第66話 戦場へ
少しだけ戯れあった二人は、マリーアが平常心に戻ったところで真剣な表情を浮かべ、また話し合いを続行させた。
「問題はどのようにして情報を伝えるのかだわ。フランツ様が街にいらっしゃれば簡単だけれど、確か騎士団はそろそろ草原に向かう頃よ」
カタリーナの言葉を聞いて、マリーアもその事実を思い出す。
(そういえば、ちょうど今日が草原への移動日として指定されていたわね)
時計を取り出すよりも早いと木々の隙間から空を見上げたマリーアは、眉間に皺を寄せた。
「時間的に、移動を開始してる可能性は高そうね」
「ええ、その場合は厄介だわ。街にフランツ様や、そうでなくても信頼できる方がいれば良いけれど、誰もいなかった場合――騎士服を着ているからという理由だけで信頼して情報を預けるのは、避けるべきだもの」
敵国の偵察部隊が入り込んでいるかもしれないという情報を得た現状、味方側に偵察部隊の面々が入り込んでいる可能性も考慮しなければいけないのだ。
カタリーナは難しい表情で考え込み、少しして割り切るように顔を上げた。
「考えても仕方がないわね。まずはとにかく街に戻りましょう。そこでフランツ様に合流ができれば、それで解決だわ。それが叶わなかった時のことは、街に戻ってから考えれば良いもの」
「確かにそうね。じゃあ皆に、わたしたちは離脱するって伝えないと」
「ええ、私が話をするわ」
そうして三人は倒した魔物の解体をしている冒険者たちの下へ向かい、カタリーナが代表して急用ができた旨を伝えた。
「ということで、私たちはここで街に戻るわ。皆は無理せず、自らの力量を見極めて魔物を討伐すること。――私たちの分まで頼んだわよ」
カタリーナがにっこりと微笑んで伝えると、冒険者たちは一気に高揚して拳を持ち上げる。
「おうっ、俺たちに任せてくれ!」
「お嬢やマリーアさんの分まで魔物を倒すぜ!」
「俺はレオナさんの代わりもするな!」
冒険者たちは文句を言うことは一切なく、三人の離脱を受け入れた。
「ありがとう。とても頼りになるわ」
可愛らしく微笑んで冒険者全員と視線を合わせたカタリーナは、その笑顔を崩さずマリーアとレオナに視線を向ける。
「では行きましょう」
マリーアがカタリーナに呆れた眼差しを向ける中、三人は街に向かって急いで足を動かした。
それから約一時間後。マリーアたち三人は街に戻ってきていた。しかしフランツたちのことを探すも――すでに街にはいないことが判明する。
「状況はあまりよくないわ」
「そうね。この場合にどうするのかは決めてなかったけど」
マリーアがそう言ってカタリーナに視線を向けると、カタリーナはピースの形で指を二つ立てた。
「この先の行動として考えられるのは二つよ。一つ目は私たちも戦場に向かって情報を伝える。二つ目は得た情報を伝えるのを諦める」
「街に残された騎士に伝えるっていうのは選択肢にないの?」
「ええ、それは万が一の場合、事態を著しく悪化させる恐れがあるわ。その手段を私たちが独断で選ぶことはできない」
その説明を聞いたマリーアは納得し、少し考えてから指を一本立てた。
「わたしは一つ目がいいと思う。このまま伝えずに戦争が不利に動くようなことがあれば、一生後悔するもの。それに戦場に行くとはいえ、情報を伝えてすぐに帰るなら危険は少ないでしょう? 魔物はわたしたちが討伐しているわけだし」
その選択を聞いて、カタリーナは口端を持ち上げた。
「私も同意見よ。では戦場に向かいましょう。レオナ、良いかしら」
「できれば危険なことは避けていただきたいのですが、それを伝えても意味がないことは分かっておりますので、今回は見逃します。しかしカタリーナ様、大切な御身であることをお忘れなきよう」
「もちろんよ」
レオナが僅かに見せた疲れたような呆れたような瞳の揺らぎに、マリーアは一気に親近感を覚えてレオナの肩を叩いた。
「お互い苦労するわね」
(やっぱりフランツとカタリーナって、似たもの同士でお似合いなんじゃない? それとも貴族って皆がこういう感じなの?)
貴族の普通が分からなくなり、マリーアがそんなことを考えていると、さっそくカタリーナは戦場に向かって足を踏み出す。
慌ててマリーアとレオナもそれに続き、三人は戦場に向かって歩き出した。
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