第13話 エルマーと調査同行

 ハイゼ子爵邸を出たフランツたち三人は、宿を探して大通りを歩いていた。


「フランツ、そろそろわたしのことを紹介してくれてもいいんじゃない?」


 マリーアが告げた言葉に、エルマーも同意するように頷く。


「そうだよ、僕のことも紹介して!」


 二人の言葉に頷いたフランツは、まずはマリーアのことを手のひらで示した。


「エルマー、こちらはマリーアだ。私と共に冒険者として活動してくれている。とても優秀な風魔法使いだ」

「マリーアよ。よろしくね」

「そしてマリーア、こちらはエルマーだ。エルマーは私の帝立学園時代の同級生で、クラスメイトだった。現在は帝立植物研究所で副所長をしている」

「エルマーです。よろしくね〜!」


 マリーアの手を両手で握ってぶんぶん上下に振るエルマーに、マリーアは苦笑を浮かべる。


「帝立学園生って、もっと堅苦しい人が多いのかと思ってたわ」


 帝立学園は帝国一の名門校で国中の天才が集まると言われているため、縁がない一般人は堅苦しい印象を持っていることが多い。


 しかしフランツやエルマーを見れば分かるように、個性的な生徒が多いのが事実だ。

 もちろん真面目で帝立学園に入学するため、入学試験科目以外の全てを削ってきた者もいるが、そういう者はフランツたちのようないわゆる本物の天才とは相容れず、同じ学園内にいても距離があったりする。


 ちなみに入学に身分は関係なく、純粋な学力と実技の才能のみで可否が判断されるため、平民でも入学可能だ。反対に貴族でも基準を満たさなければ、問答無用で落とされることになる。


「そんなこと全然ないよ〜。特に僕やフランツの周りにいた人は面白かったかな」

「そうなのね。……そういえば、あなたも貴族なの? 言葉遣いを改めた方がいい?」


 その問いかけにエルマーは首を横に振ると、楽しげに両手を広げた。


「確かに貴族の生まれだけど、気にしなくていいよ〜。友達の友達は、僕の友達でしょ?」

「そうなの……かしら。まあ、とにかく気にしなくていいならありがたいわ」

 

 そうして二人が友好を深めたところで、フランツがエルマーに問いかけた。


「エルマーはまだ常緑の森の調査を続けるのか?」

「そうだね。あと一ヶ月はここにいるかな」

「他の研究員はいないの? まさか一人で調査をしてるなんてことはないわよね」


 ずっと気になっていたのか、マリーアがエルマーの顔を覗き込むようにして問いかけると、エルマーは笑顔で首を横に振った。


「今回調査に来たのは僕だけだよ〜」


 その言葉に、マリーアは瞳を見開く。


「さ、さすがに危ないわよ!?」


 エルマーの全身に視線を巡らせながら、どう見ても強そうには見えないしと思ってる表情で眉間に皺を寄せるマリーアに、フランツが笑い声を上げた。


「ははっ、エルマーは学園を卒業しても一向に大きくならないから仕方ないな。マリーア、こう見えてエルマーはかなり強いから問題ない。弓とナイフの扱いは私以上だ」

「危険な魔物が来ても逃げ切れるし、基本的には倒せるから大丈夫! それに研究者に危険はつきものだからね〜」


 そう言って笑うエルマーに、マリーアは疲れたようなため息を吐いた。


「何だかあなたって、フランツと似た空気を感じるわ」

「え、そうかな? それは嬉しいね! でも僕はフランツほど最強じゃないから、ちゃんと危険なところに入る時は騎士団に助力を願おうと……」


 そこで言葉を止めたエルマーは、良いことを思いついたというように表情を明るくしてフランツを見上げた。


「そうだ! ちょうどいいから、ちょっと調査に同行してくれない? 常緑の森の人の手が入ってない奥に行くには、さすがに僕だけじゃ危ないかなって思ってたんだ」

「そうなのか。もちろん構わない」

「ありがとう! マリーアもいい?」

「別にいいわ。その調査っていうのにも興味があるし」


 そうして三人は共に常緑の森へと調査に向かうことを決め、この日は宿を取って早めに休んだ。



 次の日の早朝。見知らぬ場所への調査に瞳を輝かせるエルマーと、久しぶりの調査に楽しげな笑みを浮かべるフランツと、まだ眠そうなマリーアがいた。


 マリーアは夜は得意なのだが、朝早いのは苦手だ。


「ふわぁ、あんたたち元気ね……」

「当たり前だよ! 常緑の森の奥に行けるなんて、楽しみだなぁ」

「私も学園生の時以来の調査同行が楽しみだ」

「帝立学園時代には、よく二人で森に行ったりしたよね〜」


 子供が遠足に向かうような足取りで街の外を目指す二人に続いて、マリーアも目を覚ますように伸びをしながら続いていく。


「そうだエルマー、昨日はしっかりと言わなかったが、私には冒険者フランツとして接してくれ」

「りょーかい! 身分がバレないようにしてるんだもんね」

「ああ、その方が冒険者生活を楽しめるからな!」

「好きなものは楽しむのが一番だよ〜。僕も研究と調査を思いっきり楽しんでるからね! そういえば、マリーアの好きなものって何なの?」


 雑談の一つとして何気なく問いかけられた質問に、マリーアはすぐに答えられずに悩む。頭の中でぐるぐると考えている様子で、しばらくして口を開いた。


「――やっぱり風魔法ね」

「そういえば、風魔法使いなんだっけ。じゃあ森で魔法を見るのを楽しみにしてるね」

「ええ、護衛は任せなさい」

「頼もしいよ! ……そうだ、マリーアってフランツの婚約者なの?」


 エルマーが突然発した爆弾発言に、マリーアはちょうどあった小さな段差に足を思いっきり引っ掛けて転びかけた。それをフランツがひょいっと抱き上げる形で助ける。


「おおっ、息ぴったり。やっぱり婚約……」

「違うわよ!!」


 少しだけ頬を赤くしたマリーアの叫びが、早朝の街に響き渡った。

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