第79話 顔合わせと出発

 護衛依頼を受注した翌日。朝早くから顔合わせをしてさっそく出発になるということで、フランツたちは冒険者ギルドにやってきた。


 ギルドの中に入るとすでにイーゴ、カイの二人もいたが、昨日は依頼の受注手続きだけですぐに解散したので、あまり仲を深めておらず挨拶をするのみだ。


 五人が揃ったところでギルドの受付に声をかけると、さっそく依頼主である商隊の代表者との顔合わせになった。


「こちらの会議室でお待ちです」


 受付に案内された部屋は冒険者ギルドの一階奥に位置していて、中に入ると人の良さそうな笑みを浮かべた中年の男が待っていた。

 向かいの席を勧められたが二人しか座れないため、代表者としてフランツとイーゴが腰掛け、他の三人はソファーの後ろに立つ。


「この度は依頼の受注をありがとうございます。商隊の代表を務める、ロータルです。トレンメル公国の首都トーレルまでは十日ほどの日程になると思いますが、よろしくお願いします」

「ああ、よろしく頼む。私はフランツ。後ろは左からマリーア、カタリーナだ」

「俺はイーゴ、後ろはカイだ。よろしく頼む」


 向こうが名乗ったのでフランツたちも合わせて軽く自己紹介をし、さっそく仕事内容の話に移った。


 ロータルが道中の説明や、馬車と積荷の量などを説明していく。それを聞いた上で護衛の配置を考えるのも、護衛依頼を受注した冒険者側の仕事だ。


 商隊で雇っている護衛がいる場合はその者たちとも話し合うが、今回はイレギュラーな商売のために専属護衛はいなく、そのためフランツたちを雇ったそうだ。


「護衛の配置は先頭での警戒に一人、また最後尾での警戒にも一人、あとは自由に動けるよう体を空けておく三人ってところだな」


 そう呟いたのはイーゴで、さらに無口そうなカイも口を開いた。


「俺たちが先頭と最後尾の監視を請け負う。護衛依頼は慣れているし、視力がいい」

「そうだな。俺たちが警戒役でいいか?」


 最終的にはイーゴにそう問いかけられ、フランツたちは断る理由もないので了承した。


「私たちは構わない。ただ警戒役は疲れる役回りだと思うが、任せてしまっても良いのだろうか」

「そうよね。交代とかも決めておく?」

「その方が良いわ」


 普通なら頷くだろうフランツたちからの提案に、イーゴはすぐ首を横に振る。


「いや、大丈夫だ。警戒には慣れているからな」


 少しだけ頑なさを感じる姿勢に違和感を覚えつつ、無理に交代を願い出る理由もないので、フランツは二人に警戒役を頼むことに決めた。

 そして三人は遊撃担当に決まったとはいえ、基本の待機場所だけは決めて、事前の話し合いは終了だ。


 五人の話し合いを聞いていたロータルは安心したように頬を緩め、立ち上がると扉を示した。


「では皆さん、さっそく出発しましょう。商隊は街の外門広場に待たせてありますので、そちらまでお願いします」

「分かった。すぐに向かおう」


 それから外門広場に向かったフランツたちは、商隊のメンバーに軽く挨拶をして、自分の待機場所に向かった。全員が馬車に乗り込んだところで、ロータル指示の下に商隊は動き出す。


 フランツが乗っているのは隊列の中央に位置している幌馬車で、同乗者はロータルと数人の商会員だ。

 基本的に監視役はイーゴとカイなので、フランツはいざという時にすぐ動けるよう準備だけをして、体力温存のため静かに座って待つ。


「ロータル様、最初の休憩場所はいつものところですか」

「そうだね。今日は天気も良いし、いつもと変わらない予定で行こう」

「分かりました」


 ロータルと商会員たちの会話を何気なく聞きながら、フランツはたまに外へと視線を向けつつ、のんびり馬車に揺られた。



 それから数時間後。一度の休憩を挟んで馬車は順調に進み、リウネルの街の周囲に広がる草原にポツポツと低木が姿を現し始めたところで、突然ガランガランッと焦燥感を覚える鈴の音が響いた。


 この音がしたら、襲撃の合図だ。


「皆は馬車から降りないように!」


 フランツはそう叫び、まだ止まりきっていない馬車からふわっと身軽に飛び降りた。すると前後からマリーアとカタリーナも姿を現す。


「イーゴ、カイ、どこから来る!?」

「前からだ!」


 フランツの問いかけにイーゴの声が聞こえ、三人は隊列の前方に向けて走った。すると街道の先に、ゴブリンの群れがいるのが視界に映る。


 まだ遠いため詳細は分からないが、十匹ほどに見える小規模な群れだ。


「凄いな。この距離で気づいたのか」


 フランツが思わず呟いた言葉に、イーゴはゴブリンたちの周囲に視線を向けて、真剣な表情で答えた。


「俺らは魔物を見つけるのは得意なんだよ。他の魔物がいねぇか確認するのは任せてくれ」

「凄いな。さすが冒険者だ」

「討伐は任せなさい」


 フランツとカタリーナがそう答え、さっそくゴブリンに向かって駆けていく。そんな二人の援護をするために、マリーアも杖を構えた。


 近づいてみるとゴブリンの数は全部で十四匹だ。フランツは剣を振るって、一度に数匹のゴブリンを傷付けていく。カタリーナも一撃でゴブリンを地面に沈め、マリーアも正確に風魔法で首を刈り取った。


 幸いにも魔法を使える個体はいないらしく、三人にとっては楽勝だ。ゴブリンとの戦闘はすぐに終わるだろう。誰もがそう思って安心した時、また何かの襲撃を知らせる鈴が大きく鳴らされた。


「なっ……また魔物?」


 マリーアがそう呟いて後ろを振り返ると、イーゴは鈴を鳴らしていない。ということは、魔物が姿を現したのは隊列の後方だ。

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