第一章 ハッピーエンドのその先は死 その②
「すみません。我儘を言ってしまって」
部屋でひとしきり……具体的に言うと一時間ぐらい籠ったあと、私は部屋の外で待っていたレモンちゃん、そして生きている方の令と合流しました。
……さてここからはいつも通り、彼のことは『レモン令』と呼称しましょう。
鬼島令が四人に増えた当初、誰がどのヒロインの彼氏かあまりにわかりにくく、かつ不便だったので私達の間で彼らにあだ名を付けることにしました。
それがこのヒロインの名前を最初に付けるというあだ名です。
つまり私の彼氏である鬼島令の場合なら、他の仲間からは『恵梨香令』と呼ばれ、レモンちゃんの彼氏である鬼島令は『レモン令』と呼んで識別する。
佐藤恵梨香の場合→恵梨香令
鬼島レモンの場合→レモン令
ライラの場合→ライラ令
マナの場合→マナ令
あまりにそのまんまなネーミングですが、わかりやすさが大事ですので細かいことには目を瞑りました。
さて話を戻しまして、部屋から出た私をレモンちゃんと『レモン令』は、拾ってきた野良猫にでも接するみたいにゆっくりと側に寄ってくる。
「恵梨香ねぇ、無理、しないでね」
廊下で一時間も待っていたであろうレモンちゃんは文句も言わず、まず私の心配をしてくれました。その優しさが泣き疲れた身体に痛いぐらい沁みます。
「ありがとうございます、レモンちゃん。でも……悲しんでばかりはいられません。私にはやらないといけないことがありますから」
毅然とそう口火を切る。
「……やらないといけないこと? なんだよそれ」
私の発言に訝しげに眉間にしわを寄せるレモン令。
「もちろん………………犯人捜しですよ」
「「は、犯人捜し!?」」
何を驚いているのかわかりませんが、レモンちゃんとレモン令は素っ頓狂な声を上げます。
「このまま泣き寝入りとか私的に絶対ノーですので」
「気持ちはわかるが、こういうのは警察に任せて……」
レモン令が私の腕を掴みながら顔を覗き込んでくる。
「いやお兄ちゃん警察は無理だよ。だって死んだのも…………お兄ちゃんなんだよ?」
「なんだそれどういう意味……あ」
察しの悪いレモン令がやっと気付きます。
「死んでる人間と同じ人間がいる状況とか、あたし達ならいざ知らず、何も知らない警察からしたらたぶん混乱すると思う。というかそもそも、吸血鬼であるお兄ちゃんを殺した犯人が普通の人間とは思えないから、日本の法律が適用できるかどうかも微妙だよ」
レモンちゃんの言う通り、非日常存在が起こす事件は厄介です。まともに警察を呼ぶことも裁判を開くのも難しい。
「まぁ兎に角そんなわけで、犯人捜しは私達でやるしかないのですよ」
探偵役とか柄でもないですけど。でもまぁ、今回ぐらいは頑張ってもいいでしょう。
「あとついでに犯人の裁きなんかも、だね。絶対に犯人を捕まえて、あたし達の手で犯人にキッチリ裁きを加えないと。そうだよね、恵梨香ねぇ!」
レモンちゃんは拳を握りつつ私に同意を迫る。
「………」
けれど私はそれに直ぐには同意できなかった。
裁き、か。
私如き平凡で普通な女子高生が誰かを裁く。
それは流石に傲慢ではないだろうか。
確かに警察に頼れないなら、必然的に裁判所や刑務所にも頼れないだろうけど、それはあまりにも……。いや……今それらは後回しでいい。捕らぬ狸の皮算用。まずは犯人を特定し捕まえる。そこに全能力を集中するべきだ。
────それでいい、はず。
「なるほどな。理屈はわかった。でも、な? 一般人の恵梨香を巻き込むわけには……」
一方、未だに私を説得しようとレモン令がそんな正論を吐いてくる。
「彼氏が殺されたんですよ? そんなキレイごと溝にでも不法投棄してください」
一般人だから? それがなんだというのでしょうか。巻き込むもなにも、私はとっくの昔に巻き込まれている。……彼氏が、殺されたのだから。
「わ、わかった」
私の心の籠った
「それじゃあ早速現場検証といきましょうか」
そうして前代未聞の『四分割の彼氏殺人事件』の捜査が無謀にも開始されたのでした。
────この先に待ち受ける、地獄を知りもしないで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます