第5章 トレンメル公国編

第78話 再びの護衛依頼と二人の冒険者

 次の日の朝。朝からいつもの鍛錬をして爽やかなフランツと、その鍛錬に参加してテンションが高めなカタリーナと、昨夜遅くまで店を梯子していたことで少し疲れ気味のマリーアの三人は、冒険者ギルドに向かっていた。


「あんたたち、なんでそんなに元気なのよ……」


 マリーアは眩しそうに目を細め、燦々と降り注ぐ日の光によるダメージを少しでも軽減させようと試みている。


「寝れば大抵の疲れは回復するだろう?」

「私もフランツ様と同意見ですわ。確かに昨夜は少し遅かったけれど、あの程度ならば睡眠時間に問題はないわ」

「……貴族って皆がこうなの?」


 フランツとカタリーナは貴族の平均からはかなり外れているのだが、マリーアはこの二人以外に親しい貴族の知り合いがいないため、貴族に対する間違った認識を得つつあった。


(二人がおかしいんだとは思うけど、貴族の中でこの二人だけがここまで常識外れって可能性は低いわよね。そう考えると、この二人ほどじゃなくても普通じゃない人たちが貴族にはたくさんいたりするの? でも貴族って、威張るだけで怠けてる人もいるし……)


「――あぁっ、もうやめ!」


 マリーアが突然叫ぶと、フランツとカタリーナが同じようにビクッと体を揺らして、マリーアに視線を向けた。


「どうしたんだ?」

「大丈夫?」

「――大丈夫よ。難しいことを考えるのはやめにしたの。朝から疲れるから」


 叫んだことでスッキリしたマリーアは、体を起こそうと大きく伸びをして息を吸い込んだ。まだ時間が早く、少しだけ冷たい空気が胸いっぱいに入り込み、ゆっくりと吐き出すと頭が冴えてくる。


「早く冒険者ギルドに行くわよ」


 歩く足を早めたマリーアに続いてフランツとカタリーナも早足になり、三人は爽やかな朝の大通りを歩いて行った。


 

 朝一の冒険者ギルドは混み合っているが、その中に入るのも慣れている三人は、人の合間を縫って依頼票が貼られている掲示板に向かった。


「カタリーナもBランクになったのだったな」

「はい。フランツ様が別のお仕事をされている間に、Bランクまで昇格しておきました」

「ならば依頼のランクを考える必要はない。幅広く護衛依頼を探そう」

「そうですね。良い依頼を探します」

「面倒が起きなさそうなやつにしましょ」


 冒険者ギルドの依頼は、自分のランクの一つ上までしか受けられないという縛りのみのため、高ランク者が下位ランクの依頼を受けることも可能だ。


 したがって基本的にはAランクまでしかない制度上、フランツたちに受けられない依頼はない。


「護衛依頼はCランク辺りに多いのよね〜」


 皆で手分けして探すことしばらく、マリーアが一枚の依頼票を剥がした。


「これなんてどう?」

 

 その依頼はちょうどフランツたちの行き先である、トレンメル公国の首都までの護衛依頼だ。護衛対象は中規模の商会で、移動に慣れてそうなところも良い。


「あら、良いじゃない」

「でしょ? これに……って、あれ?」


 マリーアが剥がした依頼票をもう一度読み直し、後ろから覗き込んでいたフランツがある一点を指差した。


「五名以上という人数制限があるな。商隊の護衛ではよくある制限だ」


 フランツの言葉にマリーアが残念そうな表情で、依頼票をじっと見つめる。


「せっかく他の部分はちょうどいいのに」

「仕方がないから別の護衛依頼を探しましょう」

「……そうね」


 マリーアが名残惜しそうに依頼票を掲示板に留め直そうとすると、突然三人に向けて声が掛けられた。


「なあ、その護衛依頼、一緒に受けないか?」


 振り返ったフランツたちの視界に入ったのは、三十代後半ほどに見えるくたびれた男性が二人だ。

 一人は大剣を背負った背の高い男で、もう一人は細身……というよりもガリガリという表現の方が近いような、ローブを着て杖を持った男。


 どちらの男もどこか哀愁が漂っているというか、あまり覇気が感じられない二人組だった。しかし声を掛けてきた背の高い男は一応笑みを浮かべているので、フランツは話を聞いてみることにする。


「なぜ私たちに声を掛けたのだ? こういうものは、知り合いの冒険者同士で受けるものではないのか?」

「あぁ〜、まあ、基本的にはそうだけどよ、ちょうど知り合いは出払ってて、俺たちも時間を無駄に過ごせるほど余裕ねぇから」

「そうか……他の依頼を受けるのではダメなのか?」

「それでもいいんだけどよ、俺たちは護衛依頼を中心に受けてるからな。できれば慣れてる仕事がいい」


 そこまで話を聞いたフランツは大きな問題はなさそうだと判断し、マリーアとカタリーナに視線を向けた。すると二人は微妙そうな表情を浮かべながらも、肯定の言葉を発する。


「別にわたしはいいわよ」

「私もです」

「分かった。では共に依頼を受ける方向でお願いする」


 その言葉を聞いた二人は、やはりあまり表情を変えずに頷いた。


「分かったぜ。じゃあよろしくな。俺はイーゴだ。見て分かる通り大剣で戦う」

「俺はカイだ。水魔法を使う」


 二人が自己紹介をして、三人も軽く自身の戦い方を話した。


「私はフランツ。剣と魔法を両方使う。魔法は土魔法や風魔法の使用頻度が高いな」

「私はカタリーナよ。このナックルを付けて、拳で戦うわ」

「わたしはマリーア。風魔法使いよ」


 三人の中でも特にフランツの挨拶に驚きの表情を浮かべた二人は、ここに来てやっと口元に心からの笑みを浮かべた。


「心強いぜ。道中はよろしくな」

「よろしく」







〜あとがき〜

本日より第5章の投稿を開始します。引き続きフランツたちの冒険を楽しんでいただけたら嬉しいです!

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