第75話 リウネルへ戻る
帝都を後にしたフランツは、馬を乗り換えながら最速でリウネルの街に戻った。すると門番にマリーアからの伝言が伝えられていて、それに従い冒険者ギルドへ向かう。
するとそこには、ちょうど依頼帰りに見えるマリーアとカタリーナ、そしてレオナがいた。
「あっ、フランツ。帰ってきたのね」
「フランツ様、ご無事で何よりです」
二人に笑顔で迎えられ、レオナには軽く頭を下げられたフランツは、片手を上げながら三人の下に向かった。
「久しぶりだな。しばらく待たせてしまってすまない。帝都でいくつもやることがあったんだ」
「別にいいわよ。こっちはこっちで楽しくやってたから。色々と問題は解決したの?」
様々な意味を含むだろうマリーアの問いかけに、フランツはしっかりと頷く。
「ああ、問題は全て解決した。……戦争は終結し、私を狙った暗殺者に関することも全て解決済みだ」
周囲には聞こえないよう小さな声で告げた言葉に、カタリーナが真剣な表情を見せた。
「実家で聞きましたわ。帝国の貴族社会に巣食っていた悪が裁かれたこと、シュトール帝国の侯爵家に属する者として重く受け止めつつ、これからの国の行末に期待しております」
「わたしもカタリーナから話を聞いたわ。詳細はよく分からないけど、ずっとフランツが追ってた悪者を裁けたんでしょ? 良かったわね」
カタリーナの真っ直ぐとした瞳とマリーアの緩められた瞳に、フランツは胸の内が満たされる気持ちで頬を緩める。
「ああ、本当に良かった。これからシュトール帝国はより良い方向に向かうだろう」
そこで言葉を途切れさせたフランツは、他の人たちに話を聞かれないよう三人を冒険者ギルドの端に促すと、カタリーナに問いかけた。
「カタリーナ嬢は、まだここにいても大丈夫なのか?」
その問いかけにカタリーナはにっこりと可憐な微笑みを浮かべ、驚きの言葉を口にする。
「実は私、フランツ様が働かれている時に実家と交渉しまして、これからもフランツ様とマリーアの仲間として冒険者を続けることをお父様に了承させ……いえ、了承していただいたのです」
騎士でもない侯爵家の令嬢が本格的に冒険者を続けることなど前代未聞で、それを了承したというエルツベルガー侯爵にフランツが驚きを隠せないでいると、マリーアが呆れた眼差しをカタリーナに向けながら口を開いた。
「突然ちょっとだけ実家に帰るわって言って、しばらくしていい笑顔で帰ってきたのよ。本当にカタリーナって、お嬢様感がないわよねぇ」
「……カタリーナ嬢は凄いな」
「フランツ様ほどではないですわ」
にっこりと人畜無害な笑みを浮かべるカタリーナに、マリーアが胡乱な眼差しを向ける。
「わたしからしたら、フランツもカタリーナも等しくおかしいわよ」
「あら、それを言ったらマリーアもそうでしょう?」
「わたしは常識人よ!」
「そうかしら? 結構あなたが暴走することもあったような気がするけれど……」
言い合いを始めた二人を前にして、フランツは驚きの表情を少しずつ緩めていった。
「二人は仲良くなったのだな。これから共に冒険者としてやっていくのならば、大切なことだろう」
「ええ、もう親友ですわ。ですよね、マリーア?」
「……ま、まあ、友達ではあるわね」
マリーアの手を取って微笑むカタリーナに、マリーアはちょっと照れた様子だ。頬の赤みがだんだんと増していき、慌てた様子でカタリーナの手を振り払う。
「長いわよ!」
そんなマリーアにニコニコとした笑みを向けていたカタリーナは、表情を少し引き締めてフランツに問いかけた。
「それでフランツ様、私も仲間に入れていただけますか?」
フランツの答えは、もちろんイエスだ。
「ああ、これからもよろしく頼む。やはり冒険者とは四人以上のパーティーが多いものであるし、カタリーナ嬢が加わってくれるのならば嬉しい」
「本当ですか……! ありがとうございます」
フランツに認められたカタリーナは、令嬢の仮面が剥がれたのか無邪気に喜んだ。するとマリーアが揶揄うような眼差しを向け、カタリーナは少しだけ頬を膨らませてマリーアに視線を向ける。
そんな二人のやりとりはフランツ……というよりも、冒険者ギルド内にいる他の冒険者たちに強い影響を与えたらしく、ギルドにいる男性冒険者は例外なくだらしない表情で二人に視線を向けていた。
そんな視線に二人が気づく前に、レオナが口を開く。
「他の者たちに見られておりますので、場所を移動されるべきかと思います」
その言葉でフランツはレオナの今後に考えが及び、その場で問いかけた。
「レオナさんは、これからどうするんだ?」
「私は職場に戻る予定となっております」
周囲への配慮で職場と言葉を濁したレオナに、カタリーナが補足する。
「冒険者として活動するのは私だけ、そして必ずフランツ様と一緒にという条件なのです」
「そうなのか、分かった。ではレオナさん、カタリーナ嬢のことは任せて欲しい」
「はい、フランツ様ならば安心してお任せできます。どうか、よろしくお願いいたします」
深く頭を下げるレオナにフランツが頷き、カタリーナがレオナの肩を叩いた。
「レオナ、しばらくは別行動になっちゃうけど、これからもよろしくね。私が戻ったら、またあなたに私の側へ付いてもらうわ」
「かしこまりました。その時にはお任せください」
そうして四人での話は終わりとなり、マリーアとカタリーナが依頼達成報告を済ませてから、四人はギルドを後にした。
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