0150 アホ犬、ある意味ご乱心(?)
「ユウト、シャワー空いたぞ」
「あ、はい。ありがとうございます」
「ああ。フロウとは喧嘩していないな?」
「ウン。マァネー」
その後、初夏の少しだけ早い陽の出で目をやられた自分たちはようやくお互いを放して少し汗ばんだ体をすっきりさせるのに順番にシャワーを浴びることを提案した、と。
レイリンさんに先を譲った自分は自主的に勉強しておくことにして順番を待ちつつ警戒を怠らない。警戒の理由? そんなもん背中に刺さる視線がすべてだ。ええ、はい。
ちろり。さっき振り返った時もそうだったけどそこでぶっすー、とむくれた様子でいる魔犬が超不機嫌に自分を視線で殺せないか? と試みているわけだが、これがこの魔犬フロウが持つ角攻撃に変わった時には全力で回避しないとマジで刺殺されちまうので。
おのれっ。ちょっとどころかおおいに不思議だろ、これ。自分の命をヘリウムなど目でなく軽く見おってからにフロウこの野郎。こちらも呪いのひとつ吐きたいところだ。
野蛮犬め。嫉妬とか醜いな、おい。ただしこれを真っ向から言ったら暗殺される。
フロウのバカはレイリンさんの目がなければ絶対冗句冗談に見せかけて自分殺害事件を起こす。やるったらやる。こいつの中で自分とフロウの命重さの比重は狂っている。
なので、フロウが嫉妬狂うまま攻撃に走ってこないように注意しつつ、レイリンさんを待っていた自分は勉強で時間を潰す。ついでに想像の中でおバカ犬も踏んでおいた。
勉強、していたのだがシャワーからでてきたレイリンさんの姿を見て、その格好につい目がくたばってしまった。シャツの胸元をかなーりお緩めでらっしゃったからです。
なにそれ、なにこれ。自分の鼻血誘発している? いやまあ、鼻血なんぞ噴こうもんならフロウが「部屋汚してんじゃねえよ」とか「俺のご主人になに妄想してんだ駄犬の分際で!」だとかって制裁してくる。これこそ堂々と。正当な理由を正義に掲げて、さ。
素敵な谷間が丸見えだぜ、レイリンさん。……絶対に言わない。言えないが。そんな自殺行為誰がするもんですか。場合もクソもなく自分、いろんなものに刺されるって。
フロウの角はもちろんのこと。レイリンさんにも大剣の方でぶっ刺されるだろう。
ああ、どえすだらけ。と世を儚んでいないで自分もシャワーを浴びよーっと。で、立った瞬間自分の尻付近から牙ががちんした音がした。思わず背筋がゾッとする。野郎。
自分の油断を衝いて尻をがぶっとしようとしたんだろうが、それはなんなんだよ。
逆恨み、って感じでもないが。とりあえずこれだけ言っておこう。お前今本気だっただろうフロウ? マジで自分の尻の肉を齧り取る勢いで噛みつこうとしただろ? な?
この場合に限っては自分の煩悩が悪い、と主張する気でいるおっかないフロウをレイリンさんに任せて自分は入浴セットを持って部屋のシャワー室へ向かっていった。あ、レイリンさんのにおいがする。清涼感のある甘いにおい。彼女特有の強く優しいにおい。
脱衣所でパジャマを脱いで入浴一式を持ってシャワー室に入り、ちと古めかしい船のハンドルみたいな形状の栓を捻ってあったかい雨を頭から浴びる。あー、気持ちいい。
しっかし、今頃レイリンさんは大変だろうな。フロウが必死こいて気を引こうと甘えんぼしている様が容易に想像つく。「駄犬なんぞに負けるかよ!」みたいなノリでね。
だけど、レイリンさんはフロウがどうしてそこまで甘え病が憑いたように甘えてくるのか自覚しないんだろうな。天然怖ぇえ。と、自分ちょい戦慄する心地となったとさ。
自分は自分洗濯を終えて泡を流し、脱衣所に戻ってタオルで髪や体を拭いて持ってきていた着替えを着込む。そんで、外に抜けると予想的中。フロウが甘え倒し真っ最中。
で、こちらも予想通りでレイリンさんは、といえばフロウに甘えまくられて困っているご様子。この調子だとこれまでフロウがこんなになったこと、一回もなかったのか。
嫉妬深い犬だし、些細なことでそういうことしていそうだと思ったけど、違うっぽいですね。レイリンさんはフロウにきゅんきゅんされるがまま構ってやるが困惑顔だよ。
こっちはこっちで本気でこの犬の甘えんぼの理由に見当もつかないみたいですね。
「ユウト、フロウはどうしたんだ?」
「……さあ?」
アホが降臨したんじゃないですか、と言えたらどんなに面白いか。このデレっぷりはマジアホが憑いたような感じだし、レイリンさんも納得しそうだがフロウは怒るだろ。
自身のことを自分に軽んじられることに対する憤りとレイリンさんに駄犬の言うことを真に受けるんですか!? という感じできっと怒り狂うであーろう。ぷぷ、ざまあ。
フロウが怒るので言わないでおいた。アホが降臨説と同時に、より濃厚にある一説たる嫉妬説を。だって言ったら「てめえ、駄犬が調子乗んな!」ってブチギレられるし。
角で滅多刺しとか、牙で骨ごと手足喰い千切られるとか、顔面を肉球パンチで整形させられるとか。……。考えただけで気が萎れる心地だぜ、フロウ。どんだけ凶暴だよ。
「失礼します。お食事です」
「あ、はいはーい。今いきます」
いつも通りのレイリンさんと非平常運転のフロウをしばらく見ていたが、ちょうど朝食が届けられた。が、フロウはレイリンさんを放さず、甘え続行中なので自分がでる。
宿のお姉さんから食事のカートを受け取って部屋に入れ、レイリンさんを見るも彼女は困った顔でじゃれてくるフロウの相手をしてやる。いや、甘やかさなくていいって。
食事来たんですからそのバカ犬に待て、をするべきじゃないの? 違うの? え、自分が変なのか、これ。ま、まあフロウの異常すぎる甘えっぷりには自分もびっくりだ。
と、不意にフロウの視線が自分をぶっ刺してきて如実に語った。「どうだ、俺の方が断然てめえなんぞより愛されている!」……とね。フロウの目がきゅぴーん! と輝いていたので格好つけたようだが全然格好悪いので自分は正義的に無視ぶっこいておいた。
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