第28話 意外な犯人と子供たちの救出

 フランツが少年の肩に手を置くと、少年はビクッと体を震わせながらも顔を上げた。


「君は、子供たちの失踪に関わっているのだな?」


 再度問いかけたフランツの言葉に、少年は唇を引き結びながらこくりと頷く。それを確認したフランツがまた口を開こうとした時、二人の下にマリーアとレオナがやってきた。


「フランツ、何がいた……って、子供を助けたの!?」


 二人の下に駆け寄ったマリーアは泣いている少年に気づき、フランツと少年の間に割って入る。


「ちょっとフランツ、泣かせちゃダメよ!」

「違う、マリーア。この子は被害者じゃない」

「え、じゃあ何でここに……」

「加害者側で、今回の事件に関わっているそうだ」

 

 フランツのその言葉にマリーアは瞳を見開き、少し後ろで待機していたレオナも驚きを隠せない様子だった。


「そ、それは、本当なの?」

「ああ、今から話を聞くところだ。まずは君の名前を聞いても良いか?」

「は、はいっ、……僕の名前は、ハニールカです」


 ハニールカと名乗った少年は、唇をギュッと噛み締めながらその場に立ち上がった。

 

「子供たちを攫った犯人を知っているのか? それともハニールカ、君が犯人なのか?」

「……ぼ、僕が、犯人です」

「犯人って……こんな子供が犯人なの? そんなの信じられないわよ。そもそも何で森の中に子供が一人で……」


 マリーアが困惑の言葉を紡いだところで、ハニールカは震えながらも覚悟を決めた様子でフードを脱いだ。


「僕は……、獣人、なんです。山の上に、集落があります」


 獣人は国によっては交流があることもあるが、基本的には山や森の中に住んでいて、人間とはあまり関わらない種族だ。

 帝国でも獣人の存在は確認されていても、普通に暮らしていたら一度も出会うことはないのが普通だった。


 そんな獣人が目の前にいるという事実に、皆は驚きを隠せない。フランツでさえ、かなり驚いていた。


「何で獣人の子供が、村の子供を……」


 マリーアの独り言のような呟きに、ハニールカは眉を下げて泣きそうになりながら答えた。


「僕、友達が欲しくて……本当に、本当にごめんなさい。皆の家族が心配することは、分かってたのにっ」

「子供たちは無事なのか?」

「それはもちろん、です」

「では子供たちのところへ案内して欲しい。私たちは子供たちを探す依頼を受けた冒険者だ」


 まずは子供たちの安全をと思い冒険者カードを見せながら案内を頼むと、ハニールカはチラッとカードを確認し、すぐにこくりと頷いた。


 そして山を登る方向に森の中を進み、三十分ほど歩いたところで立ち止まった。


「あ、あの洞窟に……」


 ハニールカが指差したのは、大人がやっと通れるほどに見える、何の変哲もない洞窟の入り口だ。


「中に君以外の獣人は?」

「いません。集落はもう少し上にあって、ここは僕が作った逃げ場だから……」

「そうか、では中に入らせてもらう」


 フランツが先頭で最大限の注意を払いながら洞窟内に入ると、そこは入り口から想像できないほどに広い空間だった。大人でも余裕で立ち上がり、ジャンプをしても天井には手が届かないほどの空間だ。


 そこには心地よさそうな絨毯が敷かれ、テーブルや椅子が置かれ、その上には美味しそうなスイーツがたくさん載っていた。

 そしてそのテーブル周辺には、行方不明になっていた子供たちがどこか不安そうに座っている。


「だ、誰……っ」


 子供たちは見知らぬ大人であるフランツが入ってきたことで、警戒をあらわにした。そんな子供たちに、フランツは笑顔で声をかける。


「大丈夫だ、心配いらない。私はアーデル村長、ダミアン、クルトたちから依頼を受け、皆の捜索をしていた冒険者だ」


 フランツが三人の名前を出したことで、子供たちの警戒心が一気に下がった。


「お祖父ちゃんと、お父さんと、お兄ちゃん、私を探してるの?」


 そう問いかけた女の子は、クルトの妹であるミーアだろう。


「ああ、凄く心配していた。君はミーアか?」

「う、うんっ……皆に、会いたいよぉぉっ」


 そう言って泣き出してしまったミーアに、フランツに続いて洞窟に入ってきていたマリーアが手を伸ばす。背中を優しく摩って声を掛けた。


「すぐに会えるから大丈夫よ」


 他の皆もミーアに釣られて泣き始めたところで、洞窟の入り口で立ち止まっていたハニールカが、ズボンをぎゅっと強く握りしめながら口を開いた。


「み、皆、ごめん、ごめんなさい……っ」


 大きな瞳から涙をボロボロこぼして何度も謝罪を口にするハニールカに、子供たちは泣くのをやめてハニールカに近づいた。


「ルカくん、泣かないで」

「でも……僕のせいで、皆が悲しい思いをっ。家族と引き離してっ、ごめん。皆が帰りたいって……っ、思ってるの、分かってたんだ。でももう少し一緒にいたくて、村までの道を教えなかった……っ、」


 それだけ言うと唇を血が出るほど硬く引き結んで静かに涙を溢すハニールカに、子供たちは励ますように手を伸ばした。


「べ、別に俺たちなら大丈夫だ」

「そうだな。美味しいもん、たくさんもらったもんな!」

「わ、私も家族に会えないのは少し寂しかったけど、ルカくんと遊ぶのは楽しかったよ?」

「私も!」


 子供たちの声掛けに、ハニールカはさらに激しく泣き出してしまう。それにどうすればいいのかと子供たちが困惑していると、フランツが子供たちに近づいて口を開いた。


「私は今回の事の詳細をまだ聞いていないのだが、説明してもらえるだろうか。ハニールカ、君はなぜこんなことをしたのか。そしてどのように実行したのか。子供たちにはここに来るまでの経緯と、ここでの生活について聞きたい」


 フランツの冷静な言葉に少しだけ落ち着いたのか、ハニールカは涙を拭いながらこくりと頷いた。


 椅子が足りないので皆で絨毯に直接座り込み、全員がハニールカに視線を向ける。


「全部、話します」


 ハニールカはそんな言葉から、事の詳細を語り出した。

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