0144 たった、一言なのにね?
や、でも待てよ。これが恋だ、と決めつけるのは時期尚早じゃないか? つい見慣れない黒さんが連続ででてきてうっかりその色香だったり、意外性に惹かれただけでね?
と、いうかそういう可能性は捨て切れないどころか自分だからおおいにありえる。
そうなると、そういうふうに接していていざ違った、勘違いだったってなったら自分はまだしも黒さんに失礼すぎる。あいや、好きは好きなんだけど男女の恋だの惚れた、だのかは生憎自分、経験がないんでわからない。しかも、相手が黒さんならなおのこと。
ただの憧憬を恋情と勘違いしている可能性なんていくらでもあるじゃないか。そうだよそう。これはきっと勘違い。そう思ったら脳の奥がすっと冷えて醒めたような心地。
自分は土下座の姿勢から立ちあがって長椅子に腰かけて本の続きを読みはじめる。
でも、内容は全然頭に入ってこない。入らない理由なんて知れている。わかり切ったことだ。黒さんが気持ちをくれないだろう、という現実のパンチにいじけているから。
なにか、自分。分不相応という言葉を知らないんだろうか? 自分は黒さんの隣に立つべき者じゃない。もっと強くて逞しい野郎が彼女を支えるべきだ。そう、思うのに。
どうしても彼女の隣に立ちたいと思う。彼女の心の悲鳴に気づけるのは自分だ、という自惚れがその気持ちを増長させる。第三者の視点で見ると相当イタい。けどだって。
仕方ない、好きなんだから。大好きだ。これまでひど扱いばっかりだったけどそれでも随所で認めてくれていつも呆れながらも自分を優しく呼んでくれる声が好きだ。優しく射抜く瞳が好きだ。全部、全部全部全部……大好きなんだ。どうしようもないくらい。
「? どうした、ユウト。難しい顔して」
「……あの」
「うん、なんだ?」
「自分はあなたを想うに足る男ですか?」
「……。……は?」
「力がない。知恵もない。魔攻も勉強中で剣術も体術も全然な自分ですが、あなたを想ってもいいですか、って訊いてみたんです。目標があったらもっと頑張れるかもって」
……って、なにを訊いているんだ、自分んんんん!? アホか、恥ずかしいことこの上ないわっ! なにを、なにを恋のお相手に恋していいか、なんて訊いているんだ!?
んなもん答えようがない。もっと言って黒さんが相手するわけないんだ、自分なんつー凡人中の凡人。キング・ザ・凡人など。だから、驚くのわかるけど一蹴してくんね?
呆然としないで。なにか反応して。なに言ってんだ、とかでもいいし。寝ぼけてんのかという悪意なきいつもの暴言でもいい。とりあえず放置するのはやめてほしいなー。
じゃないと処刑犬が先走りで襲いかかってきかねないんだから。やるったらやる。
ひょんなことで処刑や処罰どころか私刑で死刑が執行されかねない。おお、怖怖ったら怖いっつーの、フロウこの野郎。お前ね、そんな目でひとを見るもんじゃないコラ。
「なぜ、そんなことを訊くんだ?」
「あ、え、えっと気に障ったなら」
「……俺を、女として見てくれるのか?」
あの、だからね。気に障ったなら謝りますからどうか明確に拒否するなりして。疑問を返さないで。自分の期待値が高まるだけならまだしもフロウが「
なーんて感じに興奮。大興奮するったらしちゃって大喜びで自分処刑を執行する。
てか、あなたが女じゃなくて誰が女だ。女性として見る方がごく一般的じゃない?
昼間のあの魔導士の女なんて眼中にも入らないくらいあなたこそがいい女でしょ。
なにかな? この世界の男連中は目が本当に腐っているってことですかね? じゃないと黒さんほどの美女がいてなんで黒さんに恋愛経験がなさそうなふうなんだ、とね。
自分がある程度腕自慢で黒さんの補助ができるようないい男だったら迷わずアプローチかけるんだけど。これが残念なことに自分弱っちダサいダメ点しかない駄男だから。
黒さんの答なんて聞くまでもなく相手にされるわけないんだから身のほどは十二分に知っているよ、自分。だから、だからだから悔しくても、淋しくても身を引くだけだ。
気高い黒さんが自分のようないろいろな、様々分野すべからくダメダメ野郎の相手なんてしてくれるわけないんだ。わかっているけど、言い聞かせてさらに突き刺さる棘。
棘が刺さって痛い。棘が喰い込んで痛い。流れていく血は自分の心が流す涙だな。
どうしようもないのに、そんなことわかっている筈なのに、どうしてうまくいかないんだろう。黒さんじゃないけど自分のモノであるこの心がこんなに御せないのはなぜ?
好き。ひとをこんなに愛しく想う心が自分にもあるってのにびっくりだけど、黒さんが相手ならなんだかどうでもいいことのように思えてくる。魅了する、ひとや自分を。
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