【01-02】
「知らない、天井だ」
いや知らないどころじゃない。この天井、やたらゴツゴツしているのだ。
壁も同じようにゴツゴツしていて、まるで洞窟のような場所だ。
痛みと違和感のある体を起こし周りを見渡す。
どうやらゴザの上で寝ていたようだ。
胸を撃たれたことを思い出し、思わず胸に手を当てる。血は出ていなかったが、手が小さくなっている。驚いて体全体を見てみてると、蓑を着ていて、子供のように小さくなっている。
まさか異世界転生してしまったのだろうか。あまりにも非現実的な仮説が頭をよぎる。
異世界転生モノの知識はそれなりに持っている。ヒット作に関わる企業の株価を押し上げているため、仕事に必要な知識のひとつになっている。書店から在庫の返品が相次いで株価が下がったこともあったが……。
今の俺の名前はルネ。全身に虐待の跡がある六歳の男の子だ。
虐待の末に断崖絶壁から突き落とされ、たまたま生き残って雨風を凌ぐため洞窟に避難したところで息絶えたらしい。異世界転生だというのに虐待死するレベルで親ガチャに失敗していることに、愕然とした。
元父は大陸中央部のヴァルト帝国で盗賊をしていたようだ。何らかの理由で大陸北部には居られなくなり、魔物が跋扈する人外魔境である忘れられたこの地に元母を連れて逃げてきた。
大山脈の南側には広大な未開地が広がっているが、開拓を行う人も知識も足りないため、狩猟も働きもせず寝て過ごしていた。本人はスローライフを送っているつもりのようだが、年端も行かない子供に家事を押し付け、理由を付けては子供を虐待しているのが実態だった。
元母の来歴についてはよく分からないが、ルネの記憶によると父が無理やり連れてきた誘拐婚だったことが窺える。明日をも知れぬ田舎暮らしと夫の暴力によるストレスを、一人息子を虐待して発散しているような人間だ。
生活の糧は主に窃盗で、塩などの必需品は年に数回、人里に下りて空き巣に入っている。お前は小野田少尉か!
この地には自己皇帝感の塊である元父と、そんな夫に従うしかない元母と、6歳の子供がいるだけだったようだ。
ルネの記憶によると、どうやらこの世界には魔法があるらしい。
動植物すべてが多かれ少なかれ魔力を持っている。空気中にも存在していて、前世でいえば素粒子のようなものらしい。
だが魔法が使えるのは数千人に一人くらい。そのうち半分はコップ一杯の水を出せるとか、ろうそく程度の火を出すといった魔法を一日一回くらいしか発動できないらしい。
魔術の基本は体内や体外の魔力を感じることで、魔法を使うには魔力を溜めて念じるだけのようだ。
一般的に魔法使いは体の中や空気中の魔力を集めて、使いたい魔法をイメージすれば発動するらしい。詠唱はごく一部の人が使っているだけだそうだ。
魔法陣も存在していて、魔石を近づけたり魔力を流すと発動するらしい。主に魔道具で利用されているようだ。
『ファイヤーボール』『ロックバレット』『アイテムボックス』など前世の小説で読んだ魔法は一通り発動できて、複数の魔法の同時使用も可能だった。
治癒魔法の『ヒール』や『ハイヒール』は、虐待でボロボロになった体がみるみるうちに治っていった。
前世には無かった魔術を使えると知り、異世界を生き抜く気力が湧いてきた。
この世界には魔物が棲んでいて、中でもいま俺が住んでいるバイトステン大山脈 の南側は人間を駆逐してしまうほど魔物が多いらしい。
だがニヤニヤしている俺を戒めるかのように、アライグマに似た外見の魔物が牙をむき出しにして、俺に飛びかかってきた。
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