第61話 再びの緊急連絡
それから数時間。フランツたちは何十匹もの魔物を討伐して回った。時間が経つにつれて冒険者たちはやる気を出していき、Cグループ全体の雰囲気が良くなる。
一番の反発者だった二人組冒険者など、まだフランツへの恐怖心も継続しているからかもしれないが、瞳を輝かせながらフランツの指示に素直に従っていた。
「剣の振り方だが、剣の重心を捉えると今よりも扱いやすくなるだろう。剣に振り回されないために必要なのは、身のこなしのコツで……」
フランツが何気なく話す知識を実践した冒険者たちは、少しの差で変わる自身の実力に、瞳を輝かせる。
「全然違うぞ……!」
「ほんとだ。変わったな」
「でもあれだな、筋力が足りねぇ」
「確かにな、筋トレするか。……強くなれば、もっと稼げるしな」
「そうだな。頑張ろうぜ」
フランツには聞こえない声音で告げられた言葉から、まだ一番の強くなる動機は稼ぐことだと分かるが、それでも小さな悪事を積み重ねるような生活を送っていたことを考えれば、大きな変化だろう。
「すぐ自身に足りない部分を認識し、そこを補う方法を考える……さすが冒険者だな。やはり冒険者とは素晴らしき者たちだ。筋トレは日々の積み重ねが一番大切なため、毎日トレーニングする時間を決めると良い。共に頑張ろう」
フランツに輝く瞳でそう伝えられた冒険者たちは、強いフランツに仲間と認識してもらえたことが嬉しいのか、高揚感を露わにした。
「おうっ」
「しっかりやるぜ。強くなれたら嬉しいからな」
「ああ、強ければ人々を守れるからな」
「人々を守れる……か」
強くなれば稼げると考えていた冒険者たちに、フランツの言葉は意外にも深く刺さったらしい。突然神妙な面持ちになり、自分の手を見下ろした。
「なあ、フランツさんは、馬鹿にされることってないのか?」
妙な沈黙が場を満たす中、三人組冒険者の一人がそう問いかける。
「なぜ馬鹿にされるのだ? そのような経験はないが」
「例えば、依頼者に下に見られたりとか」
「……そのようなことがあるのか? それはしっかりと冒険者ギルドに報告をすべきだ」
フランツが冒険者を下に見る依頼者に怒りを向け、さらにそんな依頼者に全く心当たりがない様子に、冒険者たちは顔を見合わせた。
「……やっぱり強くて役に立てば、感謝されるんじゃないのか?」
「馬鹿にされてたのは俺らのせいだってのか?」
「いや、でも……そうとしか考えられないだろ」
冒険者たちの小声での話し合いはフランツには届いておらず、フランツは一歩前に出て問いかける。
「どうしたのだ?」
「い、いや、なんでもない。……これからは真剣にやってみようぜ」
「……そうだな。そうしてみるか」
そうして冒険者たちがフランツによって意図せず更生し始めた頃に、日が傾いてきたところで今日の仕事は終わりとなった。
フランツたちは最後まで油断せずに森を抜け、街に向かって歩き出す。冒険者たちが他のグループの討伐数を予測しながら、自分たちが勝ってるんじゃないかと楽しそうに話をしていると――
街に入ってすぐの場所で、フランツを待っていたらしいイザークが、厳しい表情でフランツに声をかけた。
「早急にお耳に入れなければならないお話がございます」
突然現れた騎士と、そんな騎士が冒険者であるはずのフランツに声をかけたことで、他の冒険者たちは混乱の表情だ。
「何があった?」
フランツが一気に顔つきを真剣なものにして問いかけると、イザークはフランツの耳元で、周囲には聞こえないように告げる。
「サヴォワ王国の内戦は、開戦から一日と経たずにザイフェルト公爵の勝利で終わったと連絡がありました。しかしそのザイフェルト公爵が――我が国へ宣戦布告を」
宣戦布告という言葉を聞いた瞬間に、フランツは完全に騎士団長の顔になった。イザークを連れて、皆から少し離れた場所に向かう。
「それは真実か? 誤った情報である可能性は?」
「考慮する必要がないほどに低いかと」
「……理由はなんだ? 内戦に戦力を投入したが予想以上に早期に勝利してしまい、せっかくの戦力や物資を無駄にしないため、そのまま他国を攻めるということはあることだが……なぜ帝国なのかが分からない」
(サヴォワ王国と帝国の仲は悪くない。特にザイフェルト公爵領には港街があり、帝国との交易で栄えたはずだ。だからこそ内戦前にサヴォワ王家は、リウネルの港街を狙ったのではなかったのか?)
フランツは様々な疑問に対して少しの間だけ考え込んだが、すぐに首を横に振って意識を切り替えた。
「理由を考えても仕方がないな。今は我が国を守ることを考えよう。戦場はどこになる? 敵の戦力は?」
「こちらにまとめてあります。リウネル子爵邸に臨時で作戦本部を設置してありますので、そちらまで移動してください」
「分かった」
そうして二人は会話をやめ、フランツは他の冒険者たちを振り返った。
「皆、本当に申し訳ないが、私には急用ができてしまった。冒険者ギルドへの報告は頼んでも良いだろうか」
「別に、構わねぇけど……」
一人の冒険者がそう答えたが、誰もが何かを聞きたそうに口元を動かしている。しかしフランツの強さを知ったからか、この場の雰囲気が張り詰めたものだからか、誰も口を開くことはなかった。
そんな冒険者たちを見回してから、フランツはマリーアとカタリーナ、そしてレオナに視線を固定する。
「三人は一緒に来てほしい」
「もちろんよ」
「お供させていただきますわ」
「私もです」
三人の返答を聞いたフランツは、最後に冒険者たちに向けて軽く手を挙げてから、イザークと並んでリウネル子爵邸に向かって歩き出した。
その後をマリーアたちが付いていき、急激な状況変化に付いていけていない冒険者たちは、いまだに混乱しつつ五人を見送る。
「イザーク、私の騎士服は準備できるか?」
「はい。手配済みです」
「ありがとう。さすがだな」
そう言ってイザークを褒めるフランツの口元は笑みの形になっていたが、瞳に宿している光は、とても鋭いものだった。
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