第59話 オーク討伐と恐怖の対象

 オークたちは知能が高いようで、フランツたち――獲物を逃がさないようにと前方からだけでなく左右に広がり、フランツたちを取り囲んだ。


 その様子にフランツは真剣な表情で思考を巡らせ、すぐに対処法を告げる。


「皆は左右に散ったオークを倒して欲しい! 私は正面から来るオークを全て討伐する」


 そう告げたフランツは、素早く剣を抜き先頭のオークに切り掛かった。常人では目で追えないほどの速さである剣筋にオークが反応できるはずもなく、一瞬にして一体のオークは首から血を吹き出して地面に倒れる。


 ドスンッ……オークが力なく地面に倒れ込む音が響き、しかしフランツはそんなオークの最期を見ることもなく、次のオークに向けて石弾を放っていた。

 返り血一つ浴びていないフランツは、魔法を放ちながら剣を振るい、次々と流れるようにオークを倒していく。


 そんなフランツの信じられない強さを見て、他の冒険者たちはポカンと口を開けたまま呆然としていた。


「ボーッと突っ立ってて死にたいの!?」

「早く動きなさい! 戦えないのならば、それはただの役立たずよ!」


 しかしマリーアとカタリーナに喝を入れられ、ハッと我に返る。


 冒険者たちは逃げ切れる保証がないからか、ヤケクソのような動きと表情ながらも、オークに向かって駆け出した。


 一応冒険者として活動しているだけあり、カタリーナとマリーアの援護がある状態ならば、複数のオークとも戦えている。


「なんで俺らがこんな目に……!」

「文句を言ってる暇なんてないぞ! 生き残りたかったら目の前のオークを倒せ!」

「分かってる……!」


 必死で剣を振るって魔法を飛ばす冒険者たちに、カタリーナとマリーアは上手く援護をした。

 オークの攻撃が当たりそうな冒険者はマリーアの風魔法で助けられ、冒険者たちが捌ききれないオークはカタリーナがナックル付きの拳で殴り倒していく。


 さらにフランツは一人で十体以上のオークと対峙しているにも関わらず、無傷で息も切らしていない。


 そんな三人の様子を目の当たりにした冒険者たちは……次第に表情を変え始めた。


「おいっ、あいつらヤバいぞ」

「……なんだよあの強さ」

「あの女、弱そうな見た目しといて、オークを殴り殺してるぞ。どんな馬鹿力だよ」

「あっちの風魔法を使う女もヤバいぞ。信じられないコントロールだ」

「でも何よりも、あっちの男だよな」

「……あれは人間か? オークより怖いんだが」


 冒険者たちはフランツ、マリーア、カタリーナのおかげで余裕が生まれたため、小声でそんな話をし始めた。


「おい、俺らさっきあいつらに逆らっちまったよ」

「どうすりゃいいんだ……!」

「そんなの俺らは知らない」

「見捨てるなよ、助けてくれよっ」

「なぁ、あいつらの仲間? のはずだよな。もう一人のあの女。全く戦わないのはなんでなんだ?」


 冒険者の一人がレオナを示してそう口にした。レオナは冒険者として今回の依頼を受けているわけではないので、基本的には戦闘に参加していないのだ。

 カタリーナが危機に陥った場合のみ、手を出すことになっている。


「……治癒要員とかじゃねぇの? 後は荷物持ちとか」

「確かに強い冒険者はそういう人員もいるって聞くな」

「だろ……っっ!」


 冒険者たちがレオナの役割に自ら納得しかけた瞬間、カタリーナに背後から迫っていたオークを、レオナの鞭が襲った。


 レオナの棘がついた鞭はオークの首筋を的確に打ち、何度か振られた鞭による攻撃で、身体中に傷ができたオークは一瞬で満身創痍になる。


 そんなオークを、振り返ったカタリーナが一撃で仕留めた。


「レオナ、さすがね!」

「いえ、当然のことです」


 そんな一連の流れを見て……冒険者たちはより一層フランツたちへの恐怖心を深めた。


「お、おいっ、見たかよ。さっきの鞭、凶悪なほどに棘が付いてたぜ」

「それに固いオークにあんなに傷が付くとか、どんな威力なんだよ」

「マジでこいつら、なんなんだよ」

「ヤベェよ。怖ぇよ」


 冒険者たちはもはやオークではなく、フランツたちへの恐怖で震えている。いつの間にかオークの数はあと数体になっていて、そろそろ戦闘は終わりだ。


 そんな中、一ヶ所に集まったフランツたち以外の冒険者グループは、フランツに反抗していた二人組の冒険者に哀れみの視線を向けた。


「お前ら……健闘を祈ってる」

「まあ、頑張れよ」

「あのフランツって言ったか? あいつは冒険者に随分と誇りを持ってるみたいだったな。それを金がもらえればいいとか、ノルマはないからサボるとか、馬鹿とか……」


 三人組の冒険者の一人がそこまで告げると、誰もが二人組の冒険者から視線を逸らした。


「おいっ、俺らを見捨てるなよ! お前らだって同じことを考えてただろうが!」

「……俺らは冒険者という仕事に誇りを持っている」

「そうだそうだ。サボるなんて考えたこともねぇな」

「ああ、当たり前だ」

「国のために力を尽くすぞ」


 そうして二人組の冒険者が他の皆に見捨てられているうちに、最後のオークの首が、フランツの剣によって飛ばされた。

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