第五章 幼馴染という名の呪い その①

 令の家に辿り着いた私達……レモン令、マナ令、マナさん、そして私を玄関で出迎えたのは、少し疲れ気味の顔のレモンちゃんと……恥ずかしそうに笑う、死んだはずだった私の彼氏である……鬼島令でした。


「えーっと……久しぶり?であってるのか?こういう場合」


 いつもの癖で頭を掻く令は、間違いなく生きていて、動いていて、喋っていて。

 それは私が知っている顔で、同じ眼差しで、同じ体系で、同じ喋り方で、同じ仕草で、同じ匂いで。何もかもが記憶と一致するかつての……鬼島令でした。


「────」


 色々言いたいことがあったけれど、目の前の現実に頭が追い付かず、私達は無言のままとりあえず場所を玄関からリビングへと移動しました。


「……あー、ずっと皆に無言でいられると困るんだけど」


 衝撃の展開に、この場に駆け付けた面々はただあっけにとられるばかり。リビングに移動しても未だに私達は誰一人としてまともな言葉を発せずにいました。


「えっとだな。その、心配かけたな。恵梨香」


 すると気まずい空気を壊したいとでも思ったのか、は一歩前に出て私に語り掛け、あまつさえ抱きしめてきた。

 心臓が跳ねる、息が止まる、瞳孔が開いてまた閉じる。


 ああ、どうしよう。

 ……こんなことって、あるのだろうか。


「…………………………………………………………………………………………………………」


 目の前の令は、しばらくするとそっと抱擁を解いた。まるでプレゼントを贈ってその反応を伺う彼氏のように。

 ああ、まだ身体に、彼の感触が生々しく残っている。


「………」


 未だに何一つ喋らない私に気を使って、今度はレモンちゃんが私の側までやってくる。


「……え、えっとね、恵梨香ねぇ。恵梨香ねぇが犯人捜しに出かけてから、あたし思い付いたんだ。そうだ、異世界の神様にまたお願いすれば、もしかしたらお兄ちゃんを生き返らせられるんじゃないかって。それで異世界に行って、神様に頼んでみたら……」

「……こうして生き返った、というわけですか」


 やっと自分の口を動かせたと思ったら、そんなくだらないどうでもいい内容だった。

 ああ、もっと。もっと言わなければならないことがあるはずなのに。

 しかし私がやっと口を開いたのに安堵したのか、レモンちゃん、それに生き返った令はほっと一息つきあっていた。


「……まぁそういうわけでだな。こうして無事俺が生き返ったわけだから。恵梨香、それに皆も……これでひとまずは一件落着ってことで」


 生き返った令はそう言って手を頭に当てながら、お茶目に笑いました。

 その姿はテストの赤点を回避したかのような自然さで、どこかこちらの笑いを誘うもので。

 この場にいる誰もがその姿を見て、身体に巡らせていた緊張を解き、肩の荷を下ろしはじめていました。


「いやまったく、自分ながら人騒がせなやつだよ。恵梨香の彼氏になって恵梨香のダメな部分が伝染しちまったんじゃねぇか?」


 レモン令が、生き返った令を茶化すように肩を叩く。それに生き返った令は「うるせぇ」とまんざらでもない感じに笑い返す。それは普通の男子高校生のような一場面。

 その光景は……まるで本当に悲劇を乗り越え、何もかもが解決してハッピーエンドを迎えた後のエピローグのようで。そしてそれにつられて瞼が緩くなるのを感じる自分もいて。


「「「はははははは」」」


 笑い声が木霊する。耳に心地良い合唱。幸せの一幕。

 ……けれどそれは。

 ああ、このまま全部この流れに身を任せてしまいたいと……そう思う自分は確かにいる。


 ────でもそれは、叶わない願いでした。


「待って下さい」


 だって私には、あの日交わした『取り決め』があるから。


「ど……どうした恵梨香? そんな大きな声を出して」


 生き返った令が……それだけでなく、ここにいる皆が私へと視線を送ってきます。

 それでもその視線に不穏な気配など微塵もなく。笑顔が、まだそこにはありました。

 それは確かに傍から見れば、とりあえずは一件落着だと言わんばかりの温かい光景で。

 でも……そんなわけがないでしょう。

 皆さん……気持ちはわかりますけど、流石に楽観的すぎます。

 見たくない真実から目を逸らすのは……卑怯じゃないですか。


「一件落着って……いやいや。何を言っているんですか。まだ……まだ何も終わってなどいないじゃないですか」


「……それは犯人のことを言っているのか?」


 生き返った令が腕を組んで顔を顰めます。


「確かにまだ誰が俺を……ええっと、生き返った恵梨香令を殺したのかはわかってないな」


 それに同調するように、マナ令も笑顔だった顔を手でぬぐいます。


「いやいや、それなら本人に直接誰が犯人か聞けばいいだけだろう?」


 そこへ今度はレモン令がしごく真っ当なことを言います。

 ……わかっていましたが、令達がこうして一ヶ所に密集すると脳が混乱します。ここにライラ令までいれば、さらに混乱は増したことでしょう。


「あー……。悪いが殺された前後の記憶は曖昧で……正直誰に殺されたかは覚えていないんだ」


 生き返った令が申し訳なさそうに頭を掻きます。


「なるほどな。……そこまで上手くはいかないか」


 この発言はレモン令。


「じゃあ犯人捜しは続行、か?」


 これはマナ令。


「いや……そのことなんだが。犯人捜しはもうやめにしないか?」


 すると生き返った令が神妙にそう切り出しました。


「どういう意味ですか?」


 私はその言葉の真意を確認する為、生き返った令に聞き返します。


「言葉通りの意味だよ。俺を殺したのは……俺が残したっていうダイイングメッセージから推測して、ヒロインの内の誰かってことになっているんだろう?」


 そこで彼は一度呼吸を挟み、


「だから、さ。無理に犯人捜しはしたくないんだよ。……わかるだろ?」


 首をすくめ、皆に同意を求めるように生き返った令は目線を周囲に配ります。


「きっと俺を殺したのも何かの間違いか……それか何か、そうしなければならない重大な理由があったはずなんだ。そしてその理由はきっと……殺された俺が原因に違いない。なら俺はその理由を聞いて、解消したい。そもそもの原因をなくしたいんだ。……だからここで無理に犯人を特定し追い詰めるやり方は……その、嫌なんだ」

「つまりアナタは……犯人が自分だけに自首してきてくれるのを信じて待ち、それを受け入れ、己の力だけで犯人を改心させると言っているわけですか?」

「……ああ、そうだ恵梨香。これは殺された俺だから言える我儘で、権利だ」

「権利って」


 ……何を根拠に『権利』だなどと言っているのでしょうかこの男は。

 殺された本人だから、犯人を赦す。

 そんな法律、古今東西見渡してもありはしませんよ。


「それは流石に我儘独善が過ぎます」

「わかってる。でも俺は……犯人をこれ以上追い詰めたくない。わかってくれ、恵梨香」

「……」


 目の前の男の思考回路がわからない。

 残念ながら他人に冷たいと評判の私には、これっぽっちも理解などできないのです。


「……俺も、俺の言うことに賛成だな。犯人に機会を与えるべきじゃないか?」


 そこへレモン令が援護射撃を放ちます。

 おやおや。この期に及んで性善説を信じるとか、頭にサンタクロースでも飼っておいででしょうかこの男共は。


「俺は……どっちとも言えない、な」


 するとマナ令は苦虫を嚙み潰したような顔で、ぼそりとそう零しました。


「アタシは……お兄ちゃん、えっと生き返った恵梨香令お兄ちゃんの意見に賛成、かな。きっと犯人も、今すっごく辛いんじゃないかなって、思うから」


 レモンちゃんが自分の肩を必死に抱きながらそう訴え。


「ワタクシは……皆様が出した結論に従います」


 マナさんはメイドらしく、皆から一歩引いた場所でそう言って瞼を閉じる。

 犯人を特定しないが三、どっちでもないが二。そして犯人を特定するが……私だけ


 ばばーん、多数決の結果、犯人を見逃すことが決まりました。

 わーい、ドンドンパフパフ。

 はは、これが民主主義。最大公約数の幸福。


「……糞くらえです」

「恵梨香?」


 令……自らを生き返ったという令が、私の名前を呼びます。

 それだけで私は鳥肌が立ち、頭が沸騰してわけがわからなくなる。


「……二度と。二度とその顔で、その口で私を恵梨香と呼ぶなこの外道」

「なに?」

「ここまで……ここまでやるとは、流石の私も予想外ですよ。まさかこんな手段で事件を有耶無耶にしようとは、ね」

「……恵梨香、結論が気に食わないからってそんな言い方……」

「だからその口で私の名前を呼ぶなこの……偽物!!!」


 私の発言に、自らを生き返った恵梨香令と名乗る人物は……いいえ、この場の全員がコンクリートみたいに固まってしまいました。


「ハァ、ハァ、ハァ」


 ああ、とうとう言ってしまいました。

 認めてしまいました。

 最後の希望を……自分からかなぐり捨ててしまいました。

 でもこれが……真実。

 目の前の彼、自らを生き返ったと宣うこの令は、私の彼氏であった『恵梨香令』ではない。

 断じて。


 ……………………………結局、死んだ人間は生き返らない。


 それはどの世界でも共通の、ただ一つの真実なのでしょう。

 所詮魔法はインチキ。……インチキには種も仕掛けもあり、だから本当の奇跡は起こせない。

 それはまるで子供が夢から醒めるように、私を幸福な楽園から突き落とす。

 ……だってわかってしまうんですもの。どうしようもなく。

 意識的にも、無意識レベルでも。

 この生き返ったと嘯く令が、残酷なまでに『違う』ということが。


 そりゃあわかりますよ。


 一体私がどれだけあのバカを見てきたと思うんですか。

 ライラさんにマナさん、それからレモンちゃんにだって、あのバカを見てきた長さだけは負けるつもりはありません。


 だって私は……鬼島令の幼馴染なんですから。


 それだけは、誰にも奪われなかったただ一つ私に残ったモノ。

 それは私にとっては大切な宝物で、それと同時に─────


「え、恵梨香ねぇ? どうして、そんなこと……言う、の? こ、ここにいるのは偽物なんかじゃ」

「ごめんなさいレモンちゃん。もうちょっとだけこの茶番に付き合ってあげたかったんですが……やっぱり無理です」

「茶番って、どういう意味だよ?」


 レモン令が私に詰め寄ります。


「だから、全部茶番ですよ。こんなの……。こんな、こんなハッピーエンド、今更有り得るわけないじゃないですか!」

「……っ」


 私の剣幕に押されて、レモン令は押し黙ります。


「ねぇレモンちゃん。本当に、本当に恵梨香令は生き返ったんですか?」

「そ、それは勿論……」

「噓です」


 断言しました。今にも泣きそうなレモンちゃんには悪いですが。


「殺された人間が生き返った? だから犯人はもう探さなくていい? ……なんですかそれ。あまりにも犯人に都合が良すぎるでしょう。ねぇ、偽物さん」

「それ、は……」


 生き返った令……いいえ、ここからは簡潔にわかりやすく、例によって『偽令』とでも呼称しましょうか。

 偽令は明らかに狼狽えている。


「流石に気を急ぎすぎでしょう。生き返ったと言ったそばから、いきなり犯人を見逃そうとか言われれば、私でなくとも戸惑いますよ。……そうですね。もう少し色々落ち着いたあとなら、さっきの暴論ももしかしたら押し通せたかもしれないのに。まさしく墓穴。やり慣れていない悪事だからってあまりにお粗末ですよ」

「お、俺は……別に」

「ああ、ごめんなさい。さっきのは噓です。私が生きている限り、あんな胡散臭いハッピーエンドは許しません。絶対に犯人を特定し、公平な裁きを受けてもらいます」

「……っ」


 押し黙る偽令。


「どうしました? 次は邪魔な私を殺す算段でも考えはじめましたか偽物さん?」


 自分で言っていて結構怖い想像ですが、でもこれが有り得そうだから困りもの。


 ────一度『殺害』という手段を取ってしまうと、その人間には常に物事の判断基準に『殺害』という選択肢が上ってしまう。そんな説を何かで読んだことがあります。


「お、俺は偽物じゃない……! 俺は確かに鬼島令だ! 現にお前と過ごした記憶だってちゃんとある! 俺はお前の幼馴染で、産まれた病院も時期も一緒で……そうだ。高校の合格発表の時、受験番号が隣にあって二人で笑い合ったのだって知ってる」


 また的外れな反論をしてきますねこの偽令は。もしかして自分の正体をまだ隠し通せているとでも本気で思っているのでしょうか。

 ……というか私的には殺意の方を真っ先に否定して欲しかったですよ。

 はぁ、勝手にピースがはまっていく。


「そりゃあありますでしょうよ。私と過ごした記憶ぐらい」

「なら……!」

「ああ、いえ。私が言いたかったのは、アナタが四人に分裂する前の記憶という意味です」


 一瞬期待したような顔の偽令へ、即座に真実を振り下ろします。


「……どういう意味だよ」


 明らかに声のトーンを落とした問いかけに、笑い出しちゃいそうになります。

 もう少し噓を隠す努力をしてくださいよ。これじゃあ探偵役、いらないじゃないですか。


「では偽物さんに聞きますが、私達が初めてセックスした日を言えますか?」


 だからさっさとこの茶番も終わらせちゃいましょう。こんな滑稽な見世物…………続ける側も観てる側も、皆辛いだけですから。


「はぁ?」

「どうしました? 自分が童貞を捨てた日ぐらい答えられるでしょう? アナタが本当に生き返った私の彼氏である『』であるならば」

「い、いや……それは……、えっと」


 偽令は目を泳がせ、まともに口を動かすこともできません。


「……(マナさん)」

「……」


 私はマナさんに視線を送り、マナさんはそれだけで完全に私の意図を組み行動してくださいました。


「失礼します」

「ぐは……!?」


 偽令は動揺していた為か、背後から音もなく近づくマナさんに気付かず、成すすべなく床に羽交い締めにされます。


「は、離せ……!?」

「いえ、申し訳ありませんが少々眠っていただきます」

「ぐ!?……あ……────」


 偽令はマナさんに首を絞められ、あっけなく気絶してしまうのでした。


「ありがとうございますマナさん。念の為そのまま取り押さえておいて下さい」

「かしこまりました恵梨香様」


 私は気絶した偽令を一瞥だけし、それからはもう二度と視線を送ることさえしませんでした。


「さて……ご覧の通り、この生き返った令に、私と恵梨香令だけの特別な思い出、過去はありません」

「それって、つまり……」


 成り行きを見守るしかなかったマナ令が、初めて何かに気づいたかのように身体をこわばらせる。


「アナタの思い付いた通りですよ。この偽物さんの正体は……確かに鬼島令ではあります。しかし私の彼氏……死んだ『恵梨香令』では決してありません。ならこの目の前の人間は誰なのか。考えられる可能性は二通りあります」


 私は一度目を瞑り、頭のつむじにじくじくとした痛みを感じつつ口を動かします。


「まず考えられるのが……この場にいないライラさんの所にいるはずのライラ令が、虚言を吐いて自らを生き返った恵梨香令と言っているケース」


 今度は耳鳴りがする。


「とはいえ、これは無いでしょう。だってすぐにバレますから。こんなその場だけしか通用しない噓を言っても、誰も得をしません」

「ならやはり……そうなのですね恵梨香様」


 マナさんがまるで昔犯した過ちを悔いるように、偽令を捕縛した態勢のままその氷のような顔に影を落とす。

 ……残された可能性。

 それは普通ならあり得ない、というか常人には考えもつかない可能性。

 けれどこの場にいる者にとって、それは一番はじめに考え付き、あり得る可能性となる。なってしまう。


「……最後の可能性。それは……この目の前の偽物の正体が、鬼島令がまた秘密裏にもう一度分割して増えた存在だということ、です」


 頭の痛みに耳鳴り、それから今度は吐き気を催してきて。身体が猛烈な拒否反応を示している。……どうやら思ったより、私はこの事実にショックを受けているようです。

 色んな意味で…………この事実は辛く、救いがない。


「恵梨香様?」


 よほど酷い顔でもしていたのでしょう。心配げな声がマナさんから掛けられてしまいます。


「こほん、失礼しました。…………ええっと、では一体どの鬼島令が増えた存在なのか?」


『レモン令』『マナ令』『ライラ令』この三人の内の誰か。


「……それを知るのはレモンちゃん、アナタです」


 私に話しを振られる前からレモンちゃんはずっと下を向き、まるで何かに堪えるように震えていました。その姿に、思わず胸が痛くなる。


「話して……くれますよね?」


 できるだけ声に棘が産まれないよう、優しく語り掛ける。

 恵梨香令を生き返らせたと、一番初めに噓を吐いた彼女に。

 こんなに優しくて希望に満ちていて、そして酷く残酷な噓を。

 なら知っているはずだ。一体どの鬼島令を増やしたのかを。


「あ、あたしは……ただ、本当に恵梨香令お兄ちゃんに生き返って欲しくて。恵梨香ねぇに笑ってほしくて! ただ、みんなにこれ以上、悲しんでほしくなかっただけ、なの。だから無茶とわかっていても、神様にお願い、して……」


 その言葉だけで、背景に何があったかを察することができました。


「なるほど。レモンちゃんは、本当にはじめは恵梨香令を生き返らせるために、異世界の神様のもとへと向かったんですね」


 優しいみんなの天使、レモンちゃんらしい考え。そんなレモンちゃんが大好きです。


「…………けれどそれはやはり無理だった。死者蘇生は例え神様でも……いいえ、きっと神様だからこそ、許可できなかったのでしょう」

「……え、恵梨香ねぇ」


 ボロボロと泣きながら、まるで私に謝るようにその顔を濡らし続ける。

 その姿にまたも胸の痛みに襲われる。

 彼女にこんな顔をさせてしまった自分が酷い人間のように感じてしまう。


「べ、別にその件については怒ってないですよ」


 違う。私はこんな顔を彼女にさせたいワケではなかった。



 私はそう言った。


「寧ろお礼を言いたいぐらいです。令の為に、そして皆の為に行動してくれたんですから」


 例え無茶とわかっていても、僅かに可能性があるならと考えレモンちゃんは頑張ってくれた。

 そのことについては本当に嬉しい。噓偽りなく。

 ……けれど彼女の親切は歪められてしまった。

 犯人に、利用されたのだ。


「それで異世界の神様に蘇生を断られたあと……レモンちゃんはどうしたのですか?」


 肝心のその後のことを聞く。

 それさえ聞ければ、私の予想では最早この事件は解決したも同然だ。


「……」


 しかしレモンちゃんは俯くばかりで、口を割る気配がなかった。

 黙秘……なんでしょうねこれは。

 はぁ、まるで刑事ドラマです。こんな場面に自分が遭遇するなんて、考えたこともありませんでした。


「いいでしょう。黙秘は一応権利として認められていますから」


 まぁ気持ちもわからないではないですし。私も彼女の立場なら……同じことをしていたかもしれません。


「なら推理を続けるだけです」


 さっきから続く身体の不調は一向に治らない。

 それどころか酷くなる一方。

 けれどそれでいい、と思うのです。

 今泣けない私の代わりに、身体が悲鳴をあげてくれている。

 そんな風に、感じられたから。


 ……………………さぁ、まだまだ推理ははじまったばかり。

 地獄の時間はここからです。

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