四章 パーティクエスト

いよいよ、出陣!

0154 パーティクエスト、当日


「ユウト、準備できたか?」


「ネクタイの締め方だけ不明です」


「わかった。俺の方はもう少しかかるのでその間に他の荷物なんかを確認しておけ」


「了解です」


 アレから、あの悲しい徹夜の夜から三日後の昼さがり。昼を食べてから軽くレイリンさん指導食事のマナー教室などあったりしていい時間になったので支度開始となった。


 レイリンさんはドレスとお化粧の道具が入っていると思しきポーチを片手に脱衣所に入っていったので自分は部屋で着替える。いつもの服を脱いで、綺麗なシャツを着込み、背広、の前に防刃装備の軽量型を羽織っておく。なにがあるとも知れないしね。うん。


 なにが一番ありそう、って? ……うーん、やっぱりフロウ刺殺かな? 現在進行形で狙われまくりだもの、自分。って、この程度の装備フロウだったら容易に貫通する。


 で、正装を着込んだはいいがネクタイのやり方は前の世界でも馴染みがなかったのか見たこともないのか、なにをどうしていいやら。だったのでレイリンさんに報告した。


 わかった、ってことはやってくれるということであっているのだろうな。と、いうわけでレイリンさん準備を待つ間に他の支度をしておく。靴も履き替えて、髪を梳かし。


 三日の滞在中にレイリンさんのすすめで購入しておいた腕時計をして、姿見でちょいセルフチェックを終えておいてレイリンさんを待つ。彼女の機嫌はよい、わけではないが悪いわけでもない。パーティを前にしても今回はひとりおまけがつくからだと思――。


 ――がっぷ。


 自分というおまけがつくから気が楽なのかも、考えているとまたまた唐突にフロウががぶってきた。正装を汚さず、時計も破壊しないように手の甲付近をがっぷり……と。


 この野郎、相変わらず意地悪だ。虐めっ子大将だ。悪趣味すぎるだろ嫌がらせの多彩さと意味不明な苛烈さが。いずれにせよ、パーティを前に歯形が残りそうな勢いで噛みつかれて自分的にはげんなりだ。これ、どうせ自分が言っても放さないだろうしなぁー。


 カショ。と音がして脱衣所の扉が解錠されたのを聞き咎めてフロウが自分の手を牙から解放するが、お前ね、レイリンさんがこのくっきりつけられた歯形を見逃すとでも?


 なんだかな。まるで「俺はなにもしてません、知りません」ってのが通用するの?


「待たせ、……なんだ、また喧嘩か?」


「正確には一方的な虐め、ですね」


 そこまで言って、報告するだけはしておいてレイリンさんを見た自分だが途端固まってしまった。な、なんだ、と……っ? これ、これは現実なのか、それとも夢を見て?


「ユウト?」


 なんだ、この美しい、麗しの美女。普段のレイリンさんも充分美しくて可愛いがこれは別格だ。なんて、脳味噌がとろけそうな美しさだろう。こんな美が現実に在るとか。


 レイリンさん、お綺麗すぎる。隣に並ばねばならない自分がすごく惨めに思える。


「ガウァッ!」


「うわっち!? あ、あぶぶ、危ねえなてめえフロウこの野郎! 今の絶対喰い千切る気満々だっただろ! どういうアホな処刑案提示、をすっ飛ばして即執行だコラ!?」


 こいつ、自分がちょっとレイリンさんに見惚れただけで「駄犬風情が不敬だ」とかそういう手の罪状を述べて死刑執行ただし一部だけにしておいてやるから感謝しろ、か?


 ……。うん、フロウお前ね、ちょっとだけ一発だけでいいから蹴らしてくれない?


 一方でレイリンさんはいつも通りに険悪な自分とフロウを見て苦笑していらっしゃられるが、苦笑いするくらいならこのバカ犬をどうぞ叱ってくださいよろしくどうぞっ!


「で、どうした?」


「いえー。自分があなたに見惚れていたら一方的に罰しようとした犬が、という話」


「? 俺のなにに見惚れるんだ」


「え、全部? そのドレスもよくお似合いだし、お化粧だってめっちゃ上手でいつも以上に輝いています、レイリンさん。すさまじい破壊力です。その美貌と美体のほどは」


「そ、うか? それは世辞でも、照れるな」


 なぜ自分がお世辞言っていると思っているんだろうかこのひとは。自分にんな器用な言葉遊びできるわけないってのに。てゆうか自覚がないって恐ろしい。男の目に毒だ。


 それと照れる姿は自分(おまけでフロウ)だけが拝見できるようなので嬉しいな。


 こんな綺麗なひとが自分を連れにしてくれるなんてこの異世界人生も捨てたもんじゃなかったってことだろうな。ちょいと図々しいまでに矜持高い魔犬は相変わらずだが。


 そこも込みで考えねばレイリンさんと一緒にはいられない。レイリンさんには必ずフロウが付随する、と考えねばならないんだから。えー、なんて言えっこないし。ねえ?


 それに、その程度の障害でどうこう思うほど自分の精神脆いようでそうでもないっぽいし、フロウに言わせりゃ駄犬の分際で生意気すぎんだよ、っつー話になるわけです。


 身のほど知らずな上、ご主人様を盗ろうとするクソ犬しね、と思っているなお前?


 目に駄々漏れなんだよ、フロウこの野郎!


 こいつ、油断したら即自分のこと再起不能にしそうないや~な感じだ、この殺気。


 いや、だがしかしレイリンさんの珍しいこの姿を堪能したっていいじゃない。普段のガッチガチに固めたお堅い鎧兜姿でない格好それもこんな大胆ドレス姿って、ご褒美?


 こういうのを傾国だの傾城けいせいのと言うのかね。白い肌。薄紅のチークをふんわり乗せていて柔らかい印象に引かれた眉が美を強調している。口紅も色味のないシャンパンゴールドのグロスを軽く乗せた程度で元々の綺麗な唇の色や形を活かしていて計算がお上手。


 化粧の足し算引き算がお上手だことで。で、ドレスもレイリンさんの美体に釣りあう破壊力を備えている。形のいい大きなお胸も腰のくびれもお尻の曲線も素晴らしいね!


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