第三章 美少女ロボットメイドは電気羊の夢を見るか その①

 どうも私です。

 初夏の日差しも厳しいこの頃、皆様はどうお過ごしでしょうか。

 私はといえばイタリアにある地中海沿岸部の街の暑い日差しの下、銃撃の嵐に逃げ惑う最中であります。敬具。


「ぐは……」


 あっと只今真横で一緒に逃げていた名も知れぬ白人男性が頭をぶち抜かれて、天国への片道切符片手に旅立たれました。


「アーメンです」


 オオ、ジーザス。後ろ目でご冥福をお祈り致します。

 とはいえこのままでは私も彼と一緒に天国へランデブーする羽目になる可能性高し。


 まぁとにかく私は今、イタリアのオシャレな沿岸都市で絶賛死に掛け中であります。

 嫌ですね。さっき命大事にとか言ったばかりですのに。

 人生とはどうしてこうも思い通りにいかないのか。


 さて、なにゆえこんな絶体絶命な状況に陥ったかというと、話は三十分前に遡ります。



 レモン令の魔法で、美少女ロボットメイドである如月マナさんとそのご主人様で彼氏である『』に会う為、イタリアにあるという彼女達の第三アジトとやらに『ワープ』しました。

 ですがどういうわけかアジトは絶賛大炎上中。

 しかも銃火器持ったガラの悪そうなヤクザっぽい連中がドンパチまでかましていて。

 もう逃げの一択ですよ。


 しかしここで痛恨のミス。


 どさくさに紛れてレモン令とはぐれるという大失態を犯し、私は独り言葉も通じぬイタリアの街を逃げ惑う羽目になりました。

 折角ライラさんに貰ったコートもその時に捨て……失くしてしまいました。すみませんライラさん。真夏の地中海を走って逃げるにはモコフワコートは邪魔だし暑かったのですよ。


 ああ、平和な日本に帰りたいです。ほろり。


 ていうか何故にヤクザ……いえここはイタリアですしイタリアンマフィアですね。そんなイタリアンマフィアっぽい彼らは執拗に私を追ってくるのでしょう?

 私ただのオタクに優しいインテリギャル幼馴染ですよ? 

 いつからイタリアンマフィアはオタク君と同類になったのですか。

 はぁ……言葉が通じないのがやはり痛いです。

 さっきから銃をぶっぱなす顔が濃い男達は、私に向かって暴言を吐き散らしているようですが、ナニを言っているかサッパリわかりません。

 やれやれ。オタクに優しいインテリギャル幼馴染でハイスペックな私でも、イタリア語は流石にマスターしていないのですよ。


 ……というかそろそろ本格的にヤバイです。


 知らない街であてどなくウロウロすれば、当然行き止まりに突き当たるのです。

 私は住宅街らしき裏路地の一角、それも陽の光も届かないような薄暗闇へと追い詰められてしまいました。


「×○▲!?」


 喚き散らすイタリアンマフィアらしき男共。


「はぁ。だからなに言っているのか全然わからないんですよアナタ達の言葉は。せめて英語で喋ってくれませんかね。……いえ、すみません見栄をはりました。ぶっちゃけ英語も微妙です」


 テスト英語しか勉強していない私には、実践的な英会話はまだまだハードルが高いのです。

 悲しきかな日本教育の敗北。


「アーメン」


 すると私を取り囲む男達の内の一人がそんな言葉を発しました。


「あ、それならわかりますよ」


 相手のご冥福を祈る的な言葉ですよね。さっき私も使いました。……ダメじゃないですか。


「ちょ、ま……」


 男達は銃口を私に向け、容赦なくその引き金を引きました。走馬灯を見る暇もありません。

 私は目を瞑り、できれば痛くない即死がいいなと思いながらその瞬間に備えます。

 ……いややっぱり死ねない。

 だってまだアイツと交わした取り決め、『後始末』を果たしていないんですから。


「…………?」


 そんな私の覚悟がまたも天に通じたのか、いつまでたっても身体にめり込む銃弾はやってきません。


 私は恐る恐る瞼を開け────その光景を目撃しました。


 暗い路地裏に、一人のメイドが舞っている。

 劇場で舞うが如くそのメイドは優雅に自在に踊り狂いながら男達を蹴り上げ、まるで打ち上げ花火のように空高く吹き飛ばします。

 人間ってあんな風に飛ぶんですね。初めて知りました。

 そうして私に「アーメン」とお祈りを捧げてくれた男が最後に空へと蹴り上げられ、辺りには私とメイドの二人だけになりました。


「……恵梨香様、お怪我はございませんか?」


 メイドは私の目の前で跪く。


「あ、はい。お陰様で無事ですよ。ありがとうございます」

「勿体なきお言葉。光栄の致りでございます」


 益々頭を下げるメイド。


「いつも言っていますが、そんなに畏まらなくていいんですよ?」

「いえ、恵梨香様は私の恩人にして、なによりも大切な方でございますから」

「相変わらず大袈裟ですね」


 さて、このイタリアには場違いな日本のオタクの妄想を具現化したみたいな、明らかに動きにくそうなフリフリメイド服を難なく着こなすメイドこそ……今回の目的である如月マナ。


 元悪の秘密結社によって造られた美少女ロボットにして、今は鬼島令の専属メイドに無事寿入社を果たした令のヒロインの内の一人です。

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