第24話 魔物の討伐と村の噂
フランツが告げた予想外すぎる言葉に、マリーアは首を傾げた。
「蜂蜜? 何でこんなところに……村では蜂蜜が食べられてたりするの?」
後ろにいたダミアンを振り返りながらマリーアが問いかけると、ダミアンはすぐ首を横に振る。
「蜂蜜は高級品ですし、村では食べないです。たまに街から買ってくることはあるかもしれませんが……かなり稀な話だと思います」
「ということは、これは村人によるものではない可能性が高いな」
そう結論づけて真剣な表情で考え込むフランツに、マリーアは首を傾げた。
「これって重要な証拠なの?」
「ああ、犯人に繋がるものだと思う」
「蜂蜜が? 確かにここにあるのはかなり不自然だけど」
(犯人による証拠だとすると、子供たちを油断させるために甘いもので釣ったのだろうか。しかし見知らぬ大人に甘いもので釣られるほど、子供の警戒心は低くないと思うのだが……)
フランツが蜂蜜という予想外な痕跡に頭を悩ませていると、ガサゴソッと葉擦れの音が聞こえてきた。
「皆、魔物が来る」
その言葉で一気に緊張感が場を包み込み、耳を澄ませた他三人にも音が聞こえたようだ。
「本当ね。ダミアン、レオナさん、二人は下がってて」
マリーアのその言葉に二人はすぐに下がり、レオナはさりげなくダミアンを守れる位置に立った。
「マリーア、援護を頼む」
「分かったわ」
フランツとマリーアはいつも通りに武器を構え、魔物の襲撃に備えた。じっと魔物が顔を出すのを待っていると、少しして木々の間から巨大なツノが視界に映る。
「ホワイトディアだな」
ツノの形だけで魔物の種類を判断したフランツに、マリーアは呆れた表情で呟いた。
「いつものことながら、あんたの知識は凄いわね」
「ホワイトディアのツノは、色と形が特徴的だからな」
ホワイトディアとはツノも含めた全身が真っ白である鹿型の魔物で、強さはベテラン冒険者なら危なげなく倒せる程度だ。
毛皮はその綺麗さから高値で取引され、ツノも装飾品として使われることが多い。
攻撃の種類は突進してきてツノを振り回すことによる打撃と、風魔法のみだ。
「私が倒しても良いか?」
「別にいいわよ」
マリーアが答えた瞬間、フランツは剣を抜く。そして軽い足取りでホワイトディアに近づいていくと……ツノの間合に入る直前で、軽く地面を蹴った。
すれ違いざまの一閃。フランツの剣は、ホワイトディアの首を容易く切り落とす。剣筋は誰にも見えないほどに早く、断面はまるで柔らかい果実を切ったときのように綺麗だった。
「弱い魔物で良かったな」
振り返って笑みを浮かべたフランツに、ダミアンは驚愕に瞳を見開き、レオナは感心し何かに納得している様子で頷いている。
「こ、こんなに強い冒険者が、いるのですね……」
「やはり素晴らしい実力です」
意味は違えど二人共がフランツを凝視している現状に、マリーアはため息を吐き出しながら口を開いた。
「フランツは冒険者の中で特殊中の特殊よ。そしてフランツ、ホワイトディアはあんたにとって弱い魔物なの。そこを間違えないように」
その指摘にフランツが頷いたところで、マリーアは地面にどさっと倒れ込んだホワイトディアの下に向かう。
「これ、このまま村に持ち帰るの?」
「そうだな……ホワイトディアの肉は癖がなく美味いし、村で配れば良いだろう」
何気なく告げたフランツの言葉に、ダミアンが反応した。
「いいのですか?」
「ああ、私たちだけでは腐らせてしまうからな」
「解体は村でやってもいいかしら?」
「もちろん構いません」
そうしてホワイトディアをこのまま持ち帰ることが決定したところで、フランツたちは今日のところは村へと帰還することに決めた。
村に戻ったフランツたちは、村長宅でホワイトディアを含めた豪華な料理に舌鼓を打っている。この村には宿がないということで、しばらく村長宅に宿泊することになったのだ。
「何か分かったことはあるのか?」
食事があらかた済んだところで、クルトが我慢できないと言うようにフランツに問いかけた。
「一応少しの痕跡は見つけたが、まだ犯人を絞り込めるほどの情報はないな。……そうだ、何か知っていることはないか? 例えば攫われた子供のちょっとした共通点やそれぞれの好きなものなど、一見は役立たなそうな情報でも構わない」
少しでも情報を増やしたいと、フランツが食卓につく皆に視線を向けながら問いかけると、村長であるアーデルが眉間に皺を寄せながら口を開いた。
「この村の村長である私としては受け入れ難いのですが、実は村人で一人、犯人じゃないかと噂されている男がいます」
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