悪の皇帝候補に転生したぼくは、ワルワルおにいちゃまとスイーツに囲まれたい！

第2話 ぼくの名前はリュカ

「お願いリュカ、生き返って……ッ！」

　ぼくの耳に飛び込んできたのは、女のひとの泣く声だった。

　一体、誰だろう。

　あともうちょっと、ショートケーキの夢を見ていたかったのに。

　でも、すごく好きな声だ。

　とてもよく知っているひとな気がする。

「待って、いま瞼が動いたわ！」

「王妃殿下、見間違いでございます。リュカ殿下はもう身罷られてしまったのでございます。お辛いのはわかりますが……」

「見間違いじゃないわ、たしかに動いたのよ！　リュカ、お願いもう一度目を開けて！」

　もしかして、死んだと思われているのだろうか。

　このままだと、お葬式されちゃう！

　瞼が鋼鉄になったみたいに重いけれど、ぼくは一生懸命に瞼を開けようとした。

　瞼がぴくぴくっと動き、目が見開かれた。

「おお……！」

　視界に光が飛び込んでくるのと同時に、周囲がどよめくのが聞こえた。

「医術士の見立てが間違っていたのか⁉　これは奇跡だ！」

「ああ、リュカ！」

　女のひとが嬉しそうにぼくの手を握ってくる。

　女のひとが握ったぼくの手は、夢の中のぼくとは違って小さい子供のものだった。

　それからぼくの口が独りでに動いて、こう言った。

「お……かぁしゃ、ま……？」

　お母様。

　そうだ、このひとはぼくのお母様だ。

　瞬間、脳内を記憶が駆け巡った。

　二つの記憶が互い違いに、脳内で入り乱れる。

　お母様に優しく頭を撫でられている記憶。リュカ、と呼ばれている記憶。極道の跡継ぎとして日本に生まれた記憶。熱が出て苦しかった記憶。スイーツをスマホで眺めるだけの日々。ベッドの上で「ぼく、しぬの？」と聞いた記憶……。

　ぼくの名前はリュカ。年は四歳。

　この国の王子様で、病気で身体が弱くていつも寝ていた。

　最近はずっと具合が悪くて、ずっとベッドの上で寝ていて、とってもとっても苦しくって……その末に、きっと一度自分は死んだのだ。

　そしたら突然、前世の記憶が蘇った。

　記憶が蘇ったというより、極道の跡継ぎとかいうお兄さんの魂がこの身体に転生してきたから、文字通り生き返ったのかもしれない。

「きゅう……」

　急に前世とぼくのと二つの記憶が頭の中に混在した疲れで、ぼくの体力はこれ以上もたなかった。

　ぼくは疲れて、目を閉じたのだった。