第62話 冒険者たちの反応

 フランツたちがその場を去ってからも姿が完全に見えなくなるまで、冒険者たちはフランツの後ろ姿をぼーっと見つめていた。


 しばらくして完全に視界から消えると、今回の依頼で少しの仲間意識を感じていた冒険者たちは、その場に全員で円形になり顔を見合わせる。


「……フランツさんって、何者なんだ?」


 小柄な一人の男が沈黙を破ったと同時に、全員がずっと口にしたかったのだろう疑問を各々好きに発した。


「騎士と繋がりがある冒険者なんているのかよ!?」

「相当強い冒険者なんじゃねぇの?」

「トップランクかもな」

「あの強さだしな……トップランクなら、騎士団と繋がりがあっても納得はできる」

「というか、何があったんだ?」

「怖い表情だったぜ……!」

「なんかトラブルじゃねぇ?」

「ちょっと興味あるよな!」


 喧々諤々としたその場に、一人の男の声が妙に響いた。


「――首を突っ込まない方が良さそうだな」


 その言葉に全員が顔を見合わせ、ほぼ同時に頷いて安堵のため息を吐く。


「それはそうだな。気になるが……」

「安易に首を突っ込んだら、何が出てくるか分かったもんじゃないぜ」

「フランツさんが騎士だったらヤバいしな」

「いや、それはさすがにないだろ。でもなんか、俺らと違う雰囲気はあったな」

「怒ってた時、怖かったよな……」

「……というか俺ら、あの人たちに顔を覚えられたぞ」


 その言葉にまた冒険者たちは一斉に口をつぐみ、何かを怖がるように周囲を気にし始めた。そしてさっきまでよりも小さな声で、話を再開する。


「……確かにそうだな」

「おい、俺たちが捕まるようなことって……」

「さすがにそんな悪いことはやってないだろ。せいぜい怒られるぐらいのことだって。そこの二人も見逃されたんだからな」


 全員がフランツに怒られた二人組冒険者に視線を向け、安心したように頬を緩めた。


「確かにそうだな」

「でも次はないって感じじゃなかったか……?」

「……それは、確かに」

「あの強さの人が敵になるとか……考えただけでチビりそうだぜ」

「おい、汚ねぇな」


 チビりそうと発した男が隣にいた男たちに強めに尻を蹴られている中、それを全く気にせず二人組の冒険者が口を開く。

 

 二人はフランツの怖さや強さを思い出しているのか、顔を強張らせながら決意を瞳に滲ませた。


「とにかく、これからは真面目にやってかないとダメだ」

「ああ、そうじゃねぇとヤバい」

「お前らもせいぜい、真面目になるんだな」


 その忠告に三人組と四人組の冒険者たちは顔を見合わせ……ふっと表情を緩めた。


「正直フランツさんたちと一緒に仕事したら、もう悪事に手を染める気なんてなくなったな」

「分かる。俺は柄にもなく、これからは真面目に仕事するか! なんて思っちまったよ」

「俺もだ。鍛錬して強くなるかなって」

「真面目にやって周りのやつらを助けてれば、何かが変わりそうだしな」

「まあ俺も――捕まるのは嫌だし、真面目にやるかな」


 まだ素直になれない様子の男がそう呟くと、周りの冒険者がニヤニヤとした笑いを湛えながら、その男の背中や肩を強めに叩いた。


「ははっ、そうだよな。捕まるのは嫌だよな」

「そうだ。罰金なんて取られたら、せっかくの金が全部なくなる」

「じゃあ、真面目にいこうぜ!」


 一人の素直になれない男が揶揄われている中で、真っ先にフランツに尊敬の眼差しを向けていた男が、ポツリと呟いた。


「というかさ、フランツさんたち、カッコよかったな」


 そのストレートな言葉を、冒険者たちはバカにすることなく肯定する。


「いや、それな」

「マジでそれ」

「俺はうっかり憧れそうになったぜ」


 意見が一致した男たちはさらに仲間意識を高め、拳をぶつけ合った。


「これから頑張るか」

「どうせなら、すげぇ冒険者を目指そうぜ」

「トップランクは稼げるしな」

「お前たちには負けねぇぞ?」

「お、俺は別に、捕まるのを回避するだけだ」


 まだ素直になれない男の言葉に、また他の冒険者がニヤニヤと楽しげな笑みを浮かべ、そうして冒険者たちはその場から離れた。


 ギルドに向かう皆の足取りは軽く、表情は明るく晴れやかだった。

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