第二章 もうこのヒトが犯人では? その④

 ライラさんとライラ令は私とレモン令を城の外まで送ってくださいました。

 しかも帰り際ライラさんからなんか高そうな防寒着まで頂いてしまって。まさに至れり尽くせりです。

 外は結界のせいで猛吹雪でしたが、貰ったあったかモコフワコ防寒着のお陰で全く寒くありません。

 コレお値段いくらくらいなんでしょう。ちょっと怖くなってきました。


「お見送りありがとうございますライラさん。あとこのコートも」

「なに気にするな。恵梨香と我は……その、友達であるからな。服の一着や二着をプレゼントするぐらい当然のことだ」


 あれ?いつの間にか私、ライラさんと友達になっていました。どこかページを読み飛ばしてしまったでしょうかね?

 ……いやもう私にそんなにも心を許したんですか? ちょっと趣味(復讐)の話題で盛り上がっただけで好きになっちゃうとか、思春期オタク男子くんですかアナタは。

 もじもじと指で髪をいじるライラさんは、最初この城門で会った時に見せた威厳は最早皆無でした。

 どうしましょう。この方思ったよりもチョロいです。

 一度心を許したヒトには全力でデレるタイプ。

 なんですかそれ可愛いじゃないですか私も真似したい。


 …………………………………………………………令が好きになったのもわかる気がします。


「……あの、ライラさん。連絡先を交換しませんか?」


 私は咄嗟の思い付きを言葉にして、スマホを取り出していました。


「連絡先?」

「ああ……えっと……この機械を使って好きな時に連絡をしたい、のですが」


 スマホの画面をライラさんに見せます。


「……ああ、なるほどな。ニンゲン共は魔法ではなくこの機械を使って離れた相手と意思疎通をはかるのか」

「そんな感じです」

「すまん。我は機械に疎くてな。我に連絡したければ夫を経由してもらえればいい」

「ん? そうだな。俺に連絡してくれれば取り次ぐぞ」


 ライラ令がのほほんとした顔で答えやがります。


「いやそれじゃダメです」

「ダメ、とな?」


 ライラさんが首を傾げます。


「女友達に連絡するのに一々男を経由するとか、めんどくさいし色んな意味でヤバイです」


 昼ドラの予感しかしません。余計なトラブルは避けなければ。

 殺人事件はもうお腹いっぱい。


「そういうものか」

「ええ。ですから魔法でもなんでも使って、私のスマホからライラさんに直で連絡できるように改造してくれませんか」

「むむ。少し難しそうだが……よかろう。少しその機械を借りるぞ」


 おお。言ってみるもんですね。

 なんだかんだでやっぱ魔法ってスゲーです。


「どうぞ」


 私はスマホをライラさんに手渡します。

 スマホを受け取ったライラさんは画面を見つめ、それから私達から少し離れて独り「むむむ」とスマホに悪戦苦闘。

 そのお陰で手持ち無沙汰になる私達です。


「……それにしても、意外な結果だな」


 そんな私に、横にいたレモン令が口元に手をやりながら話しかけてきました。


「そうですね。私もそう思います。まさかあんなにライラさんに気に入られるなんて」

「いやそれだけじゃない。ライラがお前に心を許したのも驚きではあるけどさ。お前だって今までライラとはあからさまに距離を取ってたじゃないか」

「……そうでしたか?」

「ああ。俺が恵梨香に初めてライラを紹介した時なんて、ひでぇ顔してそのまま無言でどっかいってさ。あのあとライラを慰めるのに苦労したんだからな」

「あれは令が……!」

「俺?」

「いえ、なんでもありません。ただ初めて人外を見たのでビックリしただけですよ」

「そうかぁ? 結局その後もずっとライラと仲良くしようとはしてなかったじゃないか」

「話す機会がなかっただけです」

「いやいや別にそんなことは……」

「おい俺。そのくらいにしとけ」


 しつこく絡んでくるレモン令を止めてくれたのは……意外にもライラ令でした。


「なんだよ俺」

「いい事教えてやる俺。しつこい男は嫌われる。あと鈍感な奴もな」

「はぁ? なんだよそれ」

「いいから。とりあえずこの話は終わりだ」

「納得いかねぇ……」


 ……不思議な光景です。

 同一人物の男達が、察しの悪い自分を自分が諌める光景。

 世界は広いといえども、こんな頓珍漢な光景を目の当たりにしたのは私だけでしょう。


「すまぬ。遅くなったな。……む、どうした三人とも?」


 スマホへの魔法掛けが終わったのか、ライラさんが私達のもとに帰ってきました。


「いえ。ちょっとした兄弟喧嘩みたいなものがありまして」

「ふむ?」

「それより連絡方法、なんとかなりましたか?」

「うむ。その機械とそこに入っている連絡あぷり?という術式に細工をした。故にこれからは他の人間達と同じように登録されている我のアカウントに文字を送れば、それが我の脳内に直接送られてくる仕組みとなっておる。逆もまた然りだ。我が念じれば文字をそちらに送ることができる。勿論音声でのやり取りにも対応しておるぞ」

「凄いですね」


 予想よりも便利使用でビックリです。

 魔法万能すぎませんか? 科学技術が泣いています。


「では。暇な時にでも連絡しますね」

「う、うむ。……ま、待っているぞ」

「固いですね。そんなに畏まられても困りますよ。これからは気楽に話しましょう。なにせ友達ですからね私達」

「ど、努力しよう」


 道のりは遠そうです。


「それではお世話になりました」

「ああ。道中気を付けるのだぞ」

「はい。それはもう」


 命大事に。


 だって命は一つしかありませんからね。

 どっかの誰かさんのせいで、それが身に染みてわかってしまいましたから。やれやれです。


「ではまたな。恵梨香よ」

「ええ、また今度です、ライラさん」


 そうして私とレモン令はライラさん達のもとを後にしました。


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