0015 い、いやな需要と供給図だ


「放っておけ」


「いやいやいや、どう見てもヤバいって!」


「アイシアを勘違いしたな? アレの思考回路のすさまじさは俺でもたまに引くぞ」


 ちょぉおおおおお!? そうかそうか、そういうことか。そうなのね? 黒さんがアイシアの去り際に微妙な顔していたわけがわかった気がする。アレは自分に対してアイシアが猫かぶっているぞ、という感想からだったのか。う、うぉお、おっかねえぇえっ!


 もしかしたらのひょんなことで自分にもあの暗黒対応をされていたかもしれないだなんてこんな恐ろしいこと他にあるか? ねえって。な、なんておぞましい。危ねえぇ。


 てか、黒さんが引く、ってのはなにか基準になるものなのか? まあ、黒さんはそれなりというかかなり肝が据わっていて滅多なことでは引かないし、困惑もしないかも。


 そしたら、そうか。その黒さんが引くことがあるほどの時があるってことは……アレってばもしかしてアイシアの黒い対応の序の口ってこと? い、いやな現実だなそれ。


 てか、あのホント止めなくていいの?


「あの、マスター、止めないんですか? こう言っちゃなんですけど娘さんがとんでもない女王様の片鱗を見せて、見せまくっているんですが。しかもお客さんに対して!」


「あーっと、ひとの趣味は千差万別でだな」


 いや、違う。そういう一般にありそうなご意見を求めてじゃない。店の評判問題になるんじゃないのか? ということが言いたいんだ。だって、黒うさ女王様による加虐ぷれいサービス、って……あれれ? まさかだがあのお客さんは、もしかしてそっちの気?


 思わず、黒さんを見ると重々しく頷いた。うわぁー、需要と供給ってことなのか。


 でもなー。いかに需要があるからって供給する必要あるか? ってのは疑問点だ。


 そしてなによりなにをどうしたからアイシア、あの可愛いコがどえす女王様の気質に目覚めるって言うんだ? なにか要因がないとならなくない? このマスターじゃないのはたしかだ。自分に見ない方がいい、幸せでいられるっぽく言ったくらいだしな。謎。


「いやぁ、ははは、あのコのアレはカミさんの血が影響したんじゃないかな~っと」


「か、カミさん? アイシアのお母さん?」


「ああ。俺たち亜人に友好的だった人狼で俺が一目惚れして猛アプローチしたんだ」


「じ、人狼? って黒さんが倒したんじゃ」


「俺が来る以前から亜人のフリ、と言うと聞こえ悪いが亜人類に溶け込んで暮らしていた連中もいたんだ。穏健派とされる一派だ。かつての大老ウクシェは過激派で亜人を餌として見ていたから袂を別ち、離反していた者たちになる。アイラはそのうちのひとり」


 へ、へえ……。人狼にも派閥があるんだ。つまりそのなんだ、穏健派に属していても過激な人狼の血が入っているからアイシアはああだってことなんだな? 血って怖ぇ。


 にしても、そんな過激派だった当時の大老をなんか話聞く限りさくっと殺したっぽい黒さんも怖いな。だって、強かったんじゃねえの? そんな人狼の長ともなれば……。


 と、ここでまたまた黒さん特技で顔色から心を読まれたらしく彼女はマスターに料理を注文し終えた口で淡々と、軽く、自分の秘めた、つもりでいる疑問に答えてくれた。


「ウクシェは思想こそ過激だったが実力はそうでもなかった。むしろ、護衛についていたあいつの、クラバウスの方がよほど強く、優しく、大きく、まさしくいい男だった」


「え、それってどういうひと?」


「この周辺の人狼たちを纏める現大老だ」


「……ウクシェの跡を継いだ?」


「正確には俺が継がせた。あいつなら人狼たちを抑えるだけの威厳と実力も申し分なかったからな。それになによりあいつは穏健派に引っ張れそうな穏やかさを持っていた」


 つまり、黒さんが認める男だと。その、なんだったかさんは黒さんのお眼鏡に適ういいやつだったんだ。だから、大老という大役を任せて黒さんは他の国へ向かうように?


 彼女が自己研鑽の旅をできていたのもそのなんとかさんのお陰だということか? だって人狼たちを抑えてくれるひとがいるんだったら、村に脅威は襲いかからないもん。


 どんなひとなんだろう? とか黒さんとどういう関係になれているんだろう? そんな取り留めないことを考えているうちに食事が提供されて忙しくなった。食べるのに。


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