第27話 衝撃の出会いと困惑
レオナからすでに実技試験は合格だと聞いた二人は、とは言ってもまだ依頼を達成していないので、予定通り森に向かって足を進めた。
「それで、なんでまた森に向かうの? ギードを監視したりするのもありじゃない?」
「いや、先ほどのやり取りでギードが犯人の可能性はかなり低いと判断した。したがって、もう少し現場を調査する方が優先事項だろう」
「確かに……そうね。噂の行動は全て引っ越しと冒険者になるためのものだったし、そうなると仲の良い家族を妬んでたことぐらいしか疑う理由はないわ」
マリーアの言葉にフランツは頷き、それからは捜査が振り出しに戻ったということで、真剣な表情を浮かべながらまだ遠くに見える森を見据えた。
森に着いたところで、フランツを先頭にして三人で森に足を踏み入れる。フランツが向かうのは、昨日蜂蜜を見つけた場所だ。
「この周辺に他の痕跡がないかを見つけたい」
「分かったわ。それにしても蜂蜜なんて、よく分からない痕跡よね……」
マリーアは慎重に草木を掻き分け、フランツは周辺の気配に意識を傾ける。レオナはそんな二人の様子を眺めつつ、もう試験員の仕事はあらかた終わっているからか、痕跡を探すため森に視線を向けた。
「子供たちが魔物に襲われた可能性は低いのよね」
「もちろん絶対にないとは言えないが、それにしては痕跡がなさすぎるな」
「人だったとしたら、犯人像は思い浮かんでるの?」
「ああ……子供たちに近しい者で単独、または少数犯の可能性が高いだろう。そうでなければ、ここまで痕跡を残さないというのは難しい。子供たちに警戒されない人物が犯人で、子供たちが自ら付いていったと――」
そこでフランツが突然言葉を途切れさせ、森の奥にじっと視線を向けた。
(何かがいるな……これは人か?)
感覚を研ぎ澄ませ、僅かに捉えたものに意識を集中させる。
「フランツ?」
突然黙り込んだフランツにマリーアが呼びかけると、フランツはくちびるに人差し指をそっと当て、マリーアとレオナにここで待つよう指示を出した。
二人が頷いたところで、一切の足音も響かせずに素早い動きで森の奥に向かう。フランツが何かの気配を感じ取った場所までは、数百メートルだ。
その距離を気配を殺しながら慎重に近づき……人影らしきものが見えた瞬間、フランツは剣を抜いて声を張った。怪しい人物に逃げられないよう、後方を土壁で塞ぐのも忘れない。
「こんなところで何をしている!」
フランツのその言葉にビクッと体を揺らしたのは――
十歳程度に見える、気弱そうな少年だった。フードを深く被っているためハッキリとは見えないが、瞳からは涙が溢れそうになっているのが分かる。
(なぜこんなところに子供がいるのだ……? もしや、この子は行方不明になっている村の子供か?)
「剣を向けて申し訳ない。誘拐犯から逃げてきたのか? 君の名前を教えてほしい」
「ひっ……っ、……」
フランツが剣を鞘に収めてから笑顔で一歩を踏み出すが、少年は引き攣った声を上げると後退った。フランツのことを明らかに怖がっているようだ。
「私は君を害する者ではない。犯人たちの居場所を……」
そこまで告げたところで、フランツの瞳に少年の手の中にあるものが映る。
それは、瓶の中に入った蜂蜜だった。さらにその蜂蜜の中には、小さな果物が漬けられている。
(蜂蜜はこの子が持っていたのか? しかし村で蜂蜜は食べないと……それに犯人に奪われていないのもおかしい)
得た情報をどう整理したら良いか分からずフランツが悩んでいると、ざぁぁっと木々が大きく揺れるような風が吹いた。
それによって少年のフードが脱げ、フランツの目に映ったのは――
茶色い毛で覆われた、二つの丸い耳だった。その耳は人間のように頭の横ではなく、頭上に付いている。
(まさかこの少年……獣人か!?)
「あっ……や、フ……っ、」
獣人らしき耳をした少年はフードが脱げてしまったことで激しく狼狽えると、手に持っていた瓶を地面に落としてしまいながら、必死にフードをギュッと掴む。
地面に落ちた瓶からは蓋が外れ、中身が少しずつ流れ出ているようだ。
「あっ、蜂蜜が……」
少年は今度、瓶から流れ出る蜂蜜を泣きそうな表情で見つめた。そして色々なことが一気に起きて処理しきれなかったのか、その場に蹲ってしまう。
そんな少年の様子を見て危険はないと判断したフランツは、まずは落ちた瓶を拾い上げた。幸い中身はまだほとんど溢れていなかったので、蓋をして少年に差し出す。
「まだ問題なく食べられるだろう」
「あ、ありがとう、ございます……」
フランツの行動が予想外だったのか、少年は瞳を見開きながらフランツを見上げた。
しかし次にフランツが告げた言葉に、表情を固くする。
「君は、村の子供たちの失踪に関わっているのか?」
しばらく固まり、蜂蜜の入った瓶をギュッと握りしめていた少年は――しばらくして泣きながら頭を下げた。
「……ごめんなさいっ、ご、ごめんなさい! 本当に、ごめんなさいっ」
何度も何度も謝る少年に、フランツは真剣な表情で手を伸ばした。
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