第63話 宣戦布告への対応

 リウネル子爵邸に着いたフランツたちは、今回の宣戦布告における臨時の作戦本部となっている応接室に向かった。


 するとそこにはリウネル子爵に加え、第三騎士団の南西部隊隊長であるエーリヒ、そしてエーリヒの部下が数名いた。


「待たせてすまないな」


 フランツがそう言ってソファーに腰掛けると、さっそく前置きなしで本題に入る。


 マリーアとカタリーナはフランツの現在の仲間であり、フランツがこの場にいることを許可したため室内にいるが、部屋の端に置かれた椅子に腰掛けているだけだ。

 レオナは部屋の外で待機をしている。


「いえ、休暇を取られているにも関わらず、お呼び立てして申し訳ございません」


 エーリヒがそう言って頭を下げると、イザークが詳細を伝えた。


「今回は内戦が終わってからすぐに突然の宣戦布告がなされ、さらにはクラーケンの一件もあり不穏なため、皇帝陛下によって正式に、第三騎士団だけでなく第一騎士団へも国防への尽力が命じられました。しかし団長は休暇中のため、私が臨時で第一騎士団を動かそうと思っていたのですが……」


 そこで意味深に言葉を切ったイザークが、フランツの瞳をしっかりと見つめて続きを告げた。


「団長がこの街にいることを知ったヴォルシュナー公爵による強い要請により、一時的に団長には騎士団へと戻っていただくことになりました」


 ヴォルシュナー公爵による強い要請。その言葉にフランツは僅かに眉を寄せたが、ほとんど表情を変えることなく口を開く。


「……戦場はヴォルシュナー公国内なのか?」

「はい。宣戦布告の書状に戦場の指定がありました。場所はここリウネルからほど近い国境の山にある、比較的広い谷です」


 その谷とはシュトール帝国とサヴォワ王国、どちらから行くにしても険しい山道を進んだ先にある谷で、珍しいことに平らな草原となっている場所だ。

 両国が陸路での交易をしていたときには、ほとんどの場合でこの草原を通過していた、そんな場所である。


「異例続きの宣戦布告にも関わらず、戦場は指定されているのか……」


 国同士が争う場合には無駄な犠牲を避けるため、戦場が指定されて軍同士がぶつかり合うというのはよくある話だ。

 しかし今回は、その通例に則っているというのが、逆に違和感を生ませた。


「はい。しかし向こうからの要求はないのです」

「要求がないだと?」


 戦場が指定された宣戦布告は、指定した側から要求があるのが当たり前だ。その要求が呑めるものならば、話し合いによって戦争が回避されることも多々ある。


(疑問点が多すぎる宣戦布告だな……しかし情報が増えない以上、いくら考えても向こうの考えは分からない)


「とにかく事前の戦争回避は難しいと判断し、準備を進めるべきだな」

「はい。またこの戦場に関する情報が、虚偽である可能性も考慮に入れるべきかと」


 イザークがその可能性を口にすると、エーリヒが補足をした。


「第三騎士団の他の部隊にも、国境の監視を強めるよう伝達はしてあります」

「ありがとう。では私たちはとにかく敵の軍隊が指定の場所に来る前提で、我が国の土地を絶対に踏ませないよう、準備をしよう。また情報収集にも力を入れるべきだな」

「そちらは私の方でも手配をしておきます」


 そうしてフランツ達の話し合いは、宣戦布告への奇妙な違和感を残しつつ終わった。


 話し合いにキリがついて少しだけ室内の雰囲気が緩んだところで、フランツは部屋の端に控えていたマリーアとカタリーナに視線を向ける。


「私はしばらく第一騎士団の騎士団長として動くため、二人と共に活動することはできない。また冒険者としての活動も難しいため、二人には依頼の続きを任せても良いだろうか。カタリーナ嬢は自宅へ帰るならば、この機会に……」


 フランツのその言葉に、カタリーナは被せるようにして口を開いた。


「いえ、急ぎの用事はありませんから、私はまだこの街にいますわ。しっかりとフランツ様の代わりに、冒険者としての依頼をこなしておきます」


 やる気満々な様子のカタリーナを横目に、マリーアも苦笑しつつ頷く。


「わたしもカタリーナと一緒に依頼を受けてるわ。あんたは騎士団長として国を頼んだわよ」

「ああ、こちらは任せてくれ」


 そうして二人とは別行動をすることが決まったところで、イザークが二人に向けて口を開いた。


「冒険者への依頼は明日から少し変更となり、指定の草原へ向かう山道付近の魔物討伐となるでしょう。安全な補給のためには魔物を減らすことがとても重要なため、よろしくお願いいたします」

「ええ、任せておきなさい。私がどんな魔物も倒しておくわ」


 強さを隠すことは完全に諦めたカタリーナが笑顔でそう告げると、フランツがカタリーナに良い笑顔を向ける。


「カタリーナ嬢、とても頼もしく思う。今度カタリーナ嬢とも手合わせをしてみたいな」


 その言葉を聞いたカタリーナは、感動で瞳を輝かせた。


「ぜひよろしくお願いいたします! ……これからは毎日鍛錬ね」


 後半の言葉はフランツには届かず、隣にいたマリーアにだけ届いた。


「あんた、侯爵令嬢よね……?」


 マリーアの言葉を無視したカタリーナは、これからの鍛錬メニューを考え始めたのか真剣な表情だ。


 侯爵令嬢としてはあまり相応しくないだろう努力の方向性だが、フランツの婚約者になるためと考えたら正しいとも言えるその決意に、マリーアはそれ以上口を挟まなかった。


 それからは互いの健闘を祈り、さっそく戦争に向けた準備をするため、それぞれの場所に散った。

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