第17話 参考にならない魔物の倒し方講座

 アルフとベンに参考にならないと断じられてしまったフランツは、不思議そうに首を傾げた。


「分かりやすい倒し方を選んだのだが」

「いや、分かりやすいとかそんな問題じゃねぇ! 何が起こったのかすら分かってないぞ!?」

「何者なんだよ!」

「私か? 私はDランク冒険者のフランツだ」


 爽やかな笑顔で嬉しさを滲ませながらそう告げたフランツに、アルフとベンはまた叫ぶ。


「ブラックイーグル三匹を一瞬で倒せるやつが、Dランクな訳あるか!」

「何でDランク……というか冒険者なんだよ!」

「それは冒険者が素晴らしい職業だからに決まっているだろう?」


 瞳を輝かせたフランツから返ってきた的外れすぎる答えに、アルフとベンは荒い息を吐きながら、疲れた表情で少年二人に真剣な表情を向けた。


「お前ら、フランツさんは特殊だから全く参考にならない。ブラックイーグルはもっと脅威だから、間違えても自分でも倒せるなんて思うなよ」

「普通にお前たちよりも強い冒険者が何人かいたって、死ぬこともある魔物なんだからな」


 二人の真剣な表情に、少年たちはごくりと喉を鳴らして頷いた。


「わ、分かったぜ」

「挑むのは、もっと鍛錬してからにするよ」

「ああ、それがいい」


 四人がそんな話をしていると、何やら考え込んでいたフランツがハッと顔を上げて笑顔で言った。


「分かった。後輩に戦い方を教えるのであれば、やはり説明をしながらでなければいけないな。ただ倒しただけでは学ぶのも難しいか」


 参考にならないと断じられた理由を自己完結させたフランツは、やる気を漲らせてなぜかアーモンドフルーツの方へ向かう。


 そして一つだけ採取をすると、高級果実であるアーモンドフルーツにその場でナイフを入れた。それによって中の果肉が現れ、周囲には芳醇な香りが広がる。


「なっ……っ、何してるんだ!」

「それ一つでいくらになると……!」

「こうしてブラックイーグルを呼び寄せるんだ。この香りに釣られてすぐに来るだろう。それまでは皆でアーモンドフルーツを楽しむとしよう」


 アルフとベンはフランツの信じられない行動の連続に気が遠くなってきたのか、額に手を当てて眉間に深い皺を刻んだ。


 しかしそんな二人の異変には気づかず、フランツは笑顔で皆にアーモンドフルーツを配る。


 エルマーは食べ慣れているので躊躇いなく口に運び、マリーアは興味深そうにアーモンドフルーツを観察してから口に運んだ。

 少年たちはブラックイーグルが襲ってくるかもしれない恐怖よりも、高級果実が食べられることに意識が向いているのか、瞳を輝かせている。


 アルフとベンは……アーモンドフルーツを味わうどころではないようで、顔色を悪くして周囲にキョロキョロと視線を向けていた。


「ん、本当に美味しいのね」

「そうだろう? 味に深みがあるとは思わないか」

「美味いな!」

「すっごく美味しい……!」


 皆がそんな話をしてアーモンドフルーツを味わっていると、香りを察知したのだろうブラックイーグルが一匹、二匹と集まってくる。


 その数は、すぐに十匹ほどになった。


 そこでフランツは少年二人に見ておくようにと笑みを浮かべ、まずは剣を抜いた。


「最初は剣で倒す方法を実践するが、剣では上空を飛ぶブラックイーグルにどうしても届かない。そこでこのようにして……」


 フランツはいくつかの木の枝や幹を上手く足場にすると、重力がないのかと錯覚するほどに軽々と上に駆け上がった。そしてブラックイーグル目掛けて木の幹を蹴り、剣でブラックイーグルを真っ二つにする。


 空中でくるっと体を前方に一回転させ、一度近くの木の幹を蹴って落下の速度を抑えてから、地面にほぼ音もなく着地した。


「木の幹や枝を上手く使うと、上空にいる魔物も剣で倒せる」

「……どんな超人だよ!」


 アルフがなんとか突っ込んだが、その言葉を言われ慣れているフランツは「ありがとう」と笑みを浮かべるだけだ。


「次は魔法だが、魔法の場合は何も難しいことはない。頭に狙いを定めて魔法を放つだけだ。あとは……そうだな、何も武器がなかった時には、このような落ちている石を使うと良い」


 そう言って近くにあった拳大の石を拾い上げると、上空でフランツを警戒しているブラックイーグルに対して投げつけた。


 すると目にも留まらぬ速さで石は飛んでいき、石弾同様頭に当たってブラックイーグルは落ちる。


「こんな感じだ」


 そこでフランツが言葉を切ると、上空にいる数匹のブラックイーグルが、甲高い特徴的な鳴き声を上げた。するとその直後、フランツの体が真っ黒な霧に包まれる。


「おっ、やっと来たか。これはブラックイーグルが使う闇魔法で、ブラインドというものだ。これを掛けられたら十秒ほど視力は全く当てにならない。そこで頼りになるのは聴力や敵の気配だ」


 ブラインドによって視界が奪われたフランツに、数匹のブラックイーグルは一斉にその鋭い鉤爪を光らせて急降下した。


 誰もがフランツの生存に絶望を感じる光景だが……視えているのと全く変わらない様子でフランツは剣を振り、襲ってきたブラックイーグルの急所を、的確に剣で切り付けていく。


 そうして黒い霧が晴れた時には、もう飛んでいるブラックイーグルはいなかった。


「このような感じだな。参考になっただろうか」


 今度こそと期待の眼差しで皆を振り返るフランツに……アルフとベンは、今日で一番の大声で叫んだ。


「だから……凄すぎて参考にならねぇんだよ!!」



 そんなやり取りを呆れた表情で見ていたマリーアは、小声でエルマーに問いかけた。


「あんなので騎士団長なんてできるの?」

「うーん、多分問題ないんじゃないかな。騎士団にいるのって優秀な人材の上澄みだから。帝立学園でもあんな感じのフランツの説明で、結構皆が納得してたよ」


 エルマーのその言葉に、マリーアは遠い目をした。


「そうなのね……」

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