0018 就労体験の結果発表、てかトドメ?
「……すごいな、見事だ」
「ぜー、ぜー、ふひー、ひー……っ」
「ここまで見事に全滅だと逆に尊敬するぞ」
「トドメ! それトドメ刺してますから!」
自分発一生懸命、いやマジで一生を懸けた突っ込みだったんだが、黒さんはなんのそので華麗にスルーしてくだされた。……。終わり? え、終わったの反応それで全部?
黒さんの足下ではフロウが犬のクセ、器用に腹抱えて笑い転げている。爆笑です。
く、クソ。黒さんの言う通りだし、フロウを咎めるに咎められん。それくらい就労体験は散々なありさまで。ずっと、黒さんと見物していたフロウのバカ笑いもわかるさ。
農耕作業は鍬を一回振っておろしただけで重度のぎっくり腰になってしまい、黒さんの回復薬の中でも「歳寄り用なんだが」と言われたが、ぎっくり治療薬をいただいた。
んで、これはダメだという黒さん判断で引き揚げ、石切り場で切りだし作業を体験してみるも一ミリすら切れず即終了。邪魔になる前にお暇させられた。続いて黒さんは最初から望み薄、という顔だったが伐採現場にいってひーこら切り倒した、自分。……が。
切り倒した木に下敷きぷっちんで内臓的なものをぶちまけるところだったが黒さんが倒れてくる、迫ってくる木という圧殺物を片手で支えて止めてくれたばかりか作業していた土木組合のひとに片腕で抱えて渡していた。当然ボツということでお邪魔しました。
黒さんの女性にあるまじき膂力のほどにぽかんだったが途端、フロウに前足パンチを喰らって次へいってみることになった。んだが、建築関係の仕事では釘の代わりに自分の指をそれこそ古典漫画かよ? というくらいおもっくそ打ってしまい、骨折。ちーん。
黒さんの骨折用お薬を頂戴した。もうなんか痛いせいなのか、自分のダメっぷりのせいなのかわからないが、目の前が涙で滲む中、今度は村の女性衆を訪ねてみたものの。
藁編みは藁がうまく絡まず、千切れまくり。破れを繕う作業では自分の指を針で刺しまくり破けた服にこの上さらに血染め加工を施すはめに。洗濯物も洗濯板で洗っていた手が摩擦でこすれて痛くて断念。んで、今度は一般家庭で家事を、となったがもう、ね?
掃除は箒で掃いて塵取りに集め、捨てる。雑巾をかけるだけなのに、そうだとわかっているのになぜか家の物品に激突したり、なぜか逆に汚れを増やしていたりしていた。
んで、最後、早めの夕飯準備に際し、食材ではなく自分の指を切断しそうに。このボロクソっぷりに自分で泣けてくる。家人の奥さんはでも怒るより憐れみ同情していた。
しまいにゃ「これでも食べて元気だしなさい」と田舎ならではのおやつ、青菜のおやきを持たせてくれた。このすさまじい憐憫の念溢れる施しにはさすがの自分も折れた。
なにが、って心が。ぽっきりやられてしまいましたとさ。体力ない、力ない、器用じゃない、当たり前にひとができることもできない。なにこのないない拍子の壮絶さは。
そして現在、宿に戻ってきた自分は黒さんに最終通告を喰らったわけです。うん。
逆に尊敬する。とか言われて自分はブロークンハートです、黒さん。あとフロウ、お前は笑いすぎだ。犬のクセにどうやってそこまで爆笑して噎せられるんだ。すげえな。
一方、その意地悪クソ魔犬のご主人たる黒さんはそれでも村で平素行われている仕事のリストをさらってくれている。なんという義務感の強さか。ここまでダメダメだともうすべて無駄な試みだと悟ってっつかわかり切っているんだから真似でもしなくないか?
だって、検索条件が難しすぎるんだもの。単調で体力を使わず、力仕事以外で器用さを求められず、簡単なもの。そんなもん都会にいったってないわけでごぜぇましてね?
と、いうわけでしばらく無言で帳面をパラパラしていた黒さんだったが、麗しいお顔をあげてまさしくトドメとなろう最終結論を「ほらよ」とばかり投げてきてくれたよ。
「……貴様がここで働く、ならばもはや微生物にでも転生して土を豊かにするしか」
「く、黒さん? かなーりおひどい発言だって気づいていますかね? 微生物って」
ホント、天然の毒吐きどえす様ほどおっかねえ者はいねえや。なにそのひど評価?
自分、蟲ですらねえの? 微生物なの? 土を豊かにだったらミミズでもよくないかなというのは贅沢なんですか? いや、しかしここまで仕事できねえ、全業種大全滅だとさすがのメンタルにもひびが入るくらいショックだわ。なに、自分の存在意義ってば?
なんて人間としてちょっと考えちゃいけないこと考えだしている自分であります。
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