0024 うわぁ、いろいろヤバい
月明かり眩い闇の中、暗がりから飛びだしてきた巨大な影があった。自分はそれがナニカくらいわかっているので必死に悲鳴を堪えて影に向けて針式銃を発射。が、加減が今ひとつわからず引き金は一回だけしか引けなかった。飛びだした一発の針が影に命中。
針はまあ、おおよそ予想通りで急所からはほど遠い剛毛纏った影の脇腹に刺さる。
刺さったわけだが、なぜなのか、影――人狼は一瞬驚いたあとぐるん、と目玉がひっくり返った。まるで、劇薬を呷らされたかのよう、致死性の毒を喰らったかのように。
そのまま立ちどころで倒れる。すると、酒場の壁のところにいたらしい黒さんが寄ってきて倒れた人狼を確認し、自分に頷いてきた。え。まさか、アレで倒せたのですか?
たったの一発、それも急所でもなんでもない箇所に突き刺さっただけだったのに。
どうしたこと? でも、どうやらアレで倒せちゃったらしいです。つまり、あれ?
「黒さん、こいつらって」
「麓の方はあらかた
うぇい。それはヤバい。というわけで動きだした黒さんの後ろについていきながら質問してみる。だってこれってば自分的には結構重要だと思うんだ。だって、だってさ。
「こいつら、人狼って実は弱かったり?」
「上中級魔が弱かったら大変だぞ、ユウト」
「その位わけも、よくわかんないんですが。えっとじゃあ、人狼っておおよそどのくらい強いんですか? そんな上中級魔だとか言われてもピンとこないんですけど、自分」
「魔物には上級魔、中級魔、下級魔とおおまかな区分があり、さらにそこへ難易度の差で上中下のおまけがつけられる。人狼は中級魔の中ではかなり上の位にある魔物だよ」
説明しながら黒さんは斜面をくだっていく。酒場への道をくだり終え、適当な家屋の陰に隠れて耳を澄ませ、気配を殺し、背の大剣の柄に手をかけて周囲を警戒する彼女の説明によると人狼はやはりっつーとアレだけどかなり強い分類がされている魔物らしい。
彼女の口ぶりからするに素人がどうにかできる相手ではないっぽい。……なぜに?
だったらなぜに、自分は倒せたんだ? もやりしていると黒さんがまたも察して質問に先駆けて答を寄越してくれた。単純だったけどそれがすぎて困惑するようなことを。
「
「はえ? しるばーぶれっと? なにそれ」
マジで。それだけ言われてもピンとこないに拍車がかかるだけだっての。黒さんぜひとも、大至急、詳しい説明をくださいです。自分、頭がぱっぱらぱーになっちゃうっ!
「銀には魔を滅する力が宿るとされている。特に銀ノ弾丸は狼男を一撃で仕留めると逸話があるほどに。魔物にとって銀とは避け遠ざけるべき金属の代表格、というわけだ」
「……。この、針、まさか純銀?」
自分が気づいたまさかの可能性を口にすると黒さんが頷いた。彼女は手で続け、と合図して慎重に歩を進めはじめる。しっかりした足の運びであり、音も最低限の歩みだ。
あんな重そうな鎧を着込んでいるのに。なんの防具も着ていない自分のへちゃもちゃしている歩みの方がよほどやかましいかもしれん。そうこうして次の家屋に到着した瞬間、彼女は大剣を抜刀し、家の中へと突き立てた。あがるかすかな呻き声という断末魔。
家の中にひそんで待ち伏せていたのがいた様子。背後でかすかな物音がして自分は振り向きざま針銃を発射。今まさに襲いかからんとしていた人狼の額に着弾した銀の針。
人狼は途端に苦しみ藻搔き、針を引き抜こうとしたが間にあうわけなく、後退りして仰向けにばたん、と倒れる。……結構な重低音がしたんだが大丈夫か、これ? 思っていると黒さんが刃を引き抜き、自分についてこい、と手招きして黒さんは先行していく。
そして、家と家の間を横切って黒さんはひとつの家に滑り込んでいった。直後、くぐもった悲鳴が聞こえたので自分もその家に入って、すぐ目を逸らした。だって、半裸に剝かれた女の子がいたんだもん。そりゃ、目を逸らすのは男の礼儀というものでしょう。
家の中にはその女の子とそのコの両親、と思しき男女の死体そして人狼が一体、
女の子はガタガタ震え、悲鳴もでない様子で黒さんが彼女に今、まさに迫ろうとしていた人狼から刃を引き抜くのを見ている。黒さんは下衆を、発情した駄犬を見るような目で死した人狼を一瞥し、横に捨てる。女の子はぐすぐす言って嗚咽し、泣きはじめた。
黒さんは動かない。ので、自分が視界の端にうつった大判のタオルを女の子にかけてやって泣きじゃくる彼女を宥めるように頭を不器用だが撫でる。黒さんは変わらず周囲を警戒しているが、自分はなにがなんだかわからない。どういう、ことなんだ、これは?
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