第51話 再びの騎士団案件
サヴォワ王国という明確な国名にマリーアとカタリーナが息を呑むなか、フランツは説明を続けた。
「魔道具だけでなく、この魔石を繋げている糸も様々なことを示している。これはサヴォワ王国と他数国でしか発見されていない、ある植物を原料にしたものだ。帝国にも輸入されている糸だが、魔道具と合わせて考えると――」
そこでフランツが言葉を切ってマリーアとカタリーナの瞳を交互に見つめると、二人は真剣な声音で頷く。
「サヴォワ王国が関与している可能性が、高いってことね」
マリーアの小さな呟きにフランツは頷き、今度は魔石を少し持ち上げた。
「この魔石も色合いや大きさを見るに、帝国内に生息している魔物である可能性は低い。明確にどの国で討伐された魔物であるかは判断できないが、これらが他国によるものだという証拠の一つにはなる」
そうして発見した魔道具と魔石についてフランツが一通りの説明を終えると、マリーアは少し顔色を悪くして、カタリーナは貴族令嬢としての顔を見せながら眉間に皺を寄せた。
「サヴォワ王国は、ここリウネルの港街が属するヴォルシュナー帝国と面している国ですわ」
「ああ、さらにリウネルの港、つまりここと海上貿易を行っていたはずだ」
「……帝国と仲が悪いの?」
「いや、貿易をしているぐらいだ。関係性の悪化については聞いたことがない」
(しかし少し気になる動きがあるとも、噂は聞いたことがある。ただそれにしても、こんな宣戦布告とも取れるようなことをするほど、一気に関係性が悪化するとは考えにくいのだが)
フランツは真剣な表情で顔を上げると、二人に宣言をした。
「――これは重大事項だ。すぐに報告、そして対処をしなければならない。私はフランツ・バルシュミーデとして、リウネル子爵と話をしようと思う」
その宣言にカタリーナはすぐに同意を示し、フランツに尊敬と憧れの瞳を向けた。
「それがよろしいかと存じます」
マリーアは少し遠い目をして現実逃避するような表情をしていたが、比較的すぐに立ち直り、フランツに向けて頷いてみせる。
「分かったわ。あんたは本当に、厄介なことに巻き込まれる性質ね……でもあんたが対処をすると思うと心強いわ」
そう言ってフランツに笑みを向けたマリーアに対し、フランツも笑顔を見せながらも少しだけ眉を下げた。
「ありがとう。私が責任を持って対処しよう。しかしマリーアには冒険者とは別の仕事で何度も時間を取らせてしまい、本当にすまない」
素直に謝罪を述べたフランツに、マリーアは結構な強さでフランツの腕をバシッと叩いた。
「気にしなくていいわ。他ではできない経験って思えば、楽しいもの。……でもまあ、もう少し自重してくれるとありがたいんだけど」
「分かった、善処しよう。私もせっかく休暇を取っているのだから、もう少し冒険者らしく旅を堪能したいのだが」
フランツが溢した本音を聞いて、マリーアは気の毒そうな表情を浮かべた。
「そうよね、あんただって望んで次々と騎士団案件を引き当ててるわけじゃないのよね。……あんた、なんか呪われるようなことでも無意識にしたんじゃないの?」
胡乱げな眼差しでそう問いかけたマリーアに、フランツはすぐに首を横に振る。
「そんなことはあり得ない。私は悪事には決して手を染めていないのだから」
「それはそうだろうけど、別に善人だって悪意は向けられるのよ」
その言葉に今まで関わってきた大きな事件の被害者や、戦争で理不尽に住む場所を追われたり命を奪われる結果となった人たちを思い出し、フランツは神妙な表情で頷いた。
「そうだな。素晴らしき冒険者たちも、悪意を浴びせられることがあるのだから当然か」
しかしフランツが口にしたのはその言葉で、マリーアは微妙な表情で口を開く。
「それはちょっと……また違うというかなんというか」
曖昧にそう告げたマリーアが悩む様子を見せたところで、カタリーナが笑顔でフランツに声をかけた。
「フランツ様、今回のことが解決したら、今度は鍛冶屋を巡ってみるのはいかがですか? 確か冒険小説では、よく鍛冶屋に向かう場面が出てくるような……」
カタリーナのその言葉に、一気にフランツの瞳が輝いた。
「それはありだな! そういえば私は、まだ鍛冶屋に行っていなかった。素晴らしい剣を生み出す職人との出会いが楽しみだ」
ニコニコと上機嫌にそう言ったフランツに、カタリーナが満面の笑みで声をかけようと口を開きかけると――
「では私と一緒……」
「早く冒険者に戻るためにも、この事件は早急に解決しよう」
一気にやる気が跳ね上がったフランツに、言葉を遮られた。フランツはそれに気づかないまま、周囲に素早く視線を向けてフーベルトを見つけると、さっそく三人がいる場所まで手招きをする。
カタリーナはガクッと落ち込んだ様子になり、そんなカタリーナにマリーアが気の毒そうな表情を浮かべて優しく肩を叩いた。
二人の距離が、また少し近づいたようだ。
そんなカオスな三人の下へ、フーベルトが駆け足でやってきた。
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