第6話 ギルドに報告と荒れ果てた孤児院
ギルド内は昼少し前の時間とあって、あまり人がいなく穏やかな空気が漂っていた。そんな中でフランツがギルドカードを提示しながら受付に声をかける。
「Fランク冒険者のフランツだ。帝都近くの森の中にゴブリンの巣を発見した」
その報告を聞いた受付嬢は、一気に表情を真剣なものに変える。ギルド内の空気もピリッと引き締まった。
「……ご無事で良かったです。どの程度の規模でしょうか。もし分かれば教えていただきたいです」
「そうだな……規模は巣の外に百匹強、それから巣の中には三百匹ほどだな」
全部で四百匹、これはゴブリンの巣の中でもかなり成長している段階なので、ギルド内にいてこの会話が聞こえていた皆の表情が強張った。
食堂で早めの昼食を取っていた冒険者が数人、同時に立ち上がる。
「それは今すぐ叩かないとやばいな。ゴブリンの団体に街が襲われたら大変だ」
「森にいる低ランク冒険者も危ないんじゃないか?」
「俺たちが偵察に行こうか?」
ちょうどギルドにいた冒険者は珍しく善良な者たちで、受付嬢に向けてそんな提案をした。
「ありがとうございます。では依頼として……」
受付嬢がありがたい提案を受けようと頷いた瞬間、フランツが瞳を輝かせて立ち上がった冒険者に視線を向けた。
「やはり冒険者は素晴らしいな……! 危険が迫っていると分かるとすぐに立ち向かう勇気、そして皆を守りたいという気概。尊敬に値する」
フランツからの突然の賞賛に、いつもは偽善だの効率が悪いだのと罵られていた冒険者たちは、嬉しそうに頬を緩めた。
しかしすぐ我に返り、現状の危機を思い出す。
「そんな話をしてる場合じゃないだろう。早く対処をしなければ。ゴブリンの巣の場所はどこだ?」
「いや、対処は必要ない。私たちがすでに壊滅させてきたからな」
重要でない、どうでもいい事柄を告げるようにフランツはそう伝えると、またしても冒険者たちに尊敬の眼差しを向けた。
「そんなことよりも、君たちの冒険者としての心得を聞かせて……」
「いや、ちょっと待て! もう壊滅させたって言ったか!?」
もう一度問いかけられ、フランツはすぐに頷く。
「ああ、そうだ。だからギルドにはゴブリンの巣の調査と、今後の対策などを頼みたいと思って報告にきた。頼んでも良いだろうか?」
受付嬢はそう問いかけられて、信じられない面持ちを浮かべながらも頷いた。
「そ、それはもちろん、ギルドの仕事の内ですので……しかし四百匹ものゴブリンを壊滅させたというのは本当なのですか? Fランクというのは……」
受付嬢の困惑の問いかけに冒険者たちも同意するように何度も頷いていると、今まで静観を貫いていたマリーアが口を開いた。
「フランツはちょっと規格外というか、普通じゃないのよ。昨日登録したばかりってだけで実力はあるから、ランクアップさせた方がいいわよ」
マリーアのその言葉に、今度はフランツが瞳を見開いた。
「マリーア、それでは努力の積み重ねでランクを上がった時の達成感が……」
「そんなのあんたの強さで得られるわけないわ。それはAランクにでも上がる時に感じればいいじゃない」
「いや、冒険者は低ランクから叩き上げていくことにより自己の研鑽と……」
「はいはい、それはまた後で聞いてあげるわ。それで、さすがにまだランクアップはできないの?」
そう問いかけられた受付嬢は、少しだけ悩んでから口を開いた。
「先ほど仰られた規模のゴブリンの巣を壊滅されたことが証明されれば、問題なくランクアップになるかと思います。しかし調査を終えるまで、数日はお待ちいただくことになるかと」
「分かったわ。じゃあ調査が終わったらよろしくね。あっ、あと薬草採取の依頼も達成したから手続きを」
「かしこまりました」
そうしてマリーアの手配によってフランツのランクアップがほぼ確定となり、二人はギルドを後にした。
次の依頼現場である孤児院に向かっている二人は大通りを歩いているが、フランツはすぐにランクアップしてしまうのが納得できず、少し落ち込んでいた。
「もう、普通はランクアップなんて大喜びするのよ?」
「……分かっている。ただこんなにすぐランクアップしてしまっては、もったいないと思わないか?」
「そんなことないわよ。受けられる依頼が増えて嬉しいじゃない」
それからもぐちぐちと不満を漏らすフランツに、マリーアは面倒になったのかぐるんっと勢いよくフランツを振り返った。
「あぁっ、もう! あんた面倒くさい! 早く切り替えてシャキッとしなさい!」
――イケメンで規格外なほど強いのに、なんかズレてるし意外と面倒な性格よね。
そう呟くマリーアの表情は呆れが滲みながらも、どこか楽しげに緩んでいた。
「ほら、早く行くわよ。冒険者は絶対に街中の雑用からなんでしょ?」
「……そうだったな。よしっ、では切り替えて依頼をしっかりとこなそう」
それから復活したフランツとマリーアが目的の孤児院に向かうと、その孤児院はどこか寂れた雰囲気だった。建物がボロくて薄汚れ、活気もない。子供達の声も聞こえてこなかった。
「……随分とボロい孤児院ね。お金がないのかしら」
マリーアがそう言って眉間に皺を寄せる中、フランツは鋭い瞳で孤児院の細部にまで目を光らせる。
(この孤児院……明らかにおかしいな)
「ここが入り口みたい」
古い木造の扉をノックすると、マリーアの顔に埃や細かい木片が降り注いだ。
「うわっ……ごほごほっ、何よこれ」
扉の上部に壁との隙間があり、そこに汚れが溜まっていたようだ。
「なんでこんなに埃が溜まってるのよ!」
「正面扉はあまり使われてないのかもしれないな」
「え、ここを使わないってどういう……」
マリーアがフランツの呟きに首を傾げたその時、正面扉が開くのではなく、庭の方から一人の男が顔を出した。綺麗な格好をして少し太った中年の男は……二人に鋭い視線を向けていた。
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