第37話 レオナの頼みと騎士団

 約束通り一時間後の冒険者ギルドでは、レオナが受付でフランツたちを待っていた。すでに事務手続きは済んでいるようで、依頼達成の報酬とBランクの冒険者カードをすぐに手渡される。


「こちらをどうぞ」

「ありがとう」

「これでAランクの依頼まで受けられるようになったのね」


 フランツとマリーアはそれぞれカードを眺めてから、落とさないよう鞄等に仕舞った。


「お二人の実力を見る限りAランクへの昇格も可能だと思いますので、Bランクでしばらく依頼を達成されたら、ぜひ挑戦してみてください」

「分かった、少ししたら昇格を考えよう。それよりもレオナさん、私に何か言うことはないだろうか……!」


 瞳を輝かせながらレオナに向かって身を乗り出すフランツに、レオナは僅かに動揺を見せた。しかしすぐに冷静さを取り戻し、ゆっくりと口を開く。


「何かとは、どのような内容でしょうか。お二人への頼み事ならば、一つあるのですが」

「頼み! それは何だ?」


 やけに前のめりなフランツにレオナは困惑の表情を浮かべながらも、二人にのみ届く程度の声量で告げた。


「実はリウネルという港街で、魔物被害が増えて困っているようなのです。もしよろしければ、そちらに向かっていただけますか? 実力のある冒険者が足りないようでして」


 レオナのその言葉にフランツはガクッと落ち込んだが、すぐに復活して大きく頷いた。


「――分かった。港街で海の魔物を倒すのは冒険者のロマンだ。マリーアが賛成してくれるのならば、獣人とのことが解決し次第リウネルへと向かおう」

「わたしは別にいいわよ。フランツのロマンってやつに従うと、碌なことにならない予感がするけど……他に行きたいところもないもの」

「ありがとうございます。では、ぜひよろしくお願いいたします」


 二人の返答に、レオナは僅かに眉を下げながら深く頭を下げた。そんなレオナに、フランツはまたしても前のめりで声をかける。


「それで、他に話はないだろうか?」

「あんたはさっきから何なのよ? 何か話があるならさっさと言いなさい!」


 受け身のフランツに焦れたのかマリーアがそう言ってフランツの背中を叩くと、フランツはかなり躊躇いながらも、レオナが首を傾げていることを確認してから口を開いた。


「……私を弟子にしてくれないだろうか」


 フランツから発された予想外すぎる言葉に、レオナはパチパチと瞳を瞬かせた。そして不思議そうに首を傾げながら、ポツリと呟く。


「私は弟子を取っておりませんが……それにフランツさんはどちらかというと、弟子を取る方ではないでしょうか」

「あんた、何言ってんのよ」


 レオナからバッサリ断られ、マリーアにも胡乱げな瞳を向けられたところで、フランツは諦めて大きく息を吐き出した。


「いや、そうだな。申し訳ない」


(実技試験で高い実力を認められ、ギルドの試験員である者に弟子として認められるのが王道なのだが……やはり私は冒険者としてまだまだということだな)


 その王道は冒険小説の中だけであるが、フランツは決意のこもった瞳で拳を握りしめた。


(もっと研鑽を積もう)


「何を考えてるのか分からないけど、多分その決意は必要ないと思うわよ?」


 マリーアが疲れたように告げた言葉は、決意に満ちたフランツには聞こえていなかった。フランツの脳内では、明日からの鍛錬メニュー増強計画が立てられている。


 そうして最後にフランツがやる気を高めたところで、二人の実技試験兼依頼は終了となった。


「ではレオナさん、今回は助かった。また会うことがあれば、その時はよろしく頼む」

「レオナさんのおかげで、スムーズに実技試験が終わったわ」

「こちらこそ、お二人には試験へ積極的に協力していただき、とても助かりました。これからもよろしくお願いいたします」


 フランツとマリーアは丁寧に頭を下げるレオナに見送られ、冒険者ギルドを後にした。



 フランツたちがハイゼの街に戻ってから約二週間後。警備隊の詰め所でもある外壁内の休憩室にて、フランツとマリーアはイザークと他十名ほどの第一騎士団員と顔を合わせていた。


「団長……あなたは短期間で何度、騎士団案件を持ってくれば気が済むんですか!?」


 休憩室の扉が閉まってすぐに、イザークが叫んだ言葉だ。


「突然呼び出してすまないな。しかし信頼できる者たちにしか頼めないことなのだ」

「はぁ……確かに獣人との交流なんて、下手な人に頼めないのは分かります。というか何で冒険者をやってると、獣人と交流できることになるんですか……」

 

 イザークは疲れた表情で呟いた。それにマリーアが、何度も首を縦に振って同意を示している。


 するとそんなマリーアに気づいたイザークが、マリーアの手を取った。


「マリーアさん、色々とありがとうございます……」

「いいのよ。あんたも苦労するわね」


 二人は交わした言葉は少ないが、深く通じ合っている様子で何度も頷き合う。そんな二人を見て、フランツが口を開いた。


「いつの間に仲良くなったのだ?」


 その言葉を聞いた二人は、同時に声を発する。


「あんたのせいよ!」

「団長のせいです!」


 それからフランツとイザークたち騎士団員で、情報のすり合わせを行った。獣人との交流をすることになった流れに関する詳細や、麓の村について、さらには集落についても要点を説明する。


 そして最後に、村ではフランツに対して冒険者として接するようにと伝えたところで、一行はさっそく獣人の集落に向かうことになった。

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