第29話 ハニールカと村へ帰還
「僕は獣人だけど、それにしては能力が低くて、他の獣人の子供たちには全くついていけませんでした。お父さんとお母さんも小さな頃に死んじゃって、友達もいなくて、集落にいても寂しくて。それでこの洞窟をこっそり作り、いつも一人でいたんです」
そう話すハニールカの表情は、とても寂しげだった。
「ここでは僕が好きな甘いおやつを作ったりして、それなりに楽しく……過ごしてました。でもある時、森で少し迷っちゃったんです。そしたらミーアたちに出会って、偶然持ってた果物の蜂蜜漬けをあげたら喜んで食べてくれて、洞窟に来てくれました」
ハニールカはチラッとミーアとその友達である女の子に視線を向けると、すぐにまた俯く。
「ミーアたちは僕と身体能力が同じぐらいだから、一緒に遊ぶのが楽しくて、つい村に帰って欲しくないと思っちゃって……」
「それで村までの帰り道を教えないで、ずっと洞窟に引き留めてたのね」
「……はい。そして他の子とも遊びたいと思って、またミーアたちと会った場所に」
マリーアの言葉に頷き、そのまま俯きがちで説明を続けたハニールカは、ギュッと唇を噛むようにして拳を硬く握りしめると、もう一度頭を下げた。
「本当に、本当にごめんなさい」
そこでずっと黙っていたフランツが、行方不明となっていた四人の子供たちに視線を向ける。
「ハニールカの話は合っているか?」
「う、うん。ルカくんに美味しいものをもらって、一緒に遊ぼうと思って洞窟まで付いていった」
「……だから、だからルカくんは悪くないの!」
「ルカは、どうなるんだ?」
ハニールカは悪くないと首を横に振りながら訴える女の子の後に、男の子が恐る恐る問いかけた。するとフランツは、迷うことなくハッキリと口にする。
「理由が何であれ、四人の子どもたちを攫い、この洞窟に軟禁したのは事実だ。この事実はそのまま村長へと報告する」
「じゃあルカ、捕まっちゃうのか?」
「そんなのダメ!」
複雑な状況にマリーアは眉間に皺を寄せながら、フランツに問いかけた。
「被害者がこう言ってるんだし、どうにかならないの?」
「私ではどうすることもできない。事実は曲げられないからな」
(罪は罪だ。どんな理由や背景、そして被害者または加害者の感情があったとしても、それは罪を無かったことにする理由にはならない)
そう考えたフランツだが、眉間には深い皺が刻まれている。
(ただこのような事例の加害者が罪を受けるのに対し、もっと悪質な罪を犯している者が逃げおおせている事実に怒りが湧くのは事実だな。今回の件は、あまり重い罪とならなければ良いが……いや、私がこんなことを考えていてはダメだ。誰もが平等に罰を受けるのが鉄則なのだから)
「とにかく、一度村に戻ろう。ハニールカ、君にも村に来てもらう」
「は、はい……」
そうしてフランツとマリーア、レオナに加え、行方不明となっていた四人の子供たち、そして子供たちの失踪の原因であるハニールカは、洞窟を出て村に向かった。
一行はひたすら無言で森の中を進み、魔物には遭遇せずに果樹園近くまで山を降りた。そして果樹園の間を通る村に続く道を進んでいくと……何人かの村人が、ミーアたちに気づいた。
「こ、子供たちが帰ってきたぞ!!」
一人の男性が声を張り上げると、近くにいた村人たちがフランツたちに駆け寄り、さらに他の者にも知らせるために声を張り上げる。
そうしてほんの少しの間に、フランツたちは大勢の村人に囲まれた。そんな騒ぎの中に慌ててやってきたのは、村長であるアーデルと、その息子と孫であるダミアン、クルトだ。
「子供たちが帰ってきたというのは本当か!?」
「村長! こっちだぜ!」
「ミーアちゃんもいるわよ!」
アーデルたちのために村人は道を開け、人だかりの中心にいたフランツたちの下に駆け寄る。
「ミーア! 無事だったか!」
「お祖父ちゃん! お父さんとお兄ちゃんも……っ」
ミーアは家族に会えたことで安心したからか、泣きながら三人に駆け寄った。父親であるダミアンに抱きつき、ミーアの頭を撫でるアーデルとクルトに笑いかける。
他の子供たちの家族も続々と集まり、その場は歓喜に包まれた。
そんな中でハニールカは、家族の再会を羨ましそうな悲しげな表情で見つめながら、手が真っ白になるほどキツく拳を握りしめている。
「フランツさん、マリーアさん、本当にありがとうございます」
一通り無事を喜び合ったところで、アーデルがフランツたちに声をかけた。すると集まっていた他の村人たちも、フランツたちの話を聞くために静かになる。
村人たちの瞳には、フランツとマリーアへの感謝と尊敬が浮かんでいた。
「子供たちが無事で良かった」
「はい。本当に……それで、犯人は捕えたのでしょうか? それからその子は村の子供ではないと思うのですが、一緒に捕えられていたのですか?」
ハニールカのことを心配するような眼差しで告げられた村長の言葉に、ハニールカはビクッと体を震わせた。
フランツはそんなハニールカに一瞬だけ視線を向けると、よく通る声で告げる。
「この者はハニールカと言う。今回の事件の犯人だ」
「は、犯人……?」
「どういうことだ?」
「ミーアたちと同い年か、少し上ぐらいだろ?」
村人たちから困惑の声が上がる中、フランツは事実を余すことなく伝えるため、真剣な表情で口を開いた。
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