第16話 アーモンドフルーツと魔物襲来

 冒険者二人組改めアルフとベンが受けていた依頼は、アーモンドフルーツと呼ばれる希少な果実の採取依頼だった。


 両腕で抱えるような大きさのアーモンド型の皮の中に、プリンやゼリーのようなプルプルとした果肉がたくさん詰まっている果物だ。

 その果肉は貴族に大人気で滋養強壮にも良いとあって、いつでも高値で取引されている。さらに外皮も薬効が強く調薬に役立つということで、薬師などに人気だ。


「アーモンドフルーツなんて聞いたことないわね。ここでしか取れないの?」


 マリーアの疑問には、エルマーが答えた。


「生育条件がかなり厳しいけど、一応他の場所でも取れるよ。でもこの森で取れるのは特に美味しいって言われてて、より高値で取引されるんだ」

「そうなのね。二人は食べたことある?」

「ああ、あれは確かに美味しい。プリンをより爽やかに甘く、そして芳醇にしたような感じといえば伝わるか?」


 フランツの説明にマリーアと、さらにはアルフとベン、少年二人も首を傾げた。


「そもそも俺ら、プリンも食べたことねぇな」

「いや、俺は一度だけあるぜ」

「え、兄ちゃんあるのか!」

「食べてみたいなぁ」


 冒険者になるような生まれが貧しい平民は、甘いものが口に入ることはほとんどない。


「冒険者として日々努力を積み上げていけば、そのうち好きなだけ食べられるようになるだろう。依頼先の村で特産品を供されることもあるはずだ」

「おおっ、そうなのか!」

「楽しみだね!」


 フランツの冒険小説ではよくある展開の話に、少年たちはこれでもかと瞳を輝かせた。アルフとベンもそんな未来をつかみ取れるかもしれないと、僅かな期待を抱いている様子だ。


「それで、そのアーモンドフルーツはどの辺で採れるのよ」


 フランツとその取り巻きのようになっている四人に呆れた視線を向けながらマリーアが口を開くと、病気の母親を持つアルフが依頼票を思い出しながら言った。


「森に入って三十分ほど奥に進んだ辺りで、日当たりが良く水辺が近くにあるところらしい」

「じゃあ、もうこの辺じゃないの?」

「そうだな。水辺となると……エルマー、こっちで合っているか?」

「正解! さすがフランツだね。方向感覚と記憶力には感心するよ」


 それからはフランツとエルマーが先導する形で一行は森の中を進み、アーモンドフルーツを発見した――と同時に、フランツは表情を真剣なものに変えて上空を睨んだ。


「アーモンドフルーツの香りに釣られてきた魔物がいるな」

「そうだね。ブラックイーグルだ」


 エルマーが発した魔物の名と、アーモンドフルーツの周りを飛び回る三匹のブラックイーグルに、アルフとベンは顔色をさぁっと悪くする。


 このブラックイーグルがアーモンドフルーツの周りによくいることで、比較的低ランクでも受けられて報酬が高めなアーモンドフルーツの採取依頼は、誰にも受けられずに放置されていることが多いのだ。


 それほどにブラックイーグルは、厄介で脅威と認識されている。


「アルフ、ベン、この場合はどうするのだ?」


 二人が恐怖に顔を引き攣らせていたところに、フランツがそう問いかけた。


「どう、ってのは……」

「我々が倒してしまってはダメだろう?」

「そ、そうだな。ただブラックイーグルのように強い魔物が出た場合は、子供たちには見学させて戦うところを見せるってのもありだと思う。と、というか、その方がいい、絶対にそっちだ。安全を第一に確保しないとだからな」


 アルフがフランツたちに倒してもらいたい一心でそう告げると、フランツは「ふむ」と納得したように頷いた。


「それもそうだな。ではその役目、私がしても良いか?」

「もちろんだ!」


 待ってましたとばかりに、アルフとベンは食い気味で頷く。


「お、俺たちも、フランツさんから学ばせてもらおう」

「そ、そうだな、たまには学ぶことも大切だ」


 現状のアルフとベンの実力ではブラックイーグルなど到底敵わないので、二人は冷や汗をかきながら後退った。


 しかし自らが連れて来た少年二人に対しての義務は果たそうとしているのか、二人のすぐ近くで剣を構える。


 そんなアルフとベンの様子に、フランツはさすが素晴らしい冒険者だと感動しながら、自分も少年たちのために活躍しようと一歩前に出た。


「ではいくぞ」


 いっさい緊張や気負った様子はなく、徐にブラックイーグルに視線を向けたフランツは――広げた右手を前に突き出した。


 フランツがしたのは、それだけだ。


 しかしその少しの動きにより、人の目では目視不可能なほどの速さで土魔法の石弾が三弾、それぞれのブラックイーグルに飛んでいき、三弾全てがブラックイーグルの頭を撃ち抜いた。


 ブラックイーグルは己が狙われていたことすら気づかないうちに、命を刈り取られることになる。


 そんな信じられない光景を目の当たりにしたアルフとベンは、間抜けなほどに口を大きく開けて、地面に落ちたブラックイーグルを凝視した。


「どうだろう。参考になったか?」


 フランツが楽しげな笑みを浮かべながら皆を振り返ったところで、アルフとベンは同時に叫んだ。


「す、凄すぎて参考にならねぇよ!!」

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