第三章 美少女ロボットメイドは電気羊の夢を見るか その②
ではここで如月マナについてもおさらいしておきましょう。
……実は如月マナと初めて遭遇したのは、何を隠そう私なのです。
如月マナは突如令の家へ、大きな段ボールに詰められて謎に着払いでやってきました。
その日は偶々令とライラさんは朝から二人でデー……お出掛け中で、令の妹のレモンちゃんもその日は朝から用事で家にいませんでした。
一方私はいつものように令の自宅を独り黙々お掃除中。
例の如く海外勤務でご不在な令のご両親に代わり、令の自宅の掃除は私の仕事だったのですよ。令が吸血鬼になろうが、ソレはまだ私の仕事で……アイツと私に残った特別な繋がり、でした。
だから令とライラさんが朝っぱらからデー……お出掛けしていようが、私は黙ってアイツの家の掃除に精を出していました。
自分で言うのもなんですが中々重い……こほん、物好きですね私も。
そんなわけで配達のおじさんとバッタリ遭遇した私。
突然送られてきた着払い、五万二千円を仕方なく私が立て替え、荷物を受け取りました。
……当然中身が気になります。五万二千円もの高額なモノ、一体令の奴は何を買ったのやら。
そんな好奇心で私は段ボールを開けました。開けてしまいました。
中には裸の少女が詰め込まれていました。しかもバラバラで。
……そっ閉じです。
私は見なかったことにしました。
世の中には知らない方がいいこともあるのです。
私は悟りを開きました。
しかし一度段ボールを開けたのがまずかったのか、少女はひとりでに段ボールから這い出し、腰を抜かした私の目の前で自らを組み立てていくではありませんか。
ええ、軽くホラーでしたよ。今でもたまにあの光景を夢で見ます。トラウマなんてレベルじゃありません。
ホラー映画なら間違いなく私は憐れな犠牲者第一号でしょう。
さて完成した少女でしたが、それはまた例の如く美少女でした。
短髪に切り揃えられた髪色は日本人離れした水色。
くっきりとした目鼻立ちに無表情さと相まって、まるで海にポツンと浮かぶ流氷のような印象を受けます。
体型は小柄とまでは言いませんが、私より大きくはありません。
私の身長が百六十ぐらいなので、彼女は百五十前半くらいといったところかと。
けれど胸だけは私より大きく(おそらくC)……この世の悪意を感じました。
世の中なんでも大きければ良いと思っている猿共はいっぺん死ぬがいいです。
さて、その目の前で完成した謎の美少女ですが、茫然と立ち尽くしながらただ一言私に告げたのでした。
「助……けて」
するとその美少女はまるで電源が落ちたかのように、突然うつ伏せでバッタンと倒れてしまいました。
意味がわかりませんよね。
勿論当時の私もまぁビックリ仰天。
精神のキャパを完全に超えちゃいました。
いきなり段ボールの中からひとりでに組み合がった人間そっくりのナニカが助けを求めてそのままぶっ倒れる。
……いくらオタクに優しいインテリギャル幼馴染の私でもこんな事態は予想していません。
そんなわけで混乱した私は美少女の言葉に素直に従ってしまい、とりあえず学校で習ったばかりの人工呼吸を開始。
慌てていたとはいえファーストキッスをこんな形で失ってしまった私。全米が泣いた。
そうして人工呼吸を開始した私でしたが、何故かその後の記憶はぷっつりと途切れています。
まぁ意識を消失してしまったんですね私。
後で知りましたが、彼女を動かすエネルギーは特殊で、魔力か生命エネルギーのそのどちらかが必要らしく(しかもそれの摂取方法がなぜか粘膜接触のみ)、あの時の彼女はソレらが尽きてしまったんだとか。
そんな所に丁度いいご飯……もとい私が人工呼吸という名の粘膜接触をしたので、彼女はチャッカリ私の生命エネルギーを美味しく頂き、それで私は気絶したんだそうです。
まさしく踏んだり蹴ったり。
着払いで五万二千円を立て替え、ファーストキッスを捧げ、おまけに生命エネルギーという何だか大事そうなモノまで奪われるなんて……私が何をしたというのでしょう。もう全米どころか世界が泣いた。ハルマゲドンです。滅びよ世界。
さて、私が目覚めると、家に帰ってきたと思しき令とレモンちゃんが心配そうに私の顔を覗き込んでいました。
そしてあの謎の美少女は……令達の後ろで何故か夜ご飯の配膳をしておりました。
何が何だかわからない私は事の顛末を二人から聞くことに。
なんでも令がライラさんとのデー……お出掛けを終え、偶々帰りに遭遇したレモンちゃんと合流して帰ってきてみたら、家の外見がピカピカの新築みたいに綺麗になっていたそうで。
それから慌てて家の中に入ると謎の美少女が夜ご飯を調理中だったらしいです。
混乱した令は何か知っていそうな私に事情を聞きに行くも、当の私はソファで死んだように熟睡中とこれまた混乱に拍車をかける始末。
仕方なく令は美少女に詰め寄り事情を聞いた所、どうやら美少女は正真正銘のロボットであり、今は再起動の影響で自身がロボットという事以外は記憶を喪失しており、何故この家に送られてきたのかはわからない。
とりあえず自身を再起動してくれた佐藤恵梨香が行っていたであろう
というわけで……またも事件発生。
私は寝起きで怠い頭を抱えつつも、とりあえず私が知っている限りの情報共有(その時に立て替えた五万二千円はしっかり回収)を果たし、それから問題の美少女ロボットの処遇をどうするかの話し合いがはじまりました。
そして紆余曲折の末、仕方なく美少女ロボットは令の家のメイドになることで落ち着きました。
つまりこれからは私の代わりに……令の家の家事はこの美少女ロボットがこなすということ。
「────よかったな。これで恵梨香も楽できるだろ」
……そう言った時のアイツの顔は、今でもしっかり目に焼き付いています。
おっと話がそれましたね。
話の続きですが……まぁそこからは例の如く令と謎の美少女ロボットメイドのラブコメがはじまりました。
朝起きればベッドの上に美少女ロボットメイド。私より美味しい朝ご飯を作る美少女ロボットメイド。それにとどまらす弁当まで作って出来立てを学校に直接届けにくる美少女ロボットメイド。夕方は護衛と称して令と一緒に帰宅する美少女ロボットメイド。私には作れない豪華な夜ご飯を作る美少女ロボットメイド。お背中を流す為に風呂に突入する美少女ロボットメイド。夜のご奉仕までこなそうとする美少女ロボットメイド。
そんなラブコメがあったとかなんとか。
なんていうか……殺意の波動に目覚める時とはこういう瞬間なんでしょうね。
さてそんなクソみたいな爛れた生活が一週間ほど経ったある日、美少女ロボットメイドがまたも自宅で燃料切れを起こしかけたとか。
丁度その場にいた令は聞いていた方法、キッスで美少女ロボットメイドに燃料を補給したそうです。
すると美少女ロボットメイドに異変発生。
強大な魔力を保持する吸血鬼である令の魔力を過剰に供給された美少女ロボットメイドはそのショックで記憶を取り戻し、本来の自分の正体と役目を思い出してしまったそうです。
な、なんと美少女ロボットメイドの正体は、悪の秘密結社が作り出した殺戮兵器だったのです。ナ、ナンダッテー。
そして美少女ロボットが令の家に来た本当の目的は……自身のエンジン問題を解決する為。実は美少女ロボットの真の力を発揮するには今のエンジンでは問題があり、それを改善するには吸血鬼の心臓が必要だったそうです。
つまり令の殺害が美少女ロボットの本当の目的。
そうとも知らずに令は美少女ロボットをメイドとして歓迎し、仲良く暮らしていたなんて。
アア、なんてカナシイすれ違いなんでしょう。ほろり。
いや色々穴だらけの作戦すぎる。
そもそも何で悪の秘密結社は造る前にエンジンの問題を解決しないんですか。それから何で燃料ギリギリの状態で令の家に着払いで送ったんですか。目的を果たす気あります?
バカですか。悪の秘密結社ってバカしかいないんですか?
少なくとも私はこの悪の秘密結社(笑)には就職したくはないですね。未来がなさそうですし。
さてさて、そんな色んな意味でブラックな秘密結社の目的を思い出した美少女ロボットは、律儀にも令との殺し合いを開始。
魔力を奪われ衰弱した令と魔力満タンの美少女ロボットの戦いは美少女ロボットの一方的な戦いに。
しかしそこへマジギレしたライラさんが遅れて参戦。
……怖いですね。
結局美少女ロボットはライラさんに負けて敗走。
本来ならここからの話の顛末は悪の秘密結社をボコして終わるだけの筈なのですが、また毎度の令の偽善が発揮され「あの子はもう俺の家族だ」みたいな展開に発展。
悪の秘密結社に乗り込んだ令達は美少女ロボットと殺し合い&話し合いの末、美少女ロボットは悪の秘密結社から転職を決意し、令のメイドに永久就職を果たしました。
そこからはまぁ……戦いの余波で美少女ロボットのエンジンが故障し、もっと燃費の悪い旧型に変更する羽目になったり、ついでに悪の秘密結社を壊滅させたり、美少女ロボットが実は如月マナという悪の秘密結社のボスの死んだ娘を真似て造られたとかいうキモイ理由が判明したり、秘密結社が創られた最初の理念は崇高だったとか、そんななんだかんだがあったりと……お涙展開も少しはあったそうです。
そこら辺はもう興味もなかったので、スタバの新作片手に聞き流していたので詳しくは知りません。
────とりあえず結論として、またも令に女ができたってことです。
毎日朝と夜に働いた対価として
ハイ、おさらい終わり。
やれやれ、今回は少し長くなりました。
次回の『妹が実は血が繋がっていなくて異世界の天使だった件について』はもっと簡潔におさらいしますので、
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