0151 こいつ、いろんな意味で危ない


 どう見ても、誰が見てもお前のそれは愛されてどうのから遠いぞ、フロウ。どちらかというと赤ちゃん返りで困らせている、の方がしっくりクるっつーの。レイリンさん戸惑っているじゃねえか、ってのにもいい加減気づけよ、賢いフリしただけのバカ犬野郎。


 レイリンさんを見てみろ。お前の尋常でない甘えっぷりにとうとう苦笑している。


 どうしたもんか、これは。というのが透けて見えるようだぞ、自分。なのに、フロウはいつもだったら気づく筈だがレイリンさんの「どうした?」に気づかない、ってね。


 そればかりかレイリンさんに甘々の甘え声できゅいんきゅいん鳴いて顔というか頬を彼女の胸や顔にすりすりさせている半面、自分に対してはじっとー、と湿った視線だ。


 うーん、ここまで嫉妬が深いと逆の意味で尊敬する、しちゃうぞ、フロウさんよ。


 お前、本当に犬だよな? なんかへたな人間より独占欲強くね? それともこれは自分がレイリンさんに認められて頼られているからだって言いたいのか。駄犬のクセに?


 駄犬風情がなにレイリンさんに気に入られてんだよ、身のほど知らず、クソボケってー感じかな、フロウさん? なにかな、フロウよ、お前は嫉妬の鬼だとかそういうの?


「フロウ? コラ、どうした、フロウ」


「くぅ~ん」


「んー? ひとまず飯にしよう。お前も腹減っただろう? 俺たちのも冷めちまう」


「……ひゅいーん」


 ……うん、この感じ。フロウはなんなら朝飯なんてどうでもいい! くらいの勢いっぽいがレイリンさんが自分たちの飯が冷める、と聞いてレイリンさんの為に、引いた。


 けっして自分の為じゃない。レイリンさんの為に! だろうなー。そして、なぜか知らんが自分のこと睨んできた。なんだ? レイリンさんの腹が減るのは自分のせいか?


 んなわけねえだろ、おバカ。人間誰しも生きてりゃふっつーに腹減るっての。なんで自分が作為的にレイリンさんの空腹をつくりだしたかのような目を向けてくるのか謎。


 フロウの罪捏造ぶりに自分が引いているとレイリンさんが苦笑、だったがでも笑って立ちあがり、カートまで飯を取りに来たので自分も盆を手にしてテーブルに向かった。


 レイリンさんも遅れて食事を運んでからフロウの飯を用意してやり、いいコで食えよと頭なでなでしてからご自分の食事を開けた。ので、自分のもオープン。したら、なんか蓋の向こうから熱視線を感じた。フロウが超痛い視線で刺してきていた。おま、怖っ!


 なんでしょうね。「駄犬のクセに、駄犬風情がっ、駄犬以下め!」だのと大文句したいのが目にでておる。目は口以上に。まさかそれが犬も、だなんて思いもしなかった。


 けど、フロウはレイリンさんが心配しないように自分の飯をばりぼり食べはじめたので自分も食事開始。豪華、って感じではないが素材がいいのか素朴な味が優しい品々。


 ジャガイモのポタージュ。ニンジンのからしマヨ和えサラダ。鶏の塩胡椒ソテ。ベーグル二種類。白ブドウのゼリー。土地柄がでる料理だ。素材に自信があるんだろうな。


 じゃなきゃもっと濃い味で誤魔化す。そうしないのは素材をつくる農家さんも高級志向を理解して極上の品をつくっているから。手間暇を惜しまず細かく味をつくる技能。


 うん、美味しい。からしマヨもええ塩梅で配合してあって辛いもの苦手な自分も普通にポリポリ食べられる。ベーグルも天然酵母かな? ちょっとだけど独特の酸味ある。


 いやぁ、朝から実に贅沢な食事。これで下の方から熱烈ぶっ殺視線ビームがなければもっと素敵な朝の食事タイムだったんだが、残念賞っつーことでフロウの目がギラギラ光っている。殺気むんむんすぎるよ、お前。自分がなにをしたって言いたいんだろうか?


 と、自分のげっそりした様をなにか勘違いしたのか、レイリンさんが口を開いた。


「疲れているのか? なんなら今日は勉強休んでもいいぞ、ユウト。なにしろ腐れパーティが待っているんだし、そいつに向けて鋭気を満たしておくのも仕事のうちだから」


「あ、大丈夫です。それにそのパーティでなにかあった時に手札がない方が困るんで今勉強中のものはせめて習得しておきたいです。つか本当にあるんですか、クソイベが」


「残念なことにな。毎度だと諦めもつく」


 毎度のことすぎて諦めの境地にいたっているっつーことでしょうか。なんという苦労星が憑いているんだろ、自分。不幸星だけで充分だって、それ系の星はもう要らない。


 ジャガイモと牛乳、塩胡椒だけで味つけされたコンソメベースのポタージュを冷まし冷まし食べるレイリンさんも気のせいでなければげっそりはあ、って感じでお疲れ感たっぷりでている。彼女のことなのでいやな予感はそれこそ最悪を想像しているんだろう。


 自分は身構えに一応訊いてみておく。重要項を、これだけは確認しないとっての。


「ちなみに武装はどうなりますか? まさか丸腰、素手で護衛しろなんて無茶クソ言わないですよね。レイリンさんならかろうじてできそうですけど、自分は死にますよ?」


 この時、飯ガツガツしていたフロウが耳を立てて黒い瞳をきらーん! と輝かせたのは気づかないフリをしておく。こ、この犬め。自分、死ぬに反応して喜色満面て……。


 どれだけ自分の死を望んでいるこの瞬間にさえ。冗句じゃない、なさそうってのが一番怖いぞ、フロウ。なんでお前はそんなに次から次へと恐ろし次元を超えていくんだ?


「そんなとんでもブラッククエスト、俺は取らないので安心しろ。武装道具類は武器庫カプセルに入れておけば持ち込み可だ。それに俺たちにはグリクスからの許可がある」


「ぐりくす?」


「ここ、フポーミョエルより西にいった先にある地ディウラを管理する地主で俺のお得意名士殿、と言えばわかるか? あいつはまともな貴族名士のひとりだ。人柄もいい」


 レイリンさんがブドウのゼリーをちびちび食べながら教えてくれたことを反芻するに武器に関しては持ち込みできるように事前調整がされているそうだ。そのなんたらという彼女の貴族嫌いを刺激しない、いい貴族様(?)とやらの計らいのお陰で。一安心だ。


 でも、ブラッククエストってなにさ。そんなもんがあるのか。気をつけようっと。


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