0014 食事に向かって自分、幻覚に遭う
抜けでた外はザ・田舎という感じで田畑が広がって青々と植物、野菜が葉を茂らせているし、そこで作業している村のひとたちもいる。遠くでは威勢のいい掛け声が聞こえてくるのでなにか農作業以外にも仕事があるようだ、というのが知れた。で、黒さんは。
さっさと歩いていっていて、宿屋と思しき建物があるところから少しだけくだって斜めの線で歩いていっている。てか、歩幅広っ! あの、お淑やかにとは言わねどももうちょっとだけ女性だということを意識して行動してはどうだろうか? 春と縁遠そうだ。
黒さんの春なんてそれこそ遥か遠いなにかだな、と失礼考えていると斜面の上の方にひとつ、辺境の村にしたらかなり立派で耐久性もありそうな建築物があった。目的地?
斜面をちょっとはあはあ、言いながらのぼり切ったら黒さんが先導して入っていったのにフロウが続く。あれ? 飯食いにいくって言ってなかったっけ? れ、犬いいの?
と、まあ悠長、ある意味悠長こいていられたのは扉をくぐる前までだった、自分。
なんか、聞こえるんですが。ギャアギャア、クジョジョジョ、しまいにゃアギョバチョーッなんて鳴く極彩色の鳥を発見して軽~い眩暈を覚えちまった。なにこのカオス。
ただ、カオスに遭っても腹は減ったままなわけで黒さんの姿を探すとカウンター席に発見したので駆け寄った。駆け寄ったんだが重大なことにいまさら気づいた自分です。
「なんだ、座らないのか?」
「あの、自分、お金持ってな……」
「快復祝いだ。奢ってやる。座れ。ティド、俺とこいつに無花果の炭酸割りをくれ」
「はいよ、黒さん。と、そっちのお兄ちゃんはあん時の細っこいアンちゃんか。元気になったかい? 娘がずいぶん心配していたんだが。歩けるようなら心配要らんかな?」
「……あ。ええと、お世話になりました?」
よくわからないがカウンター内にいるおっちゃんも自分助けに一役買ってくれたみたいなことを黒さんが言っていたのでお礼を述べておく。てか、娘が心配していたって?
誰だ、その娘って。なんてのはほんのちょっと男を観察したら即行理解浸透した。
男の耳。黒いうさ耳。どこかで見たと思ったがアイシアとそっくりな耳だ。なる。アイシアのお父さんってことか。……まあ、中年男のうさ耳は萌えから遠いんだがなー。
って、お世話になっておいてなにを無礼にアホ考えてんだ、自分。まったくもう。
自分で自分がアホすぎると思えるぞ、マジ。てゆうかそういや自分、アイシアにお礼言ったっけ? 言いそびれていないかな? このひとの娘ならお手伝いしている筈でこの店のどこかにはいるだろ。とりあえず黒さんが早速注文してくれた飲み物を受け取る。
細かな種子っぽい粒々が浮かぶ炭酸ジュースでひとまず黒さんが酒杯を掲げるように目の高さにやったので真似る。儀礼的にそうしたようで黒さんは炭酸ジュースを一口。
なので、自分も一口飲んでみる。甘やかな果実の風味と強炭酸の刺激が結構利いているジュースにあー、してから自分はついきょろきょろ。するとマスターがきょとんと。
「娘さんってアイシアですよね、どこ」
「……。ぁいや、今はその、見ない方が」
「は?」
今は見ない方が、ってどういうこと? とか自分がどういう意向で、と思っていると隣に座る黒さんが親指でくっ、と後方を示した。そっちは酒場のホール……あ、給仕?
ウェイトレスさんってことかな? 看板娘になりそうな可愛らしさだし、ってので振り向いてみて、見てうっかり絶句してしまう。飛び込んできた視覚情報が消化できなくて固まったと言い替えるべき? 何気なく振り向いた先にあった光景を誰が予想できた?
普通に、目がおかしくなったと思うだろう。もしくは錯覚とか幻覚扱いでもいい。
だってそこにいたのは心真っ白で天使なうさ耳お嬢さんではなくて、お心暗黒仕様な行動にでている耳の通り黒々しいうさ耳ながら凶悪な誰か、だったからだ。おかしい。
どう考えても客である男の頭をワインクーラーにガボゴボ突っ込みまくっている。
な、なに。誰だよ、アレ? アイシア、に見えなくもないかもしれないけど……。
絶対になにか間違っている。ひと違いに決まっているってだって、ガンガンにすっげえいい笑顔でガボゴボさせまくっているんだもん。そう思うのが普通。一般的。当然。
いや、仮にアイシアだとして、アイシアの姿だけど、いったいなにがどうしてどうなってそうなっているの? お尻とか胸でも触られちまったのか?
「真昼間から飲むやつ、この村にはいないというのとアレは寸分違わずアイシアだ」
すると、まるで心読んだように黒さんが突っ込みを入れてきてくれた。しかも、自分が目を逸らそうとしていたことズバリ言ってアレは間違いなくアイシアだと断言した。
いやおい、だとしても、だとしたらなにがどうしてどういう理由でアレなんだよ?
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