0152 世の中、アホいっぱい☆


 今回のパーティは、ではどうなんだろう。もしもクソ自慢の見栄っ張りに獰猛な魔物が持ち込まれたらブラック化するか? それともそこほど危険なものは規制があるか?


 自分もゼリーに取りかかりながら考え込んでいるとレイリンさんが首を傾げた。質問があればってことなので、この際だ。疑問という疑問は解消しておいて、特訓しよう。


「パーティクエストがブラック化することってのはあります? 魔物が持ち込まれるって話でしたけど、手に負えない魔物が連れ込まれ、たりとかはさすがにない、ですか」


「残念だが、ある。一部の稀なケースに限ってだが実例があるらしい。俺が聞いた話では弩級のアホが遺伝子組み換えで小型化させた上級魔ケルベロスを持ち込んで持ち主含めパーティ参加者たちの三分の一が死傷したらしいぞ。ちなみに持ち主は胃袋にいった」


「えげげげっ」


「同感だ、ユウト。今回、誰が参加して誰が主催かグリクスも詳しいことは当日にならねばわからないどうの書いてきた。だが、不安だからこそ保険に俺を、というわけだ」


 なるほどね。そのなんとかってひとはレイリンさんをきちんと買っている、というわけだね。詳細がわからないながら不気味さを覚えてレイリンさんならおおよその異常事態に対処できると踏んで頼ってこられた、というわけだ。保険で一大戦力を備えておく。


 たしかに、レイリンさんの話を参照するなら一応というか結構な常識人っぽいな、そのひと、グリクスさんだっけ? 自分がいろいろ納得したのを表情に見たのかレイリンさんはふっと優しく微笑んでくれた。その顔には昨日までの強張りも張り詰めもなくて。


 どことなく柔らかい顔に見える。安らいだ表情で自然と笑っている。綺麗なひと。


 でも、それ以上に本当にアレっぽっちなことで満足しているらしい。いいのかな?


 アレですよ。どこぞの性悪クソ犬と違って純だことでよか、と思っていたら左膝皿の上にある筋肉に喰い込んできた痛みに自分悲鳴もでなかったが、いっだぁあああああ!


 と、まあ心の中は大絶叫だ。これ、犯人なんて捜すまでもなく一匹なので自分はそちらにいる青白毛並みが綺麗なだけで腹は真っ黒けっけなおバカ犬を睨んだが屁とも思わないようだ。てか、いったいどういうアレで噛みつきやがってんだ、コラ野蛮犬っころ!


 自分はただちょっとはお役に立てたようで、と思っていただけだろうになに「てめえなんかがお役に立とうなんて一〇〇年、いや万年早い!」とでも言いたいのだろうか?


 だとしてもこの奇襲はないだろ。なにがどうしてどういうこじつけでがぶり、と?


 理不尽だ。不条理だ。フロウ相手に理屈が通るだの、話しあいで平穏に解決できると思う平和な頭を持って、いない自分ではあるが、それでもちょっとなくないかこれは。


 ……。あ、そう嫉妬か? あ゛ぁん? 醜い限りだなフロウてめえこの性悪な上、心狭いさらには余裕の「よ」の字一画目もない。勇者のお供として先輩であるとレイリンさんも言ったのに。はぁーあ、みっともない。で、即行バレたらしく牙がさら痛ーっ!?


 鋭い牙の列がじーわじわ嬲るように喰い込んでくるの怖いこれ貫通しないよね!?


 なんて考えて青ざめる間も牙の圧は緩まることなく少~しずつ強くなってくるの。


 いだいっ、痛! あいだだだッ! ちょ、お前フロウいい加減にしやがれっつの!


 いかにレイリンさんが看過しているといっても容赦しねえか、こん畜生犬野郎が。そんなのだからレイリンさんのご寵愛が自分の方にも流れてきたんだ。日頃の行いだな。


「……ぷっ、ふふ」


「レイリンさ、ん? 笑い事だけど笑えないくらい痛いんで助けてくれませんか?」


「いや、微笑ましくてな。フロウ、やめろ」


「グルゥ」


「うがぁー、いってぇえ……っ」


 や、やっと放しやがった。あー、もう! 畜生根性炸裂させまくりやがって痛ぇっつーの、ねえ? 誰かこの痛みの共有できるひといないか、いないのか。そうだよ、ね。


 こいつ、この犬はマジで化けの皮がぶりがうまい。他の亜人たちには愛想振りまくクセに、レイリンさんにはなおさらデレデレなクセに、自分にだけは凶暴発揮しまくり。


 嫉妬深いにもほどがある。フロウ、お前はいったいどこまでレイリンさんが好きで心酔していて、っていうかこれじゃあまるで自分がレイリンさんにつく悪い蟲扱いだぞ。


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