第15話 勘違いが真実へ

 フランツに的外れな賞賛を受けた冒険者二人組は、少しの間だけ言葉の意味を飲み込めずに固まっていたが、すぐにヘラヘラとした笑みを浮かべて何度も首を縦に振った。


「そ、そうなんだ。こいつらに経験をと思ってな」

「やっぱり子供は死ぬ確率も高いし、俺たち先輩がな、導いてやらねぇとな」


 冒険者二人組のそんな言葉を聞き、フランツは少年二人に視線を向けた。


「君たちも良かったな。良き先輩がいて」

「うん! 兄ちゃんたちが一緒に来たら報酬を半分も分けてくれるって、連れてきてくれたんだ」

「兄ちゃんたち、さっき強い魔物を倒してくれたんだぜ!」


 少年たちの言う強い魔物とは、ほとんど戦闘経験もない少年たちにとっての強い魔物であり、大人であればまず遅れをとることはない程度の常緑の森では下位に位置する存在だ。


 しかし少年たちは冒険者二人組に尊敬と憧れの眼差しを向け――そんな視線にさらされた冒険者二人組は、罪悪感に胸を痛めた。


(やっぱり囮にするのはさすがに可哀想だったか……でも森の奥にある果実採取の依頼は、俺たちだけじゃ危険すぎる。母ちゃんの病気を治すためにも――)

(こんなに純粋なやつらを騙してたのか……)


 まだこれが初犯であり、良心が残っている冒険者二人組が内心でそんなことを考えているうちに、フランツは少年たちに対して瞳を輝かせながら冒険者の素晴らしさを語っていた。


「君たちも冒険者なのか?」

「まだだけど、これから登録するんだ!」

「俺はSランク冒険者になるんだぜ!」


 まだ冒険者の実情を知らない子供たちは、巷に聞くほんの一握りの凄腕冒険者の話題や、フランツが読んだような冒険小説の登場人物を思い浮かべ、頬を上気させた。


 そんな子供たちと、フランツも同じような表情を浮かべている。


 フランツは冒険者に対する認識においてのみ、この年頃の夢見がちな子供と同程度だ。


「おおっ、良い夢だ。冒険者とは本当に素晴らしい職業だぞ。仲間思いで皆を守ろうという気概に溢れている。君たちの先輩冒険者二人も素晴らしいだろう?」


 そう言ってフランツは、冒険者二人組に視線を戻した。


「ああ、めっちゃ優しかったぜ! 昨日なんて肉を奢ってくれたんだ!」


 最後の晩餐かもしれないと思い、自らの罪悪感を減らすために奢っただけだ。


「この武器もくれたんだよ!」


 壊れかけのもので、武器を所持させておけば周囲に囮ということがバレないだろうという判断からだ。


「そうなのか! そんなにも後輩思いだったとは……私の想像以上でした。感服いたします」


 フランツに丁寧に頭を下げられ、子どもたちに純粋な尊敬の眼差しを向けられ、冒険者の素晴らしさを語り聞かされた冒険者二人組は――。


 心の中で泣いていた。


(お、俺は、なんてことをしようとしてたんだ……)

(他の冒険者たちに流され、道を踏み外すところだった)

(そういえば俺も、子供の頃は冒険者への憧れを持ってたっけ……母ちゃんも子供を犠牲にして助かったって、喜ぶわけねぇ。なんで俺はそんなことにも気づかなかったんだ!)

(俺たちでも、子供に尊敬される冒険者になれんのかな)


 悪党になりかけた冒険者二人組だが、存外単純である。


「そうだ、私も子供たちが経験を積む手助けをしても良いだろうか」


 フランツが瞳を輝かせながら冒険者二人組に問いかけると、二人は感動の眼差しでフランツの手を取った。


「ぜひお願いします……」

「あなたは俺たちの救世主だ……」

「ん? どういうことだ?」


 冒険者二人組の言葉にフランツが首を傾げた瞬間、さっきまで後悔に苛まれ、運命的なフランツとの出会いに感動していた二人が、剣を振り上げて少年たちに告げた。


「よしっ、お前ら、もっと森を進んでいくぞ!」

「俺たちが助けてやるからな!」


 急にやる気満々な二人である。


(今回はこのなんか強そうな人が一緒に来てくれるらしいから、大丈夫だろう。でもこれからは、もっと俺たちが強くならなきゃダメだな)

(明日からは真剣に鍛錬するかぁ)

(母ちゃんの治療代だって、実力で稼いでやる!)


 フランツの憧れによる勘違いが、現実となった瞬間だ。


「そういえば、どのような依頼を受けているのだ?」


 フランツがわくわくとした表情を隠せないまま問いかけ、四人とフランツが森の奥に向かって足を進める中――完全に取り残されていたマリーアとエルマーは顔を見合わせ、フランツたちには聞こえない小声で会話をした。


「今、何が起こったの?」

「そうだねぇ〜、フランツに影響されて悪人がいい冒険者になったかな」


 エルマーはそう言いつつ、苦笑を浮かべている。


「し、信じられないわ……元々の目的は絶対に違ったわよね?」

「マリーアが考えたのが正解だと思うよ。信じられないのも分かる。でも実は僕……こんな光景は何度も見てるんだよね。フランツを蹴落とそうとしてたクラスメイトがいつの間にか良いライバルになってたりさ。フランツには言語化できない、そういう力があるんだよ」


 そう言われるとマリーアはなんだか納得できたのか、呆れたようないつもの表情で少し先を行くフランツを見つめた。


「確かにそういうところがあっても、不思議じゃないかもしれないわね」

「周りをいい方向に巻き込む力があるよね〜。とりあえず僕たちも行こうか。本当に心変わりしたのか今だけの演技なのかも確かめたいし」

「そうね」


 それからは先を行くフランツたちにマリーアとエルマーも追いつき、七人の大所帯で冒険者二人組が受けていた依頼を達成するため、森の奥に向かった。





〜あとがき〜

いつも読んでくださっている皆様、ありがとうございます!

こちらの作品タイトルを変更しまして、新タイトルは「最強騎士の勘違いは世界を救う」です。


内容は変わらず、明日からも毎日投稿していきますので、続けて楽しんでいただけたらと思います。


また面白いと思ってくださいましたら、ぜひページ下部にある☆☆☆評価をしていただけたら嬉しいです!

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