0007 なにももかもも全部不明!


「うぉふっ」


「ちょーっ!? 待て待て待てぃ!」


 自分が絶対痛いやつだろそれってかそれされたら顔の美醜に関わらず、惨状になるのも確定されてんじゃんよっ! 自分の顔に縦線が入っちゃうぅうう! 誰か、へるぷ!


 咄嗟にフロウのお行儀最悪あんよを捕まえて抵抗しようとするも、なに、いったいこのバカ力のほどは? なにかな? こいつも魔犬なんて呼ばれるくらいだ。強いのか?


 いや、しかし、いかに大型犬であろうとも人間様が力負けするなんてありえるな!


「フロウがじゃれるとは珍しい」


「そ、れはいい、から助け……っ」


「? その程度は手前でなんとかしろ」


 む、無茶クソ言うな! こちとら非力な現代っ子なのにそんな重っそーな鎧着ていても平気なひとの常識を押しつけんなよ。まして、このバカ力に敵うのなんて無理っす。


 一緒くたにしないでぷりーず。とかやって遊んでいる場合じゃないが黒さんからしたら自分の現状の方が意味不明らしく首を傾げている。なんで? ねえ、え? なんで?


 こ、こいつの怪力は犬の範疇におさまらない。化け物犬畜生はしかし嬲るようにゆーっくり力をさらに、加えてきていて……ちょ、ホントやめてっ! 痛いし恥ずかしい!


 顔面縦線四本ってなにそれ最新の流行ですか。んなわきゃねえっつの。あの、く、黒さん様? マジであなたの飼っている犬っころならあなたの責任で止めてくれるべき!


「黒さん、やめさせてあげてください! 彼はまだ病みあがりですらないんです!」


「おお、その通りだ、アイシア!」


 本当にいいこと言ってくれるぜ、アイシア。君が今の自分にはマジ天使に見える。


 うさ耳だけどな、まあ細かいことは言うなってことで心の天使に任命しようとも!


 すると、フロウが伺うように黒さんに振り向いた。その仕草、まるで「えー、やめちゃうのー?」とでも訊いているかのようだ。って、訊く以前の問題ですな、この野郎!


 悪魔のような犬だ、こいつは。自分の中で、心の悪魔に永久任命してやるぞ、犬!


 目覚めた先は見知らぬ森。獣に襲われかけて救ってもらったのも束の間で気絶。気絶から覚めたら犬に凶悪暴挙喰らわせられまくるという逆素敵仕様ってなに、この夢は?


 てか、さ。ホントにちょ、そろそろ本格的にきっついんでお助け願えませんかね?


「貴様、ばれてこの世界に来たのではないのか? だったら相応にスキルと身体能力増強のおまけくらい持たされただろ? それともフロウと遊んでやっている、のか?」


「な、に言っているのかわかんないし、遊んでいるとかありえない! いいから! このバカ犬をなんとかしてくれ今すぐ! じゃないと顔面に縦線四本するじゃんか!?」


「わふ? ……。ウウ、グルウルル――っ」


 うひぃ、ヤベ。フロウの声が低くなっちゃったバカ犬言うた途端。いかん、いまだ自分の顔面はピンチ真っ只中なんだ。どころか爪がどんどん深く喰い込んできたような。


 ちょ、黒さん? ホントあさっぷへるぷ!


「アイシア、どういうことだ?」


「それがその……」


 自分の顔面運命が風前の灯火だっていうのに黒さんはいっそ気持ちよく無視ってアイシアに事情を訊いているし、アイシアも受け答えていっている。……みなさん、なぜ?


 自分の痴態なんぞどうでもいいということなんですか!? ええ。ちょあのさすがにひどくないかな? いくらなんでもひどすぎると思うんだ、自分。え? 自分が異端?


 あの、贅沢言いません。フロウを止めて。


「フロウ、待て」


「うぉう、あうおう!」


「言い分はわからんでもないが、俺からしてもイレギュラーが発生しているらしい」


 それだけ言って黒さんは慌ただしく部屋をでていった。んで、フロウが背中についていってくれた。一安心。自分は筋肉疲労でぷるぷるする腕をさすり、安堵の息を吐く。


 にしても、イレギュラーが発生? ってどういうことだ。なんかおかしなこと言ったかね、自分? いや、おかしいのはあのクソ犬のじゃれを超えた暴挙だけだってーの!


 うん。自分は間違っていない。あのアホ犬が悪いんであって自分に非はない、筈。


 よぉし、一個決着した。というわけであのすんげえ味が心をへし折りまくる薬を制覇するのに動いた。もう、いっそのこと、と思って水差しの方から一気に呷ってしまう。


 んで、げっそりしながらお碗の方に残された最後の一口を飲んでうっ、となった。


 これは大至急お口の大洗浄が必要だ。自分がひどすぎる後味におげ、おえ言っているとほっそりとした指がもうひとつの水差しからコップに水を注いでくれたのが見えた。


 そのまま差しだされたそれを半ばひったくるようにして受け取った自分は喉を鳴らして飲む。んぐんぐ、ぐぼ、ごくごくごく……っ。ぶはぁっ! ああ、生き返りました。


 自分がようやく人心地ついているとアイシアがくすくす笑っているのが見えた。面白いというか? おかしな光景を見たあとでツボに嵌まったようだな、自分のなにかが。


 まあ、彼女になら多少は笑われてもいい。なにしろいろいろ面倒おかけしたみたいだし、フロウ暴挙も宥めようとしてくれたわけだしな。感謝の意は示すですよ? 自分。


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