0153 この犬の地味攻撃ばっちい!


「ぺっ」


「てめ、なにしやが」


「ぺっ、ぺっぺっ!」


「喧嘩売ってんのか、お前!」


「ぶーっっ!」


「うげぇ、汚ぇバカっ!」


 フロウお得意の唾ぺっぺと思ったらトドメに唾これでもかと噴射してきやがった。


 腹立たしいのもあるが汚い。食事中だぞてめえコラ! レイリンさんにかからないと思って自分にばっかかかるように要らん工夫をこらしていやがるが、超下品、超汚い!


 こんにゃろう、これまでてめえの方が圧倒的に愛されていたと思って嫉妬による地味攻撃に走りやがって。敵視が一方的すぎるし、この精神の方へクる攻撃困るんですが。


 嫉妬狂いで噛みつかれるより唾による地味攻撃はレイリンさんが咎められない、という利点がある。ありやがるのでフロウは我、活路見つけたり! と多用してきやがる。


 なんて、思うことは山ほどあるが、やることの方が山になっていてその上重要なのでフロウの超醜い嫉妬攻撃は無視しておく。食事の盆を片づけて勉強に戻った自分の向かいでレイリンさんもなにか結構、かなり? 分厚い本を読んでいらっしゃるのが見えた。


 なんの本だろう? そう思ってちらっと見たが、ちょうどよく目があってしまう。


 自分は気まずかったが、というか昨夜のアレのお陰で本格的にレイリンさん意識しちゃっているのでドギマギしちゃう心地だが、レイリンさんは全然なので、訊いてみる。


「なにを読んでいるんですか?」


「これか? ゼゼフ博士の最新魔攻理論だ」


「そらぁ、自分には難しそうですネー」


 つい、棒読みになる。最新魔攻理論ってつまり論文ってことでしょ。んなもん頭の出来が凡人かそれ以下の自分には理解不能だ。レイリンさんのお読みものむずいんだな。


 なんていう自分のちょっとしたそんけー、を察してかレイリンさんはおかしそうに笑いなさった。なになに? 自分なにか変だった? おかしな発言しちゃったっけ。え?


 などなど自分が混乱しているとレイリンさんは「笑って悪かった」とばかりウインクしてくれたが美女のウインクって破壊力パねえっすけど!? ちょ、わかっているか?


「ユウトは俺を過大評価しすぎだ。このくらい魔攻を専攻する者なら普通に読める」


「自分の不出来脳味噌でも理解できます?」


「そこまではわかりかねる。俺は貴様じゃないんでな。いつか、読んでみるといい」


 いつか。いつか、もっと成長したら読んでみたらいい。追いついてこいよ、という意味も含んでいるんだろう。本当に優しくて温かで清いひとだ。船でも励ましてくれた。そしてこういう何気ない面でも独特の柔らかさを垣間見せてくれる。いいひとだ、本当。


 レイリンさん。尊く美しく優しいひと。このひとに見あうだけの男になりたいね。


 その為には修練あるのみだ。けど、宿の庭で魔攻をぶっ放すわけにいかないだろうからそこは相談してみよう。ひとまず理解しないと。……犬の嫌がらせに注意しながら。


 それから飛ぶように時間はすぎていって十時にはお茶を淹れてもらったので少しわからない、わかりにくい部分を解説してもらい、これくらい理解が進んでいるなら、と。


「昼食ったら魔攻練習場へいくか?」


「あ、あるんだ。そういうの」


「もちろん。各町に配備されているさ」


 へえ。そういうものなんだ。いつどこでどんな町に滞在しようとも自己研鑽ができるように、ってことなんだろうな。なので、自分は二つ返事でお願いして読書を終えた。


 と、同時に昼食がきたのでテーブルの上を片づけてから食事の盆を取りにいった。


 レイリンさんも食事を取って元のお席に戻り、フロウの飯を準備してやってから食べはじめる。朝よりはがっつりメニューでございますね。蒸し野菜のサラダ。鮭のムニエルとクリームコロッケ。たっぷり野菜とマカロニのスープ。ご飯。小さいがパンケーキ。


 自分はメープルシロップを、レイリンさんはジャムをつけてデザートを平らげ、ご馳走様をした自分たちは盆をカートに片づけて部屋の外へだして外出準備を整え、完了。


 レイリンさんがいう魔攻練習場というのに連れていってもらい、みっちりしごかれたわけだが、《電蛇バクリスト》の時よりずっと、うんと楽に習得できた。アレか、中剣だったから? でも備えができたので、宿に戻って触りだけ、と新しい本を読んでいったのだった。


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