0019 名づけまでひど仕様とか
なんというダメっぷりか。これじゃあフロウの駄犬呼ばわりを受け入れざるをえないんじゃないか、という悲しいが、現実が浮き彫りになってくる。で、そのフロウはまだ引き笑いして自分をにまにま見ている。黒さんは、顎に指当ててなにか考え事している。
憐れんでいる、という感じでもないなー? なにか思案しているように見えるが。
「……ユウ、ト」
「はへ?」
なにかお考えの真っ最中なようなので黙って自分の無能を嘆いていた自分の耳に届く声。音。呟かれたのは日本人の名前、みたいな音の連なりだったような。……ユウト?
なにそれ、黒さんの第二の名? というアホ思考は捨てておこう。んなわきゃないんだから。黒さんにまでバカ呼ばわりされたら自分ハートブレイク以上のダメージ喰う。
「あの、ユウト、って?」
「名無しでいるわけにいくまい。仮でも名前はあった方がいい。ユウトと名乗ってはどうだ? 貴様がアイシアに言ったことから日本とはあの極東の島国であろう? そこの伝統文字とされる漢字で表記するに勇ましい兎、と書いてユウトでよかろうと思うが?」
「いい名前だったのにあなたのつけ加えのせいで台無しになりました。なんで兎?」
「兎が好きなんだろう? アイシアの耳をしきりに見ていたように思ったのだが?」
「正確にはうさ耳可愛いってだけなので」
「もう面倒臭い」
お、終わった。ひどっ。終わっちまったよ。え、じゃなに自分勇ましいけど兎止まりな存在なのか!? しかも、面倒臭いって、ひとに名前つけるんだったらもっと真剣にやってよどうかお願いだから! なにその適当なの。あなたの常識と良心どこいった!?
天然仕様なのであんまり強く言えないのが悪魔的だと思うのは自分だけじゃない。
真っ黒さんめ、とは思ったが言わない。言ったら、黒さんの足下でようやく笑いのツボから回復したフロウが余裕で噛んでくるか、刺してくるか、引っ搔いてくるか……。
畜生ボディーガードにびくびくする自分だが改めて、もらった名前を胸の中、反芻してみる。ユウト、ユウトね。いや、いい名前じゃない? 漢字にするからひどいだけ。
そうしなければ、存外いい名前だと思う。もしかしたら前の世界ではそれこそキラキラネームで思い悩んでいたかもしれんし。そうなればこれの方がいいんじゃないかな?
いや、いいということにしておこう。だってどうせ、抗議しても変更なしなんだ。
しかし、名無しはダメだ、ってことは自分黒さんについていくの決定で、犬扱いも大決定ってこと? しかもフロウがおめえなんか俺以下、だのと言い腐ったので今後は飯もまともにもらえるかどうかも心配点だ。……なんだ、なんか、泣けてきたんですけど?
目覚めたそこは見知らぬ場所。記憶も名もなく、体力知力筋力もなく、器用さもいっそ清々しく一切なっしんぐ! ……なにこの罰は? どんな役病神の思し召しだ畜生!
ああ、神様の意地悪……。
「だいぶ暮れちゃいましたね」
「いいさ。今日はもう飯食って寝るだけだ。村の様子見に寄っただけのつもりがうっかり貴様などを拾ったせいで三日も足を止められた。明日は朝一でここを発つつもりだ」
「黒さん、何気なく自分刺さないで」
「俺がいつ貴様を刺した?」
「……。いえ、やっぱいいです」
「おかしなやつだな」
違う。おかしいのはあなただ。例えうっかりであっても貴様などを拾ったせいでって自分のこと諸悪の根源みたく言わないでくれませんか。村が変わりないか見に来てものの見事に自分というゴミを拾っちゃった、はあ。……だったとしてもひどすぎますから!
ああ、なんとか挽回しないと自分マジでゴミ溜めにいる駄犬の扱いそのままになっちまうっつーの。でも、そう簡単にいけば苦労ない。道のりは遠い、と思っている間に陽が暮れて赤光が帯から線となり、消えていき、青い宵が広がっていき、空には黄金の月。
「黒さん?」
ふと、黒さんの瞳が細められているのに気づく。なにかを感じ取っているような雰囲気でいる彼女に問いかけるもすぐ答はなかった。少ししてから返答があった。重い声。
「いや。今宵は満月か、と思ってな」
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