやかな笑みで盗賊たちに視線を向けた。


「このような事態に遭遇することは稀ですから、この場で見学をさせていただければと思います。冒険者という仕事に興味がありますし、何よりも商談の際に話のタネになりますから」


 商人としての強さを見せたロータルに、フランツは尊敬の念を抱きながら見学を受け入れる。


「分かった。ではあまり危険はないと思うが、盗賊に近づきすぎないようにだけ気をつけてほしい。それから盗賊に何を言われても、それは嘘だと思ってくれ」

「分かりました」


 そうして広場に残るメンバーが決まったところで、フランツは村長に視線を向けた。

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