第4話 初依頼はやっぱり薬草採取

 宿で朝食を済ませて冒険者ギルドに向かった二人は、フランツが受けられるFランクとEランクの依頼が貼られている場所に向かった。


「そういえば、マリーアは何ランクなのだ?」

「わたしはCよ。でもC以上の依頼はフランツが受けられないから、とりあえず今は候補外ね」

「そうか……では、まずはこれだな」


 フランツが瞳を輝かせながら手にした依頼票は、ある薬屋から出されている薬草採取依頼だ。


「なんでそれなのよ。昨日の動きを見た限り、あんた強いでしょ? Eランク依頼の魔物討伐でいいじゃない」

「いや、冒険者はまず薬草採取からと決まっているんだ。それからこれも」


 次に手に取ったのは街中の雑用依頼だ。孤児院の窓拭き掃除という、かなり地味で報酬も微々たるものな依頼を見て、マリーアはあからさまに顔を顰めた。


「その依頼、街の外に出るのが危ない子供がやるやつよ? このビッグラビット討伐の方が……」

「いや、初日だけは譲れない! 冒険者が必ず歩む道だからな」


 それは冒険者が必ず歩む道ではなく、フランツが読んできた冒険小説の主人公が必ず最初に歩んでいた道なのだが、フランツは譲らない。


「あんたって、頑固なのね……まあいいわ。じゃあその二つね」


 押し問答をしても意味がなさそうだと判断したマリーアは、フランツが選んだ依頼の二つを手に取った。


「マリーアありがとう!」

「はいはい、じゃあ受付行くわよ」


 

 それから無事に依頼を受注した二人は、帝都の外にやってきていた。


「今回受注した依頼はヒール草の採取だから、行き先は草原ね」

「森に近い草原の方が群生している可能性が高いから、そちらへ行こう」

「よく知ってるのね」


 フランツの知識に、マリーアは意外そうに顔を上げた。冒険者の間では常識だが、昨日登録したばかりのフランツが知っていることに驚いたのだろう。


「魔物や植物に関する知識は、国内のものなら全て網羅している」


 少々残念な部分もあるフランツだが、天才なことは確かなのだ。帝立学園で習うようなことや、騎士としての職務に必要なことに関する知識は完璧に備えている。


「へぇ〜じゃあ色々教えてもらおうかしら」

「もちろん教えよう。マリーアは私の仲間だからな」


 爽やかな笑顔でそう言ったフランツに、マリーアはじっとフランツの顔を見つめてから呟いた。


「あんた、やっぱり顔がいいわね」

「ふむ、よく言われるな」

「そこは謙遜しなさいよ〜。まあでも、あんたぐらいになると謙遜する方が嫌味ね」


 そう納得して先に進んでいくマリーアに、フランツは不思議そうに首を傾げた。


「そういえばマリーアは最初の時にも顔が良いと言っていたが、それにしては他の女性たちと反応が違うな。私の美醜など気にしてないようだが」

「そんなことないわよ。常に見るものは綺麗な方がいいでしょ? でもそうね、わたしは惚れた腫れたに興味ないから」


 そう言って手をひらひらと振るマリーアに、フランツは嬉しそうに口角を上げる。


「そうか、それは奇遇だな。私も恋というものは分からない」

「あぁ……あんたぐらいカッコいいと誰でも手に入るものね。逆に興味が湧かないんじゃない?」


 マリーアの適当な予想に、フランツは真面目に考え込んだ。


「要するに、恋は手に入らないから楽しいというやつだな。一考の余地がある」


 ぶつぶつと自分の世界で考察を進めるフランツに、マリーアはイタズラな笑みを浮かべてフランツの顔を覗き込んだ。


 そして一言。


「じゃあフランツ、わたしを好きになってみれば? 手に入らないわよ?」


 パチっとウインクをしたマリーアをじっと見つめたフランツは……自身の顎に指を添えると首を傾げた。


「――難しいようだ」


 その言葉が聞こえた瞬間に、マリーアがフランツを杖で殴る。


「諦めるのが早すぎるわよ!」

「いや、すまない。では努力しよう」

「努力されても嬉しくないわ!」

「……女心は難しいな」


 真剣な表情でそう呟いたフランツに、マリーアは疲れたような表情で息を吐き出した。


「はぁ、なんか疲れたわ。この話はおしまい。さっさと依頼を達成するわよ」

「そうだな!」


 恋愛の話をしている時よりも瞳を輝かせたフランツに、マリーアは呆れたような笑みを浮かべてから、それを苦笑に変えた。



 街を出てから数十分後。フランツとマリーアはヒール草の群生地を見つけ、順調に薬草採取をしていた。小さな薬草をナイフでちまちまと集めていく作業を、フランツは心から楽しんで行っている。


(これこそまさに、冒険者の最初の関門だ)


 鼻歌でも歌い出しそうなほどご機嫌なフランツを横目に、マリーアは周囲の見張りをしていた。


「やっぱり仲間がいるといいわね。一人だと何かと大変なのよ」

「確かに見張りがいなければ、薬草採取を存分に楽しめないな。マリーア、ありがとう」


 爽やかな笑顔で感謝を告げられたマリーアは、微妙な表情を浮かべながら頷いた。


「なんかズレてる気がするけど、まあいいわ」


 それからもぽかぽかと暖かな陽気の中で順調に薬草を採取し、そろそろ十分だから帰ろうかとマリーアが声をかけようとした瞬間、二人の耳にガサゴソと葉擦れの音が聞こえた。


 それはまだ遠い距離だが、確実に大きくなっていく。さらには葉擦れの音に合わせて、人の叫び声と足音も聞こえてきた。


「フランツ、誰かが魔物に追われてるわね」

「みたいだな。危険そうなら助けよう。昨日話した通り、私が剣と魔法で前衛を、マリーアは魔法で後衛を頼む」

「分かったわ。あんたの実力、見せてもらうわよ」


 そう言って楽しげな笑みを浮かべるマリーアに、フランツも今までの優しい雰囲気を消して、好戦的な笑みを見せた。


「もちろんだ」

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